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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第二十四話 海鮮ラーメンと温泉の噂

 鰹節ができた翌日の夜。


 俺たちは浜辺の焚き火を囲んで海鮮ラーメンの試作に取りかかった。

 目の前には今日までに集めた海の幸が並んでいる。

 海老の頭と殻。カニの殻。ホタガイのひも。昆布に鰹節。そして麺と具材に使う魚介類。

 どれも自分たちの手で集めたものだ。

 これだけの材料を使って旨くならないはずがない。


「よし。始めるか」

 まずは大鍋に油を引いて海老の頭と殻を炒める。

 じゅわっと音が鳴った瞬間に香ばしい匂いが立ちのぼった。

 海老の殻が赤く色づき始めると潮風に乗って濃厚な香りが広がっていく。

「うわっ。すごい匂い!」

 ショーが鼻をひくつかせた。


「まだ始まったばかりだぞ」

 殻から十分に旨味を引き出したところで水を注ぐ。

 鍋の中で勢いよく湯気が上がった。

 そこへカニの殻とホタガイのひもを加える。

 火を弱めてじっくりと煮込んでいくとスープは少しずつ赤みを帯びてきた。

 海老の香りにカニの風味が重なり貝の甘い匂いが後を追う。

 これだけでも十分に旨そうだ。


 だが俺はここで手を止めなかった。

 昆布を沈めて旨味を重ねる。最後に削りたての鰹節をひとつかみ加えた。

 ふわりと広がる燻製の香り。

 海老やカニの濃厚な風味を鰹節の香ばしさが引き締めてくれる。


 前世で何度も食べた魚介系ラーメンの記憶が蘇った。

 あの店のスープはもっと複雑だった。

 煮干しや魚粉を使う店もあれば貝の旨味を前面に押し出す店もあった。

 だが今は手に入る材料だけで最高の一杯を作るしかない。


 カエシは醤油と魚醤を合わせたものにした。

 魚醤はほんの少し。入れすぎれば独特の香りが勝ってしまう。

 醤油の香ばしさを残しながら海の旨味を引き立てる程度に調整する。

 味見をすると塩気の奥から魚介の甘みが広がった。


「……よし」


 最後に麺を茹でる。

 使うのは自分用に取っておいた焼き重曹で打った中華麺だ。

 かん水の代わりに使えると分かってからは俺のラーメン作りも随分と進歩した。

 黄色みを帯びた麺を湯切りしてどんぶりへ。

 具には茹でたエビとイカとホタガイの貝柱。それからカニの爪と磯で採ったワカメをたっぷり入れる。


 仕上げに熱々のスープを注いだ。

 赤みを帯びた黄金色のスープから湯気が立ちのぼる。


 海老の香り。

 鰹節の燻製香。

 醤油の香ばしさ。

 そしてその奥に感じる貝の甘み。


 俺は思わず息を呑んだ。

「できた。海鮮ラーメンだ」

 四人分のどんぶりを並べる。

「いただきます!」

 全員で一斉に麺をすすった。

 その瞬間。

 四人の動きが止まった。

「…………」

「…………」

「……海が口の中にいます」

 ショーが呆然と呟いた。


「それはちょっと大げさじゃないか?」

 そう言いながら俺ももう一口すすった。


 ……いや。分かる。

 海老の濃厚な旨味にカニの風味。

 昆布と鰹節がそれらをまとめ上げている。

 魚醤が加わることで味に厚みが生まれ醤油が全体を引き締めていた。

 しかも具材がまたいい。


 ぷりっとしたエビやイカに甘みのあるホタガイ。旨味の詰まったカニの爪肉にワカメの磯の香りが口の中をさっぱりとさせてくれる。

「甘い……」

 ユウは目を潤ませながらスープを見つめていた。


「海老も貝もこんなに甘かったんだね」

「素材が新鮮だからな。出汁の取り方でも味は変わるんだ」

 俺が説明している間にもシオは黙々と麺をすすっていた。


 ひと口。またひと口。

 やがて麺を食べ終えると残ったスープを両手でどんぶりごと持ち上げた。

 ごくごくごく。

「……ふう」

 空になったどんぶりを置く。


「おかわりありますか?」

「ありすぎる」

 俺は苦笑しながら鍋を指差した。

 どうやら全員気に入ってくれたらしい。

 そのときだった。

 四人の体がふわりと橙色に光った。


『食事効果:全員 全能力アップ』

「おおっ!」

 ショーが自分の手を見つめる。

「また強くなったのか?」

「そうみたいだな」

 素材はすべて自分たちで集めたものだ。

 ラーメンマップで確認した星の数も十分だった。

 だからこそ永続効果が発動したのだろう。


 もちろんこれはまだ試作だ。

 麺の硬さもカエシの配合も改善の余地はある。

 街に戻ればもっと完成度を上げられるはずだ。

 それでも今の俺には十分すぎるほどの一杯だった。

 焚き火の向こうには夜の海が広がっている。

 波の音を聞きながら食べる海鮮ラーメン。

 これだからラーメン作りはやめられない。


 翌朝。

 俺たちは町へ戻る準備をするために桟橋へ向かった。

 そこで見覚えのある白髪の漁師を見つけた。

 シマウオを売ってくれた漁師のおじさんだ。

「おじさん!」

 声をかけると漁師のおじさんは振り返った。

「おお。昨日の旅のモンか。今日はどうした?」

「実は昨日のお礼がしたくて。これを食べてもらえませんか?」

 俺はラーメンボックスからどんぶりを取り出した。

 昨夜作った海鮮ラーメンを温め直したものだ。


 漁師は目を丸くした。

「なんじゃこりゃ。えらく旨そうな匂いがするじゃねえか」

「海の幸を使ったラーメンです。おじさんたちが捨てている海老の頭やカニの殻で出汁を取りました」

「あの頭と殻でか?ありゃあ身もねえし臭いも出る。売り物にならんから捨てとるんだが……」

「まあ食べてみてください」

 漁師は半信半疑のまま匙を手に取った。

 まずはスープをひと口。


 その瞬間に手が止まった。

「…………」

 何も言わずにもうひと口。

 今度は麺をすすった。

 漁師はしばらく黙り込んでいたがやがて夢中になって食べ始めた。

 最後にはどんぶりを傾けてスープまで飲み干してしまった。


「……参った」

 漁師は空になったどんぶりを見つめた。

「四十年も漁師をやってきて捨てとったもんがこんなに旨くなるとはな」

「気に入ってもらえましたか?」

「気に入ったなんてもんじゃねえ。この町の連中にも食わせてやりたいくらいだ」


 漁師はどんぶりの底を確かめるように眺めてから俺たちを見た。

「なあ。あの殻や頭はまだ使うのか?」

「ええ。出汁を取るのに使いますからね」

「そうか……。なら今度から捨てる前に取っておくようにしよう。欲しけりゃいつでも言いな」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 思いがけない申し出だった。


 これなら街に戻ってからも魚介の出汁を研究できる。

 今まで捨てられていた材料が手に入るならラーメン作りの幅も広がるはずだ。

 は満足そうに頷くとふと思い出したように口を開いた。

「そういや礼をせにゃならんな」

「いえいえ。ラーメンを食べてもらえただけで十分ですよ」

「そういうわけにもいかん。お前さんら旅のモンだろ?なら帰り道に山を越えるなら中腹の岩場に寄っていくといい」

「岩場ですか?」

「そこに温泉があるんだが」

「……温泉?」


 俺の動きが止まった。

「地面から湧いた熱い湯に浸かる場所だ。疲れも傷も癒える。町の者はよく湯治に行くんだよ」

「あるんですか!この世界に温泉が!」

 思わず身を乗り出してしまった。


 温泉。


 前世の日本人にとって魂の故郷とも呼べる場所だ。

 ラーメンを食べ歩いた帰りに温泉へ浸かる。そんな休日を何度夢見たことか。

 それがこの世界でも味わえるというのか。

「ラメルさん?目が怖いですよ」

 ショーが一歩だけ後ずさった。

「オンセンって何ですか?」

 ユウも首をかしげている。


「地面から湧いてくるお湯に全身で浸かるんだ。最高に気持ちいいぞ」

「お湯に全身で……?」

 シオの耳がぺたんと伏せた。

 尻尾まで丸まっている。

「……濡れるんですか。毛が」

「そりゃ濡れるだろうな」

「…………」

 シオの顔があからさまに曇った。


「でも水とは違う。温かいし体の芯までぽかぽかになるんだ。疲れも取れるし最高だぞ」

「……本当ですか?」

「約束する」

 俺は力強く頷いた。

 シオはまだ疑わしそうだったが温泉というものに興味がないわけでもなさそうだ。


「まあ一度入ってみれば分かるさ」

 漁師は豪快に笑った。

「はっはっは!若いもんは元気でええな。山道を進めば岩場はすぐに分かる。湯気が立っとるからな」

「ありがとうございます!絶対に寄っていきます!」

 俺は深々と頭を下げた。

 帰り道を半日だけ遠回りすることになった。


 だが後悔するつもりはない。

 海鮮ラーメンを作り温泉に入る。

 これ以上の旅の楽しみがあるだろうか。

 いや、ない。

 俺は心の中で固く決意した。


 『温泉だけは絶対に外せない。』

お読みいただきありがとうございます!!

ラーメン食べて温泉に浸かる。夢のような休日です。

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