第二十二話 海は星だらけ
丘を駆け下りた先にその町はあった。
街の名前は「ソルタ」
白い壁と赤茶けた屋根が坂の上から海辺までぎっしりと並んでいる。
石畳の道は潮風でほんのり湿っていた。
港には大小の漁船がずらりと停泊している。
空気が違った。
しょっぱくて、生臭くて、でもどこか食欲をそそる匂い。
「すごい……」
「人がいっぱい……」
シオたちがきょろきょろと辺りを見回す。
籠を担いだ日焼けした漁師たち。
大声で客を呼ぶ市場の人々。
そして港から運ばれてきたばかりの魚介類。
俺たちが魚市場に足を踏み入れた瞬間。
視界が星で埋め尽くされた。
「……うわっ」
ラーメンマップがすさまじい量の星を灯している。
右も左も星。星。星。
「ラメルさん…?表情が怖いですよ?」
「これが……星の洪水……」
思わずよだれが出かけた。
魚市場は活気に満ちていた。
木の台の上に獲れたての魚介が山のように積まれている。
海水に濡れた藁の上でぴちぴちと跳ねる魚。
その中に赤い細長い影がいくつも混ざっていた。
『アカエビ(★★★)具・出汁向き』
「海老だ……!」
俺は台の前に駆け寄った。
小ぶりな赤い海老。
ぷりぷりと身が詰まっている。
「おじさんこれいくらですか?」
「ん?アカエビか?一山鉄貨二枚だよ」
「に、二枚!?」
たったの鉄貨二枚。山盛りの海老が?
この世界では食材は安い。
分かってはいたけど海の幸は輪をかけて安かった。
「ただしそいつは身が少なくてな。頭と殻ばっかりで食いごたえがねえんだ。買う奴はあんまりいねえよ」
「頭と殻……」
それこそが海老出汁の命だ。
頭と殻を油で炒めて水と一緒に煮込めば濃厚な海老の香りのスープになる。
「ありったけください!あと頭だけでもあればもらいます!」
「頭だけ?そんなもん捨ててるから持ってけ持ってけ!」
漁師は呆れ顔で頭と殻の山を袋ごと渡してくれた。タダで。
次はカニだ。
『イワガニ(★★★)具・出汁向き』
岩のようなごつごつした甲羅のカニ。
ハサミがやけに大きい。
「イワガニだな。茹でても身が少なくてなあ。ハサミには身があるけどあんま人気ねえんだよ」
「全部ください!」
『ホタガイ(★★★)具・出汁向き』
白くて扇形の大きな貝。
貝柱がぷっくりと詰まっている。
「ホタテだ……!」
「この貝も貝柱以外は捨てちまうんだ。よかったら持ってけ」
貝殻の内側のひもやワタ。
それも出汁には最高だ。
ラーメンボックスがみるみる海の幸で埋まっていく。
市場の人たちは不思議そうに俺を見ていた。
「あの兄ちゃん頭と殻ばっかり買ってくぞ……」
「何するんだあんなもん……」
……まああとで分かる。
その他にもいろいろ見つかった。
青い見た目のイカ。『アオイカ(★★)具・出汁向き』
煮干しにすると最高の小さな干し魚。『干しコワシ(★★★)出汁向き』。
アサリに似た小さな貝。『浅貝(★★)出汁向き』。
岩に張り付く黒い海藻。『黒藻(★★)具向き』。
海水を天日で干して作った粗い塩。『ソルタの塩(★★)調味料』。
どれも捨て値で買える。
「ラメルさんこれ全部ラーメンになるんですか?」
「なる。全部なる」
さて、ひと通り食材を集めたところで、ふと気がついた。
「……そういえば、朝から何も食べてないな」
「えっ?」
ショーが目を丸くした。
「ラメルさん、さっきからずっと食材のことしか考えてませんでしたよね?」
「そうだったか?」
「そうです!」
ユウにも突っ込まれてしまった。
せっかく港町に来たのだ。
食材を集めるだけで帰るのももったいない。
市場の通りに戻ると、魚を焼く屋台が目に入った。
「おう、兄ちゃん! 焼き魚はどうだい!」
串に刺された小魚が、炭火の上で香ばしい匂いを漂わせている。
「四本ください!」
受け取った串にかぶりつく。
パリッとした皮のあとに、脂の旨味が広がった。
「うまっ!」
「本当ですね! おいしいです!」
シオも夢中で頬張っている。
その隣の屋台では、殻付きのホタガイを焼いていた。
ぷっくりとした貝柱に、透明な汁がじゅわっと溢れている。
「これも四つください!」
焼きたての貝柱を頬張ると、濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。
「……これ、出汁でも具でも絶対うまいよな」
「ラメルさん、またラーメンのこと考えてます?」
「仕方ないだろ。うまいものを食べたらラーメンにしたくなるんだ」
「もう病気ですね……」
ユウが呆れたようにため息をついた。
失礼な。
これは料理人の探究心というものだ。
……まあ、否定はできないけど。
軽く腹を満たしたところで、俺たちは市場を後にした。
市場の次は磯だ。
町の外れの岩場には緑色のぬるぬるした海藻が波に揺れていた。
『名もなき海藻(★★)具向き』
「ワカメだ!」
俺は靴を脱いで浅瀬に飛び込んだ。
「ひゃあああっ!つ、冷たい!」
「ショーそっち!そのワカメ取れる?」
「うわぬるぬる!」
ショーとユウがはしゃぎながらワカメを引っ張っている。
一方。
「…………」
シオは波打ち際の手前で立ち止まっていた。
「シオ?来ないのか?」
「だだ、だって水が……毛が濡れる……しっぽが濡れる……」
耳がぺたんと伏せている。尻尾も丸まっている。
「水が苦手なわんこなんだな」
「犬獣人です!」
そう言いつつも尻尾はぶるぶると震えている。
「じゃあシオは岩の上でカニを探してくれ」
「か、カニ!?」
シオがぱっと顔を上げた。
「カニなら食べられますか?」
「食べられる。茹でるとうまい」
「やります!」
岩の隙間を覗き込む。
イワガニがちょろちょろと這っている。
「見つけた!えいっ!」
短剣ではなく素手でがしっと掴んだ。
ハサミが手に噛みつく。
「いたたたた!でも離しません!」
「頑張れシオ!」
ワカメ。カニ。貝。
四人で磯を歩き回って素材を集める。
もちろん歩いた分だけ歩数も稼げる。
夕方にはラーメンボックスは海の幸でいっぱいになっていた。
宿に戻る頃には全員潮の香りと日焼けでぐったり。
「ラメルさん……海楽しいです」
「だろ?」
「でも足がふやけました……」
シオが泣き笑いで足を拭いている。
窓の外では夕日が水平線に沈みかけていた。
……そういえば二週間で戻ると言ったんだっけ。
海の幸を前にすると時間が経つのも忘れてしまう。
どうやらもう少し滞在することになりそうだ。
ダルク、ごめん。
お読みいただきありがとうございます!!
ついに海辺の町ソルタへ到着したラメルたち。
魚市場には海老にカニに貝とラーメンに使えそうな食材が盛りだくさん!
しかも今まで捨てられていた頭や殻までラーメンの出汁に使えるとあってラメルは大興奮です。
さらに磯ではワカメの採取にも成功!
果たして集めた海の幸はどんなラーメンに生まれ変わるのでしょうか?
次回もよろしくお願いします!




