第6章 新生国家ジャポン編 第4話「西の港町」
第6章 第4話です。
転移魔法陣によって世界は近くなりました。
次に修一たちが目を向けるのは、西の大陸グランウエスト。
国家としての初外交。
新たな土地、新たな価値観、そして新たな問題。
ジャポンの理想が、外の世界で初めて試される回です。
ヴァルディア地下施設。
淡く輝く転移魔法陣の上に立つのは、修一、アルゴ、エルメディアの三人だった。
リシェルは少し離れた場所で、その様子を見守っている。
「本当は私も行きたいんですけど……」
修一は苦笑する。
「お前まで留守にしたらヴァルディアが困るだろ」
「それは……そうですけど」
エルメディアが静かに言う。
「あなたには、この街を守る役目があります」
リシェルは背筋を伸ばした。
「……はい」
修一が魔法陣を見る。
「まずはカイゼルの街だ」
エルメディアが光魔法を流し込む。
魔法陣の線が一斉に輝き、空間がわずかに歪んだ。
次の瞬間――景色が変わる。
石造りの地下室。
カイゼルの街に設置された転移魔法陣だった。
待機していたカイゼルが腕を組んだまま笑う。
「……本当に一瞬ね」
修一はまだ慣れない感覚に苦笑する。
「何回やっても変な感じだ」
エリシアは目を輝かせていた。
「すごい! 急に出てきた!」
アルベルトが苦笑する。
「修一たちも大変なものを作ったな」
短い再会を喜んだ後、次はアルカディアへ向かう。
再び魔法陣が輝く。
今度は一瞬で見慣れた研究施設地下へ戻ってきた。
そこで待っていたのはクロウ、ルミナ、サラ、ミアだった。
クロウが腕を組みながら笑う。
「どうだ、便利だろ」
修一も頷く。
「世界が狭くなるな」
その日の夜。
アルカディア中央の会議室には主要な仲間たちが集まっていた。
修一、クロウ、エルメディア、ルミナ、サラ、ミア、アルゴ。
机の上には地図が広げられている。
修一が口を開く。
「転移魔法陣は軌道に乗り始めた」
「次は外との繋がりを増やしたい」
サラが頷く。
「人口も技術者もまだ足りません」
ミアも続ける。
「食料は増やせます。でも道具を作れる人はもっと欲しいです」
修一は地図の西側を見る。
「そこで、次に行ってない大陸だ」
クロウが指で西大陸を叩いた。
「グランウエスト」
「ここがいい」
ルミナが腕を組む。
「理由は?」
「金と現実で動く場所だからだ」
クロウは即答した。
「新しい技術にも食いつく」
「その代わり、治安は悪い」
エルメディアが静かに言う。
「奴隷売買が盛んな地域でもあります」
空気が少し重くなる。
修一の目が変わった。
「……そうか」
クロウが続ける。
「だからこそ行く価値がある」
「転移魔法陣を置ければ交易の中心になれる」
「そして、救える人間もいる」
修一は決断した。
「行こう」
ルミナが口を開く。
「私も行く」
だが修一は首を振った。
「まだ全快じゃない」
「今回は残ってくれ」
ルミナは不満そうだったが、やがてため息をついた。
「……分かった」
サラが微笑む。
「その代わり、私を手伝ってください」
「町づくり、人手不足なんです」
ルミナは少し考え、肩をすくめた。
「戦うより難しそうね」
翌朝。
残ってるもう一隻の船が港を出た。
乗るのは修一、アルゴ、エルメディア、クロウの四人。
魔力の嵐を超え、数日間海を進む。
西へ進むほど海は荒く、風も強い。
だが船は順調だった。
甲板で修一が地平線を見る。
「どんな場所なんだ、グランウエストって」
クロウは樽にもたれながら答える。
「欲望に正直な場所だ」
「金、力、物資、情報」
「なんでも売ってる」
「なんでも奪われる」
修一は顔をしかめる。
「嫌な予感しかしないな」
エルメディアが静かに言う。
「ですが、そういう場所ほど変化に敏感です」
「転移魔法陣の価値も理解するでしょう」
数日後。
ついに西大陸が見えた。
赤茶けた断崖。
無数の建物。
巨大な港。
ゼファード港だった。
船が近づくにつれ、喧騒が聞こえてくる。
怒鳴り声。
笑い声。
荷物を運ぶ掛け声。
潮と酒と汗の匂いが混ざった空気。
修一は呟く。
「……すげぇな」
クロウが笑う。
「ここは入口にすぎねえよ」
港へ降り立つと、すぐに異様な光景が目に入った。
鎖に繋がれた十数人の男女。
痩せた体。
怯えた目。
護衛らしき男たちが棒で追い立てている。
「早く歩け!」
「商品に傷つけんなよ!」
修一の足が止まる。
「……おい」
クロウも表情を消した。
「これがこの街の日常だ」
そのとき、鎖の列の中にいた少年が転んだ。
護衛の男が苛立ったように足を振り上げる。
「立て!」
次の瞬間。
男の身体が横へ弾き飛ばされた。
足元にはアルゴ。
低い姿勢のまま、体当たりで蹴りを止めていた。
『暴力行為を確認』
周囲がざわつく。
護衛の男が立ち上がり、顔を真っ赤にする。
「なんだこの鉄クズ!」
修一が前へ出る。
冷えた声だった。
「その人たちを解放するには、いくら払えばいい」
空気が変わる。
護衛は鼻で笑った。
「買う気か?」
「なら俺らじゃ話にならねえ」
「元締めに聞きな」
クロウが低く言う。
「来たな」
修一は視線を上げた。
港の奥。
豪奢な建物の二階から、太った男がこちらを見下ろしていた。
金の指輪を何本もつけ、周囲に護衛を従えている。
クロウが吐き捨てる。
「ゼファード港の奴隷商会頭、バルガスだ」
エルメディアが目を細める。
「……嫌な気配です」
太った男は笑いながら手を広げた。
「旅人さんよぉ!」
「港に来たなら歓迎するぜ!」
「商売の話でもしようじゃねえか!」
修一は奴隷たちを見る。
怯えた目。
希望を失った顔。
そして、こちらを見る小さな期待。
修一は静かに言った。
「商売、か」
その目には、冷たい怒りが宿っていた。
西の港町ゼファード。
新生国家ジャポン、初の外交は――
最悪の相手との対面から始まった。
グランウエスト編、入口となる回でした。
活気ある港町ゼファード。
その裏側で当たり前のように行われる奴隷売買。
修一にとって、最も許せない光景かもしれません。
技術と理想だけでは国は作れない。
現実と向き合い、時にはぶつからなければならない。
次回、ジャポン最初の外交交渉が始まります。




