第十話 触れるだけ
目的は食材の確保だ。
ラーメンマップが森の入り口あたりに小さな星を灯していた。
『ラーメン適性:角ウサギ★』
「あそこにいる。★一つ。ウルフほどじゃないけど肉は使えるかも」
「私がやってみましょうか?」
「いやちょっと試したいことがある」
俺は草むらにうずくまる角ウサギにそっと近づいた。
そして人差し指でちょんと触れた。
……何も起きなかった。
角ウサギはびくっと跳ねて逃げ去っていった。
「……あれ?」
「ラメルさん?」
「いやウルフの時は触っただけで倒せたのに」
俺は自分の指先を見つめた。
何が違うんだ?
もしかしてと俺は考えた。
あの時の俺は必死だった。
襲いかかってくるウルフを前にして、倒さなきゃと強く念じていた。
そして今はただの「お試し」だ。
スキルを使う意思が足りなかったのかもしれない。
俺は近くの別の角ウサギを見つけて今度ははっきりと念じた。
こいつは倒す。食材にする。
指先がちょんと触れたその瞬間。
角ウサギの体が淡い光に包まれ、跡形もなく消えた。
次の瞬間、目の前の地面に肉と骨と毛皮がころんと転がった。
「……か解体されてる」
肉は綺麗に処理され、そのまま調理に使えそうな状態だった。
どうやら「ラーメンWalker」の攻撃は触れた相手を解体済みの食材に変えるらしい。
ただし、倒す意思がなければ発動しないようだ。
「ということはあの時のウルフもか…」
シオがぽかんと口を開けた。
「……ラメルさん解体のお仕事いらないですね」
「うん。でもラーメン適性がない敵じゃないとダメなんだけどね」
俺は以前、スライムに触れても何も起きなかったことを思い出し苦笑した。
便利なスキルではあるが、何でも解決できるわけじゃないらしい。
その日俺たちはウルフを十頭、角ウサギを数羽食材として確保した。
ウルフの方はシオが短剣で先制し俺がとどめの指一本。
最初こそぎこちなかったものの、何度か繰り返すうちに二人の連携も様になってきた。
これだけあれば、ラーメンの試作には十分だろう。
街に戻った俺たちは屋台が並ぶ通りへ向かった。
焼きたての肉の匂いが通りいっぱいに漂っている。
串焼きの屋台では髭面のおっちゃんが手際よく肉を焼いていた。
「いらっしゃい。角ウサギの串焼き一本銅貨三枚だよ~」
「二本お願いします」
俺たちは串焼きを受け取り、熱々の肉にかぶりついた。
うん。こういう買い食いも悪くない。
串をかじりながら俺はさりげなく尋ねた。
「おっちゃん、屋台って誰でも出せるんですか?」
「ん?屋台を出したいのか?」
おっちゃんはにかっと笑った。
「そうだなぁ、屋台は商業ギルドで登録しないと営業できねえぞ。無許可で売ったのがバレたら罰金だぞ?」
「登録…ですか。いくらくらいです?」
「金貨五枚だ」
金貨五枚。
五万円。今の俺の財産のほとんどが飛ぶ。
「その代わりといっちゃなんだが、屋台を貸してもらえるぞ。自分で作るよりかは安いからな」
「……わかりました、ありがとうございます」
串焼きをかじりながら俺とシオは顔を見合わせた。
「ラメルさん……」
「行こう。やるしかない」
商業ギルドは冒険者ギルドとは対照的に静かで整然としていた。
受付の女性に屋台の営業登録を申し出ると書類がすぐに用意される。
「登録料は金貨五枚です。屋台はこちらの一台をお貸しします。場所は北門の近くの空き地になりますがよろしいですか?」
「北門……ですか。はいお願いします」
金貨を五枚カウンターに並べる。
母が持たせてくれた、あの金貨だ。
一枚、また一枚と手放すたびに懐が寂しくなっていく。
……母上、ありがとう。
このお金、絶対に無駄にはしません。
手続きを終えると、俺は営業許可の木札を受け取った。
これで、ようやく商売を始められる。
俺たちは職員に案内され、北門へと向かった。
街の北の外れ城門のすぐそばにぽつんと小さな屋台が置かれていた。
古びてはいるが頑丈そうな木造の屋台だ。
カウンターがあり、奥には小さな竈も備えつけられている。
「ここが……俺たちの店……」
「やったあ!」
シオが尻尾をぶんぶんと振って屋台に抱きついた。
その姿を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。
まだ何も売っていない。客が来る保証もない。
それでも、何もなかったところから自分たちの店を手に入れたのだ。
残りの所持金は金貨一枚と銀貨が六枚。
けれど不思議と胸は高鳴っていた。
「明日から開店だ」
俺は拳を握った。
「まずは簡単なウルフラーメンから始めよう」
異世界でのラーメン屋生活がいよいよ始まる。
お読みいただきありがとうございます!!
ついにラメルとシオが自分たちの屋台を手に入れました!
便利なスキルの秘密も少しずつ判明し、食材の確保も順調。
あとはラーメンを作って売るだけ……と言いたいところですが、商売はそう簡単にはいかないかもしれません。
果たして、異世界初のラーメン屋台にお客さんは来てくれるのか?
次回もお楽しみに!




