会いに行こう
第四章 会いに行こう
その夜、眠れなかった。
何度もスマホを開く。
病院の名前を検索する。
何も出てこない。
住所も。
電話番号も。
ホームページも。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
「そんなわけ……。」
僕は高校時代の友達へ連絡した。
『覚えてる? ○○病院。』
返信はすぐに来た。
『どこの病院?』
『ほら、彼女が入院してた。』
数分後。
『誰のこと?』
指先が止まった。
冗談だと思った。
だから電話をかけた。
「もしもし?」
『どうした?』
「高校の時さ、入院してた子いただろ。」
『……誰?』
「いつも放課後、病院に行ってた。」
『いや、お前普通に帰ってたじゃん。』
「違う。」
『何か勘違いしてない?』
通話が終わる。
心臓だけがうるさかった。
違う。
そんなはずない。
僕は毎日通っていた。
折り紙を折って。
病室で笑って。
約束をした。
全部、本当にあった。
⸻
翌日。
僕は実家へ向かった。
押し入れの奥。
高校時代の段ボール。
卒業アルバム。
ノート。
プリント。
写真。
全部ひっくり返す。
「ない……。」
彼女が写っている写真が一枚もない。
文化祭の集合写真にも。
体育祭にも。
卒業式にも。
いない。
「そんな……。」
手が震えた。
すると母が部屋へ入ってきた。
「何してるの?」
「母さん。」
僕はアルバムを開いたまま聞いた。
「この子、覚えてる?」
空白の教室写真を指差す。
そこには、僕の記憶では彼女が座っていた席がある。
母は不思議そうな顔をした。
「誰もいないじゃない。」
「違う!」
思わず声を荒げる。
「ここにいたんだ!」
母は黙った。
そして、小さくため息をついた。
「……疲れてるの?」
その言葉が、一番怖かった。
⸻
家を飛び出した。
気付けば駅へ向かって走っていた。
電車を乗り継ぎ、高校の最寄り駅へ。
景色は変わっていた。
コンビニ。
マンション。
新しい道路。
だけど坂道だけは昔のままだった。
息を切らしながら病院のあった場所へ向かう。
あったはずの場所。
そこには、大きな公園が広がっていた。
子どもたちが笑っている。
犬を散歩する老人。
噴水。
病院なんて、どこにもない。
「……嘘だ。」
僕は立ち尽くした。
その時だった。
風が吹く。
足元を、一羽の折り鶴が転がっていく。
真っ白な折り鶴。
誰かが落としただけかもしれない。
なのに。
その羽には、小さな癖があった。
羽の先を少しだけ内側へ折る。
それは。
僕が高校生の頃だけやっていた折り方だった。
世界で、僕しか知らない折り方。
僕は折り鶴を拾い上げる。
裏返した瞬間、息が止まった。
小さな文字が書かれていた。
『やっと、思い出してくれたね。』




