第6章 新生国家ジャポン編 第17話「救出作戦」
第6章 第17話です。
ついに黒砂の牙の移動市場へ突入。
今回は、ジャポンの技術と砂影の潜入技術を組み合わせた救出作戦になります。
アルゴ、クロウ、オリオン、それぞれの役割にも注目していただけたら嬉しいです。
砂漠の夜風が、静かに岩肌を撫でていた。
岩陰へ停められた影砂艇のそばで、修一たちは静かに準備を進めていた。
遠くには、移動市場の灯りが見える。
黒砂の牙。
奴隷。
移動転移。
全部があそこにある。
修一は深く息を吐いた。
「始めるか」
クロウが肩を回しながら笑う。
「ようやくだな」
その時だった。
クロウが収納袋へ手を突っ込む。
中から現れたのは、小さな黒い虫。
クワガタだった。
だが普通の虫ではない。
金属光沢。
複眼。
薄い羽。
細かな魔法回路。
クロウがニヤリと笑う。
「新型だ」
オリオンが眉をひそめた。
「……本物みてぇだな」
修一も小さく笑う。
「相変わらず器用だな。前のよりリアルだ」
アルゴの目が淡く光る。
『クワガタ型偵察機、接続完了』
クロウが指を鳴らす。
次の瞬間。
クワガタたちが羽を震わせ、一斉に夜空へ飛び立った。
音はほとんどない。
暗闇へ自然に溶け込んでいく。
普通に見れば、ただの虫だった。
市場上空。
大型車両の隙間。
見張り塔。
様々な場所へ散っていく。
その映像が、アルゴを通して空中へ映し出された。
修一たちは静かに確認する。
移動市場。
大型魔導車両。
檻。
護衛。
巡回。
そして市場中央。
巨大な転移魔法陣。
アルゴが淡々と解析する。
『大型転移魔法陣一基』
『補助魔法陣三基』
『通信装置六』
『上級魔道士反応一』
オリオンが低く言った。
「いたな」
クロウも目を細める。
「ノエルの監視役だろ」
修一は映像を見る。
市場中心部。
そこだけ警備密度が違った。
大型黒車両。
魔力障壁。
普通の奴隷とは扱いが違う。
「……ノエルのいる場所だ」
オリオンも頷いた。
「上からだとよく分かるな」
修一は静かに言った。
「まず転移魔法陣を潰す」
「通信も止める」
「敵を孤立させてから救出に入る」
クロウが口元を歪める。
「ようやく暴れられる」
修一は市場を見る。
「行くぞ」
四人は夜の砂漠へ溶け込むように動き出した。
移動市場内部。
酒の匂い。
怒鳴り声。
笑い声。
その裏で、人が売られている。
修一の目が鋭くなる。
アルゴが小さく告げた。
『転移魔法陣まで二十メートル』
市場中央。
大型車両の下。
そこに巨大な転移魔法陣があった。
かなり高度な術式。
大量の魔石。
転移用エネルギーが循環している。
アルゴが止まる。
『解析開始』
クロウとオリオンが周囲を警戒する。
修一も息を止めた。
見つかれば、一瞬で終わる。
数秒。
だが長く感じる。
やがてアルゴが静かに告げた。
『書き換え完了』
『敵転移機能停止』
修一が小さく息を吐く。
次。
通信。
クロウが収納袋から小型魔道具を取り出した。
「砂影特製だ」
ニヤリと笑う。
そして通信装置へ次々と投げ込んだ。
小さな爆発。
火花。
次の瞬間。
市場がざわつく。
「通信が切れた!?」
「転移魔法陣が反応しねぇ!」
「何が起きてる!?」
混乱。
修一が静かに言う。
「今だ」
アルゴの目が強く光った。
『戦闘形態移行』
白い光が夜を照らす。
小型形態だったアルゴの身体が、一気に変形を始める。
装甲展開。
駆動音。
白銀の巨体。
人型最終形態。
市場中の視線が集まった。
「なっ……!?」
「なんだあれ……!」
アルゴが一歩前へ出る。
『制圧開始』
圧倒的だった。
魔道士たちが一斉に魔法を放つ。
炎。
雷。
風。
だがアルゴは止まらない。
光が弾ける。
衝撃波。
一瞬で数人吹き飛ぶ。
「ぐあああ!!」
市場が悲鳴に包まれた。
修一が叫ぶ。
「クロウ! 救出へ!」
「おう!」
クロウが影へ沈む。
修一も檻へ走った。
鍵。
鎖。
檻。
クロウの魔道具で次々と解除していく。
「外へ出ろ!」
「急げ!」
怯える人々。
だが修一が叫ぶ。
「助けに来た!」
「ジャポンへ連れて行く!」
その言葉に、人々の目が変わる。
一方。
市場奥。
黒いローブの男がゆっくり立ち上がる。
ザグレス・ハイド。
ノエルを監視していた上級魔道士。
男が低く笑った。
「面白ぇことしてくれるじゃねぇか」
オリオンが剣を抜く。
「黒砂の牙は潰す」
空気が変わる。
周囲の砂が浮き始めた。
上級魔道士同士の魔力衝突。
ザグレスが先に動く。
闇魔法。
黒い刃が飛ぶ。
オリオンが土魔法で壁を作りだす。
轟音。
砂が吹き飛ぶ。
かなり強い。
オリオンが歯を食いしばる。
「ちっ……!」
一方。
修一とクロウはノエルの元へ辿り着いていた。
だが。
「開かねぇ」
クロウが舌打ちする。
特殊錠。
普通じゃない。
ノエルが小さく言った。
「……ザグレスの鍵、常に持ってる」
修一が振り向く。
「その鍵しか開けられないのか?」
ノエルは頷いた。
その瞬間。
遠くで爆音。
オリオンが吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
ザグレスが笑う。
「その程度か」
修一が叫ぶ。
「アルゴ!」
白銀の巨体が一瞬で移動する。
ザグレスが目を見開いた。
次の瞬間。
アルゴの拳が炸裂する。
轟音。
ザグレスが吹き飛ぶ。
クロウが即座に飛び出した。
収納袋から黒い手錠型魔道具を取り出す。
「終わりだ」
ガシャン。
ザグレスの両腕へ装着。
次の瞬間、男の魔力が霧散した。
「なっ……!?」
クロウが笑う。
「魔法は封じた」
修一は鍵を奪い、ノエルの檻を開けた。
小さな身体が崩れる。
修一が慌てて支える。
「大丈夫か!?」
ノエルはかなり衰弱していた。
アルゴが即座に診断する。
『栄養不足』
『疲労蓄積』
『軽度魔力汚染確認』
クロウは収納袋から食料と水を取り出した。
救出した人々にも配る。
みんな必死に口へ運んでいた。
その時だった。
遠くから怒号が響く。
増援。
修一が周囲を見る。
「まずいな……」
オリオンが地面へ手を置いた。
土魔法。
砂地が静かに沈み始める。
地下空間。
広い空洞が形成されていく。
クロウがすぐに006テントを展開した。
外からは絶対に見えない。
地下空間の奥。
そこへ救出した人々を避難させていく。
ノエルも不安そうに周囲を見ていた。
だが006の内部を見て、少しだけ目が変わる。
暖かい。
安全。
食べ物もある。
信じられないという顔だった。
その時だった。
修一の顔色が変わる。
「……しまった」
クロウが見る。
「どうした」
修一は頭を押さえた。
「転移できない」
空気が止まる。
オリオンが眉をひそめる。
「何?」
修一が苦笑した。
「紋章だ」
「エルメディアがいないと付与できない」
クロウの顔も固まる。
「……あ」
アルゴが静かに続けた。
『さらに問題確認』
『たんぽぽ村に転移魔法陣未設置』
沈黙。
オリオンが呆れた顔をする。
「お前ら、そこ忘れてたのか……」
修一は深く息を吐いた。
だが、止まれない。
ここはまだ敵地。
修一は静かに決断する。
「俺とアルゴ、オリオンで戻る」
「エルメディアを連れてくる」
ノエルが不安そうに修一の服を掴む。
修一は優しく言った。
「大丈夫」
「すぐ戻る」
ノエルは小さく頷いた。
そして。
影砂艇が再び夜の砂漠を滑り始めた。
無事、ノエルを含む奴隷たちの救出には成功しました。
ですが問題はまだ終わっていません。
転移魔法。
紋章。
未設置の魔法陣。
ジャポンの技術は便利ですが、まだ発展途中。
今回はその“未完成さ”が大きな問題として出てきました。
そして006。
地下空間に隠された移動式転移拠点は、今後のジャポンにとってかなり重要な技術になっていきます。
次回は、エルメディア合流と帰還準備。
そしてノエルの能力にも少しずつ触れていく予定です。




