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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第四十七話 ミヤンへの帰り道

 夕暮れが山の稜線を赤く染める頃だった。


 背後から小さな足音が聞こえた。

 ぱたぱたぱたぱた。

「……ん?」

 振り返ると山道の向こうから小さな影が転げるように走ってくる。

「ラメルおにいちゃーん!待ってぇー!やっぱりいかないでぇー!」

「ミソラ!?」

 ミソラだった。

 涙の跡もそのままに小さな足を懸命に動かしている。転びそうになりながらも立ち止まらず俺たちの背中を追いかけてきた。

「ミソラちゃん!?」

 シオが驚いて振り返る。

 ミソラは両手をいっぱいに伸ばしながらさらに速度を上げた。

「ミソラもいっしょにいくーっ!!」

「うわっ!?」

 勢いそのままに飛びつかれ俺は慌てて小さな体を受け止めた。

「ミソラ!どうしたんだ!?孤児院はどうした!」

「ぬけだしてきた!」

 ……脱走か。

「ミソラちゃん!だめでしょ!ミネおばあちゃんが心配するよ!」

 シオが慌てて駆け寄る。

「ごめんなさい……」

 ミソラは俺の外套をぎゅっと握りしめたまま顔を上げた。

 大きな青い瞳には涙がたまっていた。

「でも……ラメルのらーめん、たべられなくなるの、いや……」

「ミソラ……」

「しばらくって、いつ?すぐ?ずっと?って……わからなくて」

 俺は返事に詰まった。

 ミソラは小さな手にぎゅっと力を込めた。

「ラメルと……いっしょにいたいの」

 その目は真剣だった。

 どうしたものか。

 困ったように笑いながらミソラの頭を撫でる。

「……もう。しょうがないな」

 そして俺はミソラの目を見た。

「でもな。ミソラ。ミネさんにちゃんとお話ししてこよう」

「……うん!」


 俺たちは一度山道を引き返しミソラと一緒に孤児院へ戻ることにした。

 孤児院に着くとミソラはミネさんの前で俯いた。

「おばあちゃん……ごめんなさい」

 小さな手がミネさんの服をぎゅっと握る。

「……やっぱり、いっしょにいきたい」

「……」

「ラメルおにいちゃんたちと……いっしょがいいの」

 ミネさんはしばらくミソラを見つめていたがやがて優しく頭を撫でた。

「……そうかい」

「……だめ?」

 ミネさんは小さく首を振った。

「自分の気持ちはちゃんと決まったんだね?」

「……うん」

 ミソラがこくんと頷く。

「なら、行っておいで」

「……おばあちゃん」

 ミネさんは困ったように笑った。

「まったく。あんなに悲しそうにお別れしたのにねえ」

「だって……ラメルのらーめん、食べたいんだもん……」


 ミネさんはもう一度ミソラの頭を優しく撫でた。

「……そうかい。ミソラがそれでいいなら行っておいで」

 そして俺に向き直ると優しく微笑んだ。

「ラメルさん。この子をよろしく頼むね」

「はい。必ず守ります」

 ミソラはぱっと顔を輝かせた。

「うん!おばあちゃん、だいすき!」

 ぎゅっとミネさんに抱きつく。

 ミネさんも小さな背中を優しく抱きしめた。

 しばらくしてミソラは顔を上げると俺の手を握った。


「ラメル!いこっ!」

「ああ!」

 俺たちはミネさんに手を振った。

「それじゃあ、気をつけてね」

「はい。また必ず来ます」

「ええ。待っているわ」

 ミネさんに見送られ俺たちは今度こそ山道を下り始めた。

 ミソラは嬉しそうに俺の手をぎゅっと握っている。

 その小さな手を握り返しながら俺は前を向いた。

 こうしてミソラも俺たちの旅に加わることになった。


 山を下りて三日目。

 見覚えのある砂の海が目の前に広がった。

「やっぱり暑いな」

「帰りも日中は岩陰で過ごして夜に歩きましょう」

 シオが慣れた様子で言う。

 砂漠の街に着いたのは翌日の夜明け前だった。

 月影亭のおかみさんは俺たちを見るなり目を丸くした。


「おや。もう帰ってきたのかい」

「はい。ミヤンへの帰り道に寄らせていただきました」

「その子はミソラちゃんじゃないか」

「ええ。いろいろあって一緒に旅をすることになりました」

「そうかい。そうかい」

 おかみさんはほっとしたように笑った。

「あの子がご飯をおいしそうに食べるなんて今でも信じられないよ。あんたのおかげだ」

「いえ。あの子が自分で気づいたんです」

「ふふ。謙遜するんじゃないよ」


 おかみさんは嬉しそうにミソラの頭を撫でた。

「ミソラちゃん。いっぱい食べて元気におなりよ」

「うん!」

 ミソラは笑顔で答えた。

 おかみさんは宿代を半額にしてくれた。

 一晩ゆっくり休んで翌日の夜に出発する。


 国境の門に着いたのは二日後の昼だった。

「おお!戻ったか!」

 熊の門番が大きな手を振って迎えてくれた。

「ミネ婆さんには会えたか」

「はい。みんな元気でした」

 シオが笑顔で答える。

「そうかそうか。よかったな」

 門番は目を細めて頷いた。

「荷物の検査をするぞ。重曹を取りに行ったと聞いた。二百袋だろう?」

「はい」

「どこだ?馬車か?」

「いえ。ここです」

 俺は何も持っていない両手を広げて見せた。

「…………」

 門番が固まった。

「手ぶらじゃないか」

「ここに入ってます」

 俺は胸の前でぽんと手を叩いて光の窓を開く。

 ラーメンボックスの表示。


『重曹二百袋』


「ほぉ…………」

 しばらく無言のあと。

「……はっはっは!便利なもんだな!」

 門番は腹を抱えて笑った。

「通っていいぞ。また来い!」

「ありがとうございます」

「ミネ婆さんによろしくな」

「はい!」


 国境を越える。

 背後の山脈が遠ざかっていく。

 シオが何度も振り返った。

「寂しいか」

「はい。でも」

 シオはにっこり笑った。

「また来られますから」

「そうだな」

 俺たちは前を向いて歩き出した。


 王国の街道に入って三日目。

 夜の焚き火のそばで俺は頭の中で計画を練っていた。

 パチパチと薪がはぜる音が静かな夜に響く。

 炎を見つめながら考え込んでいると隣に座っていたショーが不思議そうに顔をのぞき込んできた。

「ラメルさん。何考えてるんですか?」

 ショーは干し肉をかじりながら首を傾げた。

 どうやら俺がずっと黙り込んでいるのが気になったらしい。

「牛乳ラーメンだ」

 俺がそう答えるとショーはきょとんと目を瞬かせた。

「牛乳ラーメンですか?」

「ああ。ヤギの乳でみそカレーラーメンは作れた。でも本格的に作るなら牛乳が欲しい」


 あのとき作ったスープも悪くはなかった。

 だが俺が目指している味にはまだ届いていない。

 濃厚な牛乳のコクとカレーの風味。

 そこに味噌の旨味を重ねればもっと満足できる一杯になるはずだ。

 俺の説明を聞いてユウが思い出したように口を開いた。

「あの温泉で牛乳を売ってましたよね?」

「そうだな。でもあれは飲むための少量だ。ラーメンにたっぷり使うには足りない」

 温泉で飲んだ牛乳はうまかった。

 けれど何杯ものラーメンを作るとなれば話は別だ。

 材料として使うならまとまった量を手に入れる必要がある。

「じゃあ、どこで手に入れるんですか?」

 ユウが期待を込めた目で俺を見つめる。


「あの牧場だ」

 俺はそう答えて以前訪れた牧場を思い出した。

 ズンダ豆とカビ米を買ったあの牧場だ。

 牛も飼っていたし牛乳を手に入れるならあそこが一番確実だろう。

「牛がいた。牛のエサにズンダ豆を使っていた。なら牛乳も分けてもらえるはずだ」

 そう説明するとユウの顔がぱっと明るくなった。

「あ!あの牧場のおじさんなら分けてくれるかもしれません!」

 ユウは嬉しそうに声を弾ませた。

 以前会った牧場の主人を思い出したのだろう。

 ショーも干し肉を持つ手を止めて俺の話に聞き入っている。


「よし。まずは牧場に寄って牛乳を手に入れよう」

 俺はそう決めると指を一本立てた。

「それに、もう一つ作りたいものがある」

 もったいぶるように言うとショーとユウがそろってこちらを向いた。

「バターだ」

 俺の言葉に二人は顔を見合わせた。

「バター?」

 ショーが聞き返す。

 その表情には興味と少しの疑問が浮かんでいた。

「牛乳から作れるんだ。みそカレー牛乳ラーメンにバターを落とすと最高にうまい」

 想像しただけで腹が鳴りそうだ。

 濃厚なスープに溶け出すバターの香り。

 カレーの風味と合わさったらどれほどの味になるだろう。

 俺が思わず笑みを浮かべているとショーも興味を引かれたようだった。

「へえ! バターって自分たちで作れるんですか?」

「ああ。牛乳の脂肪分を集めて攪拌すれば作れる。少し手間はかかるけどな」


 この世界にもバターはある。

 ただ普段の食事で当たり前のように使われる食材ではない。

 わざわざ自分たちで作る機会も少ないだろう。

 けれどラーメンに使うなら話は別だ。

 自分で作れば必要な量を用意できるし味の調整だってできる。

「バターを入れたラーメン……」

 シオがぽつりと呟いた。

 さっきまで黙って話を聞いていたシオだったが今はすっかりラーメンのことしか頭にないらしい。

 うっとりとした表情で想像を膨らませている。

「ラメルさん。バターを入れたらもっとおいしくなるんですよね?」

 シオは期待に満ちた目で俺を見つめた。

 口元にはうっすらと笑みが浮かび唾を飲み込む音まで聞こえてきそうだ。

「ああ。きっと最高の一杯になる」

 俺が力強くうなずくとシオの尻尾が嬉しそうに揺れた。


 牛乳にバター。必要な材料は見えてきた。

 あとは牧場でどれだけ分けてもらえるかだ。

「どうやって作るんですか?」

 ショーが興味津々といった様子で尋ねた。

「牛乳から脂肪の部分を取り出して攪拌する。つまり振るんだ」

「振る?」

 ショーは不思議そうに首を傾げた。

「そうだ。瓶に入れて延々と振るんだ」

「ええええ!?」

 説明を聞いた途端ショーが悲鳴を上げた。どうやら作り方を聞いて後悔したらしい。

「それ俺たちがやるやつですよね!?」

「頼んだぞ」

 俺が笑顔で肩を叩くとショーはがっくりとうなだれた。

「やっぱり!」

 その様子を見ていたミソラが小さな手を元気よく挙げた。

「わたしも振る!」

「ミソラもやるのか?」

 俺が尋ねるとミソラは満面の笑みで頷いた。

「うん!おいしいらーめんのためだもん!」

 その言葉にシオが感動したように深く頷く。

「ミソラちゃん。いい心がけです」

 シオが褒めるとミソラも嬉しそうに笑った。

「シオお姉ちゃんもやるの?」

「もちろんです!」

 二人はなぜか固い握手を交わした。

 おいしいラーメンのためなら苦労も惜しまないらしい。

 ショーだけが複雑そうな顔をしていたが焚き火のそばには楽しげな笑い声が響いていた。


 そして八月二十日の夕方。

 街道の向こうに見慣れた城壁が見えてきた。

「ミヤンだ!」

 ショーが叫んだ。

「帰ってきた!」

「ただいまー!」

 駆け出すショーとユウを追って北門をくぐる。

 ……その途端。

「兄ちゃんが帰ってきたぞおおお!」

 聞き慣れた大声が街中に響き渡った。


 声の主はダルクだった。こちらを見つけるなり両腕を大きく振りながら一直線に走ってくる。

「兄ちゃん!お帰り!」

 勢いよく駆け寄ってきたダルクが満面の笑みを浮かべる。

「ただいま戻りました」

 俺が笑顔で答えるとダルクは待ちきれないとばかりに身を乗り出した。

「いつまで待たせんだよぉ?まる一ヶ月だぞ!」

 どうやら相当寂しかったらしい。

 文句を言いながらもその顔には再会を喜ぶ笑みが浮かんでいた。

「悪かったですよ。いろいろありまして」

 俺が苦笑いで返すとダルクは豪快に笑い飛ばした。

「ええい構わん!積もる話がある!」

 そう言って俺の肩をがしがしと叩く。

 相変わらずの力強さに俺は思わず顔をしかめた。


 その間にも店の前には人だかりができ始めていた。

 見慣れた看板――『銀耳の食卓』の前ではショーの母とユウの母が弟妹たちと一緒に手を振っている。みんな俺たちの帰りを待っていてくれたようだ。

「ラメルさん!お帰りなさい!」

 懐かしい声に迎えられ俺は自然と笑みをこぼした。

「母ちゃん!」

「ショー!ユウ!元気だったかい!」

 ショーの母が二人をまとめて抱きしめた。


 ショーの母が二人をまとめて抱きしめた。

 その光景を微笑ましく眺めているとダルクがふと俺の隣に目を向けた。

「ところで兄ちゃん。この可愛い嬢ちゃんはどうしたんだ?」

 ダルクの視線の先には俺の後ろに隠れるように立つミソラがいた。

「ああ。この子はミソラ。砂漠の街で出会った孤児なんです」

 俺はミソラの頭にそっと手を置いて紹介した。

「シオが生まれ育った孤児院に預けるつもりだったんですが……」

 ちらりとミソラを見る。ミソラは少し恥ずかしそうに俺の服の裾を握っていた。

「銀耳の食卓のみんなと一緒に行きたいって言うので連れてきました」

「そうだったのか」

 ダルクは納得したように頷くとミソラに目線を合わせるように腰をかがめた。

「俺はダルクだ。よろしくな、お嬢ちゃん!」

 人懐っこい笑顔を向けられたミソラは少しだけ俺の後ろから顔を出した。

「……ミソラ。よろしくね」

 小さな声で挨拶するミソラにダルクは豪快に笑った。

「おう!遠慮せずにゆっくりしていけよ!」

 気さくな言葉にミソラはほっとしたように微笑んだ。


 やがてミソラは俺たちから少し離れたところへ歩いていくと店を見上げた。

 見慣れない建物が珍しいのか小さな目をきらきらと輝かせている。

「ここがラメルのらーめんのおみせ?」

「ああ。俺たちの店だ」

 俺が答えるとミソラはぱっと顔を輝かせた。

「すごーい!ここでらーめん作るの?」

「そうだ。これからはミソラも手伝ってくれると助かるな」

 そう声をかけるとミソラは嬉しそうに何度も頷いた。

「うん!いっぱいお手伝いする!」

 張り切るミソラの姿に俺も思わず笑みをこぼした。

 そんな俺たちのやり取りを見ていたシオも優しく微笑んでいた。


 店内に通されるとすっかり日常の光景が戻っていた。

 行列。湯気。笑い声。

 その中でダルクがひそひそ声で近づいてきた。

「ところでよぉ、兄ちゃん。聞いたか」

「何をですか?」

「男爵の件だ」

「ああ、あの悪徳貴族か」

 俺は背筋を伸ばした。

「王都の法廷で正式に判決が出たんだとよ。爵位剥奪。全財産没収。屋敷も金ぴかの噴水も競売にかけられたそうだ」

「そうですか」

「噴水は街の広場に払い下げられるって噂だぜ」

「広場に?」

「ああ。金ピカのまま噴水として使うんだと」

「…………」

 想像して吹き出した。


 あの趣味の悪い噴水が今度は街の人たちの憩いの場になるのか。

「ネリアさんはどうされていますか?」

「副ギルドマスターに正式就任だ。今日も窓口で忙しくしてる」

「そうですか」

 安心した。

「ギルドマスターは」

「謹慎が明けて復帰した。娘さんも元気そうだったぞ。たまに店にも来てる」

「よかった」

 胸の奥がじんわり温かくなった。

 全部が良い方向に進んでいる。


 ダルクがふと思い出したように首をかしげた。

「そういや兄ちゃん。もう一つ聞きたいことがあるんだが」

「何ですか?」

 俺が振り向くとダルクは少し声を弾ませた。

「ユウの誕生日が近いんだって?ショーの母ちゃんから聞いたぞ」

「えっ?」

 その一言で俺ははっとした。


 八月二十五日。

 即席ラーメン記念日。


 そしてユウの誕生日だ。

「あと五日か……」

 思わず呟くとダルクが俺の顔を覗き込んできた。

「五日だな。……兄ちゃん。何か企んでる顔してるぞ?」

 どうやら顔に出ていたらしい。

「……ええ」

 俺は口元を緩めた。

「間に合うかな?」

 頭の中に浮かんでいたのは即席ラーメンだった。

 油で揚げて乾燥させた麺。

 お湯を注ぐだけで食べられるラーメンだ。


 作り方はラーメンWalkerの灰色のページに載っているかもしれない。

 仮に載っていなくても前世の記憶がある。


 材料も製法も一から考える必要はあるだろう。

 五日で完成させるのは簡単じゃない。


 それでも――。


 ユウの十一歳の誕生日に最高のプレゼントを贈りたい。


 新しい挑戦の予感に胸が高鳴った。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回はミソラが正式に旅の仲間に加わり、ラメルたちがミヤンへ帰還するお話でした!

そして次なる挑戦は、みそカレー牛乳ラーメンとバター作り!

さらに八月二十五日はユウの誕生日。

ラメルがプレゼントに考えたのは……まさかの即席ラーメン!?

果たして五日間で完成させられるのか!?

次回もよろしくお願いします!

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