第二十話 道中は宝の山
店を出て三日目の朝。
俺たちは東へ続く街道をひたすら歩いていた。
歩く。
歩く。
歩く。
「ラメルさーん置いていきますよー!」
「ま……待ってくれ……」
前を行くショーとユウが軽やかに振り返って手を振る。
シオに至っては余裕の表情で鼻歌まで歌っていた。
ラーメンを食べ続けた三人はこの数週間で見違えるほど強くなった。
足も速い。
体力も底なし。
一方俺。
ステータスは相変わらずほぼ初期値。
毎回+1ずつは上がっているはずなのに三人との差は開く一方だ。
「……ラーメンを食べるほど俺が置いていかれる」
この世界で一番割に合わない能力かもしれない。
街道の脇にふと竹林が現れた。
ラーメンマップが星をぴかぴかと灯す。
『メマ竹(★★★)メンマ向き』
「……メンマ!?」
俺は思わず竹林へ駆け込んだ。
地面からにょきにょきと頭を出している褐色の筍。
この世界ではただの野草らしい。
「ラメルさんそれどうするんですか?」
「食べる。ただしこのままじゃなくてちょっと手をかける」
麻竹を茹でて塩漬けにして発酵させる。
それがメンマだ。
ラーメンのあのコリコリとしたトッピング。
前世で何度追加注文したことか。
ひとまず、ここで休憩がてらメンマを仕込むことにした。
俺は採れるだけメマ竹の筍を集めて茹でた。
その後しっかり塩漬けにしてラーメンボックスに放り込む。
採れるだけ採って茹でてから、塩漬けにしてラーメンボックスに放り込む。
『熟成しますか? はい/いいえ』
「お出た!」
迷わず『はい』だ!
『熟成を開始します。残り歩数:150000歩』
「十五万歩……四人で歩けば三日で終わる。海に着く頃には食べ頃だな!」
ユウがまたいつものかというような目をした。
「歩けば歩くほどメンマというものになるんですね……」
「そういうことだな!」
道中の食材探しは止まらなかった。
道端に雑草のように生えた赤くて細長い実のなる低木。
『カラチの実(★★)辛味向き』
「唐辛子だ!」
「これも食べられるんですね!真っ赤な実でおいしそうです!」
シオが好奇心で一つかじった。
「…………!!」
次の瞬間彼女は目に涙を浮かべて水筒に飛びついた。
「か、辛いですうううう!」
「あはは!シオ大丈夫か?」
「ラメルさんこれ毒じゃないんですか!?」
「毒じゃない。辛味だ。ラー油とか辛味噌が作れる」
「らーゆ……?」
「そのうち分かる」
道端の雑草の中に見覚えのある細い茎。
先端に黒い小さな粒がいっぱいついている。
『黒ゴ草の種(★★)香味向き』
「ゴマ……!雑草だったのか……!」
この世界では雑草として抜かれそのまま捨てられているらしい。
だが俺にとっては立派な食材だ。
炒って擦れば擦りゴマや練りゴマになる。
ゴマダレだって作れる!!
その他にもいろいろな食材が見つかった。
ニラに似た細長い葉。
ショウガに似た辛みのある根。
倒木に生えた黒くて薄いキノコ。
どれもラーメンマップが星を灯す。
どれも、誰も見向きもしない名もなき雑草やキノコだ。
それらを片っ端から採取してラーメンボックスに収納していく。
中身はみるみる充実していった。
しかも、全部タダだ。
「ラメルさん楽しそうですね」
「そりゃ楽しいよ。宝探しだからな」
夜焚き火を囲んで四人は道中で拾った食材を並べて眺めた。
「これだけあればいろんなラーメンが作れますね」
「ああ。海に着くのがますます楽しみだ」
夜。
焚き火を囲んだ俺たちは道中で集めた食材を並べて眺めていた。
「これだけあればいろんなラーメンが作れますね」
「ああ。海に着くのがますます楽しみだ」
海の幸だけじゃない。
道中で見つけた食材もきっと役に立つ。
新しいラーメンの可能性がどんどん広がっていく。
四日目の昼。
森の開けた場所で俺たちは一頭の大きな獣と遭遇した。
ずんぐりした体。
ピンク色の肌。
平たい鼻。
短い手足と太い胴体。
「……豚だ」
俺は思わず呟いた。
どう見ても豚だった。
あの豚だ。
豚骨ラーメンの豚。
チャーシューの豚。
「ラメルさんあれはオークです。大型の魔物ですよ」
ショーが剣を構えながら教えてくれた。
「オーク……」
俺の頭の中で豚骨スープの白濁した湯気が立ち上った。
チャーシュー。
角煮。
炙り。
夢が広がる。
俺はすぐさまラーメンマップを確認した。
……星が出ていない。
「いやおかしい。豚なのに星が出ないはずがない」
「ラメルさん?」
「きっとマップの不具合だ。あれは絶対豚だ」
「分かりました。とにかく倒しますね!」
三人が前に出た。
ショーが木剣で叩きつける。
ユウが盾で突進を受け止める。
シオが短剣を閃かせる。
あっという間だった。
数週間前まではゴブリン一匹に苦戦していた見習い冒険者たち。
今やオークをサクッと仕留めている。
「やった!」
「強くなりましたね私たち!」
三人が笑い合う。
その後ろで俺はそっと指を伸ばした。
とん。
倒れたオークに触れても何も起きない。
……そもそも星がないのだから効かないのか。
シオが手際よく解体した。
肉。骨。脂。見た目は完全に豚だ。
「ラーメンボックスに収納を」
念じた。
『ラーメン適性なし。収納できません』
「…………」
拒否された。
それでも諦めきれなかった俺は肉の一切れを焚き火で焼いてみた。
じゅうじゅうと音を立てて脂が滲み出す。
見た目だけなら実にうまそうだ。
期待を込めて一口かじる。
「……まずっ」
泥と鉄と苦味が一気に口に広がった。
脂はゴムのように硬い。
噛めば噛むほど嫌な味が増す。
「えっ。そんなにまずいんですか?」
「食べてみろ」
三人がおそるおそる一口ずつかじって同時に顔をしかめた。
「うえっ……!」
「これはちょっと……」
「……食べられたものじゃない」
俺はがくりと膝をついた。
豚だと思ったのに。
豚骨ラーメンが作れると思ったのに。
「ラメルさん元気出してください……」
「ラーメンに合わないと星がつかないんですね……」
シオがそっと俺の背中を撫でてくれた。
見た目が豚でも豚じゃない。
この世界の無慈悲な現実だった。
お読みいただきありがとうございます!
海への旅はまだまだ続きます!
道中でメンマに唐辛子に黒ゴマと、ラーメンに使える食材を次々と発見するラメル。
異世界の道端はまさに宝の山ですね!
そして、ついに出会った豚……ではなくオーク!
豚骨ラーメンにチャーシューに角煮。
夢が膨らんだのも束の間、まさかのラーメン適性なし&食べられないほどの不味さという悲劇に終わりました。
見た目が豚でも中身まで豚とは限らない。異世界は厳しいですね……。
果たしてラメルは本物の豚骨ラーメンを作れる日が来るのでしょうか?
次回もお楽しみに!




