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第十七話 続編制作決定

祝賀会から数日後、正式な続編企画会議が開かれることになった。

王都劇場の大会議室には、いつもの面々が揃っていた。

ロドリック社長、バルト監督、殿下、エリス、そして私。

今日はエレナとカイルも同席している。


「では、続編の企画について話しましょう!」


ロドリックが資料を配りながら、上機嫌に切り出した。


「興行収入はまだ伸びています! この勢いのまま続編を作りましょう!」


「……まだ何も決まっていないのですか」


「決まってますよ! タイトルだけ!」


資料の表紙を見て、私は思わず眉根を寄せた。


「『氷薔薇の公爵令嬢2 炎の聖騎士団』……」


「いいタイトルでしょう!」


監督が誇らしげに言う。


「炎の聖騎士団は、原作のどこにも……」


「いません! でも続編から出します!」


予想していた展開ではあったが、実際に文字として目にすると、やはり頭が重くなる。

殿下が静かに資料を見つめていた。


「監督、まず原作には続編に該当する物語があるのでしょうか」


殿下が冷静に確認した。


「先生、原作の続きはありますか」


「……短い番外編程度です。アイリスと王子の結婚後の日常を描いた、ごく短いものが」


「それで十分です!」


監督が嬉しそうに頷いた。


「日常の話に、聖騎士団を出しましょう!」


「……日常に聖騎士団を出す必要が、どこにあるんですか」


「面白いから!」


やはり、その理由だった。

エリスが小さく「落ち着いてください」と囁く。

わかっている。

ただ、この台詞を聞くたびに落ち着くことが、少しずつ難しくなっている気がする。


「今回はドラゴンも出しましょう!」


監督が満面の笑みで続けた。


「前作で何度も保留にしてきたドラゴンです!」


「保留にしていたのは、出す必要がなかったからです」


「続編なら、必要が生まれます!」


「どうしてですか」


「聖騎士団がドラゴンに乗るからです!」


理屈になっていない理屈だった。

それでも、監督は心から楽しそうにしている。

エレナとカイルが、隣で困ったように顔を見合わせていた。


「先生、私たちも続編に出るんですよね」


エレナが少し心配そうに聞いた。


「もちろんです。出ていただきたいです」


「聖騎士団に襲われたりしないか心配で」


「私も今、同じ不安を抱いています」


殿下がそこで、改めて口を開いた。


「監督、今回も前回同様、まず原作に近い形で脚本の骨子を作成し、その上で変更点を都度確認する形を取りましょう」


「いいですね! それでいきましょう!」


監督が素直に頷いた。

この流れには既に慣れているらしい。


「ただし、ドラゴンと聖騎士団については、初稿の段階で別紙にまとめてください。本筋とは独立した形で検討します」


「了解です!」


殿下のやり方は、もう完全に手慣れたものになっていた。

全面的に拒否するのではなく、独立した検討対象として切り分ける。

これまでの戦いの中で培われた、確かな知恵だった。

会議が一段落したところで、ロドリックが満足げに資料を閉じた。


「では、続編制作、正式決定ですね!」


「……決定で、よろしいんですか」


「儲かりますから!」


ロドリックにとっては、それで全ての判断が完結するらしい。

監督が嬉しそうに立ち上がった。


「先生、今回も一緒に戦いましょうね!」


「戦う、という言葉を監督が使うのは、少し複雑な気持ちになります」


「僕も先生と戦うの、結構楽しみにしてるんですよ」


予想外の言葉だった。

監督が、いつもの陽気な笑顔のまま、少しだけ違う表情を見せた。


「先生が止めてくれるから、僕も安心して暴走できるんです。誰も止めてくれなかったら、本当にとんでもないことになりますから」


「……それは、褒め言葉として受け取っておきます」


「褒めてますよ!」


妙な信頼関係が、いつの間にか出来上がっていたらしい。

エリスが隣で小さく笑っていた。

会議室を出て、殿下と二人で廊下を歩いた。


「先生、また長い戦いになりそうです」


「……今回はドラゴンと聖騎士団ですね」


「前回より規模が大きいかもしれません」


「正直、気が遠くなります」


殿下が、ふと足を止めた。

廊下の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。


「ですが」


殿下が、こちらをまっすぐ見た。


「今回も、一緒に戦いましょう」


その言葉に、不思議と力が湧いた。

前回の戦いの記憶が、決して悪いものだけではなかったことを、改めて思い出させてくれる一言だった。


「……はい。よろしくお願いします、殿下」


「よろしくお願いします」


殿下が静かに頷いた。

夕暮れの光の中で、その表情はいつもより穏やかに見えた。


「先生」


「はい」


「祝賀会で言いかけたことを、近いうちに、必ずお話しします」


心臓が、再び高く鳴った。


「……お待ちしています」


「お待たせして、申し訳ありません」


「いえ。……楽しみにしています」


そう言うと、殿下が珍しく、はっきりと表情を緩めた。

それは、これまで見た中で一番、自然な笑顔だった。

夕暮れの廊下に、二人だけの静かな時間が流れていた。

続編という新しい戦いの始まりと、まだ聞けていない言葉への期待。

その両方を抱えながら、私は窓の外の夕焼けを見つめた。

アイリスの物語は、まだ続いていく。

そして、私自身の物語も、ここから新しくなるように感じた。







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