第十七話 行かないでくれ、屋台の兄ちゃん
ショーユウラーメンが屋台の看板メニューになってから三日が過ぎた。
夕方の営業前。
俺は仲間の三人を屋台の裏に集めた。
「予定通り、明日から海辺の町へ行こうと思う」
「やった!海ですね!」
シオがぱっと顔を輝かせた。尻尾がぶんぶん揺れている。
「海かあ……俺見たことないです」
「僕も」
「海辺の町までは歩いて五日くらい。帰りの日程合わせたら二週間くらい屋台は休業することになる」
「二週間ですか。冒険者さんたち寂しがりますね」
「そこは大丈夫だろ。もともと屋台は臨時の営業みたいなものだ」
……この時の俺はまだ何も分かっていなかった。
夕方。
いつものように北門の近くに屋台を出した。
行列に並んだのはダルク一行をはじめとするいつもの冒険者たち。
「いらっしゃいませ。あの、今日はお知らせがありまして」
ラーメンを出し終わったあと俺は行列の客に向かって切り出した。
「明日から二週間ほど屋台を休みます。海辺の町へ素材を探しに行くので」
一瞬屋台の周りが静まり返った。
次の瞬間。
「「「ええええええっ!?」」」
「待て待て待て!」
「二週間!?二週間もラーメンが食えないのか!?」
冒険者たちが一斉に立ち上がった。
「そ、そんなに驚かなくても」
「驚くに決まってるだろ!」
ダルクがどんぶりをどんとカウンターに置いた。
髭面が真剣そのものだ。
「いいか?兄ちゃん。俺たちはあんたのラーメンを食ってから変わっちまったんだ」
「変わった?」
「他の飯が味気ねえ!酒場の肉もパンも薄味のスープもラーメンのあとじゃ砂を噛んでるみてえなんだよ!」
「そうだそうだ!」
「あの獣臭さが恋しくなるんだよ!夜中に鼻の奥であの臭いが蘇って眠れねえんだ!」
「討伐に行っても帰ればラーメンが食えると思うから頑張れてるんだ!」
……完全に中毒だった。
まさか、獣臭さまで恋しがられるとは思わなかった。
あの獣臭いラーメンにハマりすぎて抜け出せなくなった人たちがこんなにいる。
「ラメルさん……」
シオが困ったように俺を見上げた。
「みなさん本気ですね」
「みたいだな」
俺は頭をかいた。
「でも二週間だけですから。戻ってきたらまた屋台を——」
「ダメだ!」
ダルクが叫んだ。
「二週間ラーメンなしなんて耐えられねえ!それに、屋台は北門に夜だけだろ?俺たちは昼もラーメンが食いたいんだよ!」
「そう言われても……」
「頼む兄ちゃん!!」
ダルクががばっと頭を下げた。
「この街に店を作ってくれ!!」
「……え?店ですか?」
「そうだ!屋台じゃなくてちゃんとしたラーメン屋を!昼も夜もやってる店を頼む!」
「俺たちも金を出す!」
「店なら他の連中も来られる!」
冒険者たちが口々に叫ぶ。
俺は目を丸くした。
屋台の人気は予想以上だった。
まさか店を出してくれと頼まれるほど気に入られていたとは。
「で、でも店となると場所とか家賃とかいろいろ……」
「そこはもう用意してある!」
「用意?」
ダルクがにやりと笑った。
「実はな、兄ちゃんの屋台があまりに人気だから前から冒険者仲間で相談してたんだ。『あの屋台を店にできねえか』って。それで、みんなで金を出し合って空き家を一軒確保しておいた」
「空き家?」
「ああ。ついてきてくれ」
まさかそこまで話が進んでいるとは……。
営業をいったん切り上げて冒険者たちに案内された。
北門から少し離れた街の外れ。
目の前に現れたのは一軒の古い平屋だった。
壁はところどころ剥がれ落ちている。
屋根は瓦が数枚欠けている。
窓の木枠は歪んでガラスの代わりに板が打ち付けられていた。
「……ボロ屋ですね」
シオがぽつりと呟いた。
「ボロ屋だな」
ショーも容赦なく頷いた。
「ま、まあ見た目はあれだが!」
ダルクが慌てて弁解した。
「中は使えるんだ!見てくれ!」
扉を開けるとほこりっぽい広い部屋が広がっていた。
奥には大きなかまどがある。
かつて食堂だったらしい。
カウンターの跡も残っている。
天井には煙突へ続く大きな排気口。
「元は食堂だったそうだ。十年前に店主が亡くなってそれっきり放置されてたらしい」
「ふむ……」
俺は柱を拳で軽く叩いてみた。
ずしっとした手応え。
土台はしっかりしている。
屋根も雨漏りは直せそうだ。
「ラーメン屋を営業するくらいなら問題なさそうですね」
「だろ!?」
ダルクがぱあっと顔を輝かせた。
「家賃は月に金貨三枚。俺たちが先に半年分を払っておいた」
「は半年分!?」
「いいんだ。その代わり頼む」
彼はまた頭を下げた。
「この街に店を作ってくれ」
他の冒険者たちも一斉に頭を下げた。
……参った。
こんなふうに頼まれて断れるはずがない。
それに家賃は金貨三枚。
屋台の売上なら二日分だ。
店を開けばすぐに元は取れる。
店の修繕費や設備代は別にかかるだろうが今の売上なら何とかなるはずだ。
半年分を先に払ってもらった分も売上できっちり返していけばいい。
「……分かりました」
俺は笑って言った。
「やります。この街にラーメン屋を作りましょう」
「「「うおおおおおおっ!!」」」
冒険者たちの歓声が街の外れに響き渡った。
海辺の町への旅は少し先延ばしになりそうだが……まあいいか。
この街にラーメン屋を作る。それも悪くない。
俺は新しい店の姿を想像しながら笑みを浮かべた。
お読みいただきありがとうございます!!
なんと異世界にラーメン店が新規オープンいたします!
屋台からお店へ!
ラメルのラーメンがついに常設店舗になることに!
新しいお店ってワクワクしますよね。
どんなお店になるのか……ラーメン好きとしても楽しみです!
次回もよろしくお願いします!!




