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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第四十四話 畑の隅の宝物

 翌朝。


 孤児院の裏手には山の斜面を切り開いた小さな畑があった。

 段々になった土の上に芋と豆と山菜が並んで植わっている。

 広くはないが手入れが行き届いていた。


「今日は畑のお手伝いをするぞ」

「「「はーい!」」」


 十三人の子どもたちが小さなかごや鍬を持って畑に散らばった。

 俺たちも手伝う。

 シオは慣れた手つきで芋を掘りショーとユウは子どもたちに混じって草をむしっていた。

 その輪の中にはミソラもいる。


「ミソラちゃんこっち!」

「ここの草ぬくんだよ!」

「うん」

 ミソラは小さな手で一生懸命に草を引き抜く。

 ところが抜けた拍子にバランスを崩しころんと尻もちをついた。

「あはは!」

「だいじょうぶ?」

「うん!たのしい」

 土だらけの顔でにこにこと笑っている。

 そんなミソラを子どもたちが輪になって囲んだ。

「ミソラちゃんてどこからきたの?」

「さばくのまち」

「さばくってどんなとこ?」

「あつい。でもほしがきれい」

「ほしー!」

 ミソラの周りにはあっという間に子どもたちの輪ができていた。最初は少し遠慮していた子も今ではすっかり打ち解けている。

 ……いい光景だ。


 その時だった。

 視界の端がちかっと光った。

 ラーメンマップだ。

 畑の隅。

 ごちゃごちゃと雑草が茂っている一角に小さな星がいくつも灯っている。

『★★★』

『★★★』

『★★★』

『★★★』

『★★★』

「五つ……?」

 思わず足を止めた。

 星の数はどれも三つ。

 つまりラーメン作りに適した食材が五種類もあるということだ。

 一番隅の草むらに近づく。

「あ、にいちゃんそこはちがうよ!」

 子どもたちが慌てて駆け寄ってきた。

「そこはいらない草のとこだよ!」

「いつもぬいてもぬいてもはえてくるの!」

「からくてにがいから食べられないんだよ」

「へえ」

 俺はしゃがみ込んだ。

 目の前には五種類の草が絡み合うように生えている。


『ウッコの根(★★★) 香辛料・色付け向き』

『クミーの種(★★★) 香辛料向き』

『コリアの実(★★★) 香辛料向き』

『カルダの鞘(★★★) 香辛料向き』

『シナの木皮(★★★) 香辛料向き』


「……全部、香辛料だ」

 喉がごくりと鳴った。

「ラメルさん?」

 シオが心配そうに覗き込む。

「この一帯の草は雑草ですよ?」

「お宝だぞシオ!こんなところに五種類も香辛料が生えてるんだ!」

 思わず声が弾んだ。

「またいつものですか?」

 シオが呆れたようにため息をつく。

「違うぞシオ!これはすごい発見なんだ!」

 前世では当たり前のように使っていた香辛料。

 それがこの世界では貴重品どころか存在すら知られていない。

 まさか孤児院の畑の隅で雑草扱いされているなんて誰が想像できるだろう。

 しかもラーメンマップの評価はすべて★★★。どれも一級品だ。


 俺は慎重に一つ目を引き抜いた。

 土の下からごろんと出てきたのは指ほどの太さの根だった。

 泥を払って爪で少し削ると。

 鮮やかな黄色が顔を出した。

「うわあ!」

 ショーが目を丸くした。

「めっちゃ黄色い!」

「うっこだ!」

 子どもたちが口々に叫ぶ。

「それうっこだよ!きいろくてきたない根っこ!」

「うっこ?」

「うん。ぼくたちそうよんでる!」

 ……うっこ。ウコン。

 偶然だろうか。

 俺は根を鼻に近づけた。

 土っぽい深い香り。

 その香りが記憶の底を叩いた。

「…………」

「ラメルさん?」


「次」

 震える手で二つ目の草に移る。

 小さな細長い種がびっしりとついた穂。

 指でほぐして鼻に近づける。

 温かくて少し土臭い独特の匂い。

「これは……くみー」

「くみーだ!」

 子どもたちがまた叫んだ。

「それくみー!にがい種!」

「…………」


 三つ目。

 丸くて小さな淡い茶色の実。割ってみると爽やかな柑橘のような香りがぱっと広がった。

「こりあ!」

「こりあだー!」

「それすっぱいやつ!」


 四つ目。

 緑色の細長い鞘。指で割ると中から黒い小さな種が転がり出た。

 甘くて涼しい不思議な香り。


 そして五つ目。

 木の皮の欠片を手に取り匂いを嗅ぐ。

 甘い。

 懐かしい。

 これは。


「ラメルさん!?」

 ユウが慌てて叫んだ。

「な、泣いてます!」

「泣いてない」

「泣いてます!」

「ラメルさんまた泣いてる」

 シオがくすくす笑っている。

 ……泣いていいだろう。

 これは。


 間違いない。カレーの匂いだ。

 ウコンの色。クミンの香り。コリアンダーの爽やかさ。カルダモンの甘み。シナモンの木皮の香り。

 全部ある。

 頭の中でいくつもの香りが重なっていく。

 あの黄色いルーの色。

 鼻をくすぐるスパイスの香り。

 口いっぱいに広がる複雑な味わい。

 この世界には香辛料がほとんど存在しないと思っていた。

 けれどあった。

 孤児院の畑の隅に。

 雑草として。


「…………」

 俺は五種類の草を見つめた。

 そして。

「ぷっ」

 思わず吹き出した。

「あはははは!」

「ラメルさん壊れた!?」

「壊れてない!嬉しいだけだ!」

 子どもたちが顔を見合わせている。

「にいちゃんこれそんなにすごいの?」

「ああ。すごいぞ」

 俺は子どもたちの頭をまとめてわしゃわしゃと撫でた。

「この草はな世界で一番おいしいものの素になる」

「え!?」

「ほんと!?」

「いらない草なのに!?」

「いらなくない。宝物だ」

 子どもたちが目を丸くして草むらを見つめた。

「うっこ……たからもの」

「くみー……たからもの」

「こりあも?」

「こりあもだ」

 大騒ぎになった。


「じゃあ名前も決めないとな」

 俺はにやりと笑った。

「ウッコの根。クミーの種。コリアの実。それとこっちの緑の鞘がカルダの鞘で木の皮がシナの木皮だ」

「かるだ!」

「しな!」

 子どもたちが復唱する。

「かっこいい!」

「ぼくたちのうっこがせいしきなまえになった!」

「そうだ。みんなが先に名前を付けたんだ」

 子どもたちが胸を張った。

「えへん!」

 自分たちがずっといらない草だと思っていたものが大切な宝物になった。

 そのことが嬉しいらしい。子どもたちは顔を輝かせていた。

 ……こうして五つの香辛料が俺たちの手に入った。

 子どもたちに手伝ってもらいながら畑の隅の香辛料を一つずつ丁寧に収穫していく。


 ラーメンボックスが次々と光った。

『ウッコの根を収納しますか?』

『はい』

『クミーの種を収納しますか?』

『はい』


 あっという間に五種類すべてがボックスの中に収まった。

「ありがとうな。みんなのおかげだ」

「やったー!」

 子どもたちが飛び跳ねる。

 その様子をミネさんが遠くから微笑んで見ていた。

 畑の隅に生えていた雑草が世界を変える一杯につながる。

 そんなことを子どもたちはまだ知らない。


 午後。

 子どもたちは川へ遊びに行った。

 村のはずれを流れる小さな川。澄んだ冷たい水が岩の間をさらさらと流れている。

「つめたいー!」

「わー!」

「ぼくがいちばん!」

 水しぶきを上げて子どもたちが走り回る。

 俺とショーとユウは岸辺の岩に腰を下ろして見守った。

「元気だな」

「うん」

 その真ん中でミソラも水に足を浸していた。

「つめたい。きもちいい」

 にこにこと笑っている。

 その時だった。

「うわあああん!」

 小さな男の子が泣き出した。

 水の中で転んで膝をすりむいたらしい。

 近くにいた子たちがおろおろしている。

「いたいよお」

「ええと……」

「ミネばあちゃんよんでくる!」

 誰かが駆け出そうとした。

 その前にミソラが男の子のそばへ歩いていった。

 しゃがみ込み膝に小さな手をそっと当てる。

「だいじょうぶ」

「ひっく……ひっく……」

「いたいのいたいの」

 ミソラは小さな声で歌うように囁いた。

「どっかへいけ~!」


 ……ふわり。

 そよ風が吹いた。川面に小さな波紋が広がり水しぶきがきらきらと光る。

 男の子がきょとんと目を瞬いた。

「あれ?いたくない」

「ほんと?」

「うん。ありがとうミソラちゃん」

 男の子が涙を拭いて笑顔になる。

「ミソラちゃんすごい!」

「まほうみたい!」

「えへへ」

 ミソラは照れたように笑った。

 膝の傷が消えたわけではない。

 けれど男の子はもう痛がっていなかった。


 それを見ていたショーがぽつりと呟いた。

「あの子やっぱり不思議ですね」

「ああ」

 俺は頷いた。

「でもいい子だ」

「はい」

 ユウも小さく笑った。

 ミソラが何をしたのかはわからない。

 洞窟で結晶を光らせたことといい今の出来事といい偶然で片づけるには不思議なことが続きすぎている。

 それでも。

 男の子が笑顔を取り戻したことは確かだった。


 夕暮れ。

 子どもたちは疲れ果てて孤児院に戻ってきた。

 小さな子が眠そうに目をこすっている。

 その子たちをミソラが膝に乗せて一人ずつあやしていた。

 ゆっくりと穏やかな声で歌っている。

 聞いたことのない旋律。

 やさしくて懐かしくて。

「…………」

 シオが戸口で足を止めた。

「ラメルさん」

「ん?」

「あの歌」

 シオの目が少し潤んでいる。

「なんだか知ってる気がするんです。生まれる前に聞いたみたいな」

「そうか」

 俺は黙って歌声に耳を傾けた。

 歌詞は聞き取れない。

 それなのに旋律だけは不思議と耳に馴染んだ。

 遠い昔からずっと知っていたようなそんな気がする。


 子どもたちは一人また一人と眠りに落ちていく。

 ミソラが歌い終える頃には全員がすやすやと寝息を立てていた。

 ミソラは眠った子どもたちの顔を確かめるように見回しそっと微笑んだ。

 窓の外では夕焼けが山の稜線を赤く染めていた。

 明日からは香辛料の使い方を考えよう。

 ラーメンに使うのもいい。

 けれどせっかくこれだけの香辛料が手に入ったのだ。

 いつかカレーライスも作ってみたい。

 そして。


 このおだやかな時間が少しでも長く続いてほしいと思った。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回はシオの故郷の畑で思いがけないお宝を発見!

雑草だと思われていた植物が実は貴重な香辛料でした!

ウッコの根にクミーの種、コリアの実にカルダの鞘。そしてシナの木皮。

これだけ揃えばカレーづくりも夢じゃありません!

元日本人であるラメルも「カレーライスを作ってみたい」と思ったようですが……

そう。何を隠そうラメルですから。

せっかく手に入れた香辛料もまずはラーメンに活用することになりそうです。

そして今回もミソラには不思議な一面が。

痛みを和らげる不思議な力に子どもたちを眠らせる優しい歌。

本人も気づいていない秘密が少しずつ見えてきましたね。

ラーメンの旅とともにミソラの謎もお楽しみください!

次回もよろしくお願いします!

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