↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/69

第三十六話 公開審問

 七月十五日。


 ミヤン商業ギルドの会議室は朝から人であふれていた。

 昨日の朝に監察部の三人がミヤンに入った。


 夜遅く店の裏でひっそりと打ち合わせをした。


「証拠は拝見しました」


 白髪まじりの初老の男が静かに口を開いた。首席監察官だという。落ち着いた物腰の人だった。


「ただ、現場を押さえなければ男爵は言い逃れをします。明日の審問で男爵自身に決定的な発言をさせてください。我々はその瞬間に踏み込みます」


 首席監察官の言葉に俺は頷いた。

「分かりました」

「告発の手紙を受け取った監察官から作戦は聞いています。なかなか悪い顔をなさる方だとか」

 監察官は意味ありげに笑いながら俺を見た。

「……皆さんそう言います」

 俺が苦笑すると、監察官も小さく笑った。

 やがて監察官たちは、ネリアが集めた苦情の写しや提出記録を改めて確認し始めた。

 複数の苦情に共通する筆跡の特徴。提出された時期。そして営業許可の再審査が始まるまでの経緯。


 ただし、それだけで男爵の関与を断定することはできない。

 だからこそ監察官たちは、男爵本人の発言とギルドへの指示を裏づける証拠を求めていた。


 さらに監察官たちは男爵が滞在していた宿の宿帳も確認していた。

 そこには男爵の名前と滞在期間が記されている。

 契約書に署名した場所と時期を照合するための資料だった。


 そして今日。

 長机の奥にギルドマスターの席。

 脇の小さな机にはネリアが記録係として座っている。

 その向かいの被審問者席に俺が座り広い部屋の両側には傍聴席がぎっしりと並んでいた。

 ダルクたち冒険者。串焼き屋のおっちゃん。道具屋の店主。魚屋に八百屋。街の人たちが朝から詰めかけて立ち見まで出ている。


 銀の耳の食卓は今日だけは臨時休業だ。

 扉には『審問のためお休みします』と張り紙をしてきた。

 ショーの母とユウの父は最前列。

 ショーとユウとシオもすぐ後ろの席にいる。

 弟妹たちはショーの母のひざの上でおとなしくしている。


 その傍聴席の一番後ろの隅に見慣れない三人組がいた。

 旅商人のような地味な服を着た初老の男と若い男と栗色の髪の女性。

 女性がちらりとネリアを見てかすかに頷いた。ネリアの友人だ。

 今は一般の傍聴人を装っている。

 上座の来賓席には金ピカの椅子が据えられていた。

 男爵が宿から持ち込ませたらしい。その椅子に巨大な体が収まり両脇にガリとヤケドと呼ばれている男たちが立っている。


 男爵は勝ち誇った顔で会場を見回していた。

「ふはは。見ろ。店の連中が皆うなだれておるわ」

 実際は傍聴席のほとんどが怒りで顔を真っ赤にしているのだが男爵にはそう見えたようだ。

 ……見栄っ張りの目は便利だ。


「これより」

 ギルドマスターが立ち上がった。

 声が震えている。

 顔色は紙のように白い。

「銀の耳の食卓の営業許可再審査のための審問を開始します」

 傍聴席のざわめきが静まった。


「まず苦情の内容を読み上げます」

 ネリアが一束の紙を受け取って立ち上がる。


 目を伏せて一枚ずつ読み上げた。

「『臭くて眠れない』」

「『店の前を通れない』」

「『営業を止めてほしい』」


「嘘つけ!」

 傍聴席から怒号が飛んだ。

「あの臭いが好きで通ってんだ!」

「でたらめだ!」


「静粛に!」

 ギルドマスターが木槌を鳴らす。

 手が震えている。


 男爵は満足そうに腹を撫でていた。

「ふふふ。威勢のいい連中じゃのう。吠えるだけ吠えさせておけ」


「店主ラメル」

 ギルドマスターが俺を見た。

「これらの苦情についてどう答えますか」

 俺はゆっくりと立ち上がった。

 深く息を吸って会場全体を見渡す。

 ダルクが腕を組んで頷いた。

 シオが両手を胸の前で握りしめている。

 ネリアの目が潤んでいる。


 よし。やろう。

「皆さん」

 声を張り上げた。

「まず申し上げます。苦情は事実です」

 会場が凍りついた。

「え?」

「ラメルさん!?」

 ショーが小さく叫んだ。

 ユウが慌てて口を押さえる。

 傍聴席が一気にざわめいた。


 役者はダルクだった。

「何を言ってんだ兄ちゃん!」

 ダルクが立ち上がった。

 例の棒読み演技ではなく、声に本気の悲しみがこもっている。

「あの臭いが俺たちの誇りだったんじゃねえか!」

「ダルクさん」

 俺は悲しそうに首を振った。


「確かに私の店は獣の匂いが強い。ご近所の方々に迷惑をかけたのは事実です。だから」

 ちらりと男爵を見る。

「このたび王都の大商人ボッタ・クルード男爵様のご厚意で店を救っていただくことになりました」

「な!?」

「男爵様に!?」

 傍聴席が騒然とした。


 男爵が満面の笑みで立ち上がった。

「そうじゃそうじゃ!わしが救ってやるのじゃ!」

 太い腕を広げる。

「このボッタ・クルードが銀の耳の食卓の麺の秘密を引き受け王都にて広く世に広めてやろう!そうすれば店も安泰じゃ!」

「麺の秘密を……!」

「男爵様に渡すってのか!」

 傍聴席から悲鳴に近い声が上がる。

 みんな迫真の演技だ。ありがたい。


「ラメルさん」

 ギルドマスターが蒼白な顔で言った。

「本当に譲渡するのですか」

「はい。これが麺の素の全量です」

 俺は足元から木箱を持ち上げて机の上に置いた。

 ずしりと重い箱。中には薄灰色の小瓶が三十本ぎっしりと詰まっている。

 ユウの父が夜通しかけて仕上げた『偽物』の麺の素だ。


「おお……!」

 男爵が椅子から飛び出さんばかりに身を乗り出した。

「それが麺の素の全てか!」

「はい。使い方は紙に書いてお渡しします」

 用意した紙を差し出す。


 男爵はひったくるように受け取って目を通した。

「小麦粉に三割……よくこねて長く茹でる……」

 ガリが横から覗き込む。

「男爵様やはり多すぎるのでは……」

「うるさい。本人が教えたのじゃから間違いない」

 男爵は木箱に手を突っ込み小瓶をひとつ取り出した。

 ガラス越しに薄灰色の粉が揺れる。

 男爵は嬉しそうに頬ずりした。

「これじゃ!これが麺の秘密じゃ!ふははははは!」

 勝ち誇った笑い声が会議室に響き渡る。

 その笑い声が一番高く盛り上がった時。


「それでは」

 俺はもう一枚の紙を取り出した。

「契約書の内容をここで確認させていただきます。皆さんにも証人になっていただきたいので」

「契約書?」

 男爵が少し怪訝な顔をした。

「ええ。昨夜男爵様と交わした契約書です。大切な譲渡ですから」


 俺はわざとゆっくり読み上げた。

「『麺の製法譲渡に関する契約書。一 ラメルは麺の製法および麺の素を男爵ボッタ・クルードに譲渡する』」

 男爵は上機嫌で頷いている。

「『二 男爵ボッタ・クルードは』」

 声を張る。


「『自らが命じてミヤン商業ギルドに行わせた銀の耳の食卓の営業許可再審査を直ちに取り下げる』」


 会議室がしんと静まり返った。

 ネリアが息を呑む。


 ギルドマスターの木槌が手から落ちた。

 コトンと乾いた音がやけに大きく響く。


「…………」

 誰もが言葉を失っていた。

 串焼き屋のおっちゃんが最初に口を開いた。

「今……命じてって言ったか?」

「ああ言った」

「男爵様が命じてギルドにやらせたって」

「じゃあ苦情ってのは……」


 ざわざわと波のように広がっていく。

 男爵の顔から笑いが消えた。

「な、何を言うておる」

 太い指が震えている。

「それは書面の言い回しじゃ。深い意味など」

「ですが男爵様」

 ガリが青い顔で囁いた。

「だから申し上げたのです。第二条はと……」

「だ黙れ!」


 男爵は契約書を奪い取ろうとしたが俺はすでにギルドマスターの前に差し出していた。

「これは昨夜男爵様ご自身が内容を確認し署名なさったものです。印章もございます」

 男爵は口を開きかけたが周囲の視線に気づいて言葉を飲み込んだ。

 今さら契約書を否定すれば麺の製法を手に入れるために自ら署名したことまで説明しなければならない。

「くっ……小僧貴様……!」

 男爵が俺を睨みつける。

 だがもう言い逃れはできない。

 会議室の空気が張り詰めた。

 その時だった。


 会議室の一番後ろで椅子の動く音がした。

お読みいただきありがとうございます!!

もうやめて!ボッタ・クールド男爵のライフはもうゼロよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。