第2章 冴えないオッサン、魔法至上の世界へ 第2話 ヴァルディアへの道
第2話です。
ノースガルドの大地を進みながら、
この世界の構造やカイゼルの背景が少しずつ見えてきます。
大きな展開はありませんが、
物語の土台となる回になりますので、
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
港を離れ、三人は街道を進んでいた。
石畳の道はしっかりと整備され、一定の間隔で街路樹が並んでいる。未開の地とはまるで違う。人の手が入った世界というのは、ここまで違うものかと実感させられる。
遠くには馬車が行き交い、商人らしき一団が荷を運んでいる。誰もがそれぞれの役割を持ち、迷いなく動いているように見えた。
神谷修一はそんな光景を軽く眺めながら言う。
「で、どこに向かうんだ?」
カイゼルは迷わず答えた。
「ヴァルディアです」
「ヴァルディア?」
聞き慣れない名前に、修一は少しだけ首をかしげる。
カイゼルは前を見たまま続ける。
「私が生まれ育った都市です」
「へえ」
それだけ言って、修一は特に深くは追及しない。
ただ、その言葉の重さは感じ取っていた。
しばらく歩く。
石畳を踏む音が一定のリズムで響く。
カイゼルが説明を続ける。
「賢者が治める中都市にあたります」
修一は少し考えてから言う。
「この大陸って、どういう構造なんだ?」
カイゼルは言葉を選びながら説明する。
「王都があります」
「マスターが治める都市です」
修一は小さくうなずく。
頂点の存在。
この世界の最上位。
「その下に、大賢者が治める都市が三つ」
「さらにその下に」
「賢者が治める都市が十あります」
修一は空を見上げながら言う。
「ピラミッドみたいなもんだな」
「はい」
カイゼルは素直に認める。
「魔力が高いほど、上に立ちます」
修一は横目でカイゼルを見る。
「ヴァルディアは、その中の一つか」
「……はい」
その返事は短かった。
だが、その中にほんのわずかな躊躇が混じる。
少し間が空く。
風が吹く。
木々が揺れる。
修一はその沈黙を壊さないように、あえて自然に言った。
「カイゼル、帰るのは気が重いか?」
カイゼルの足が一瞬だけ止まる。
ほんのわずか。
だが確かに。
「……いえ」
否定の言葉。
だが、その声は完全ではなかった。
修一はそれ以上、言葉を重ねない。
急かす必要はないとわかっていた。
しばらくして、カイゼルは自分から口を開いた。
「会いたい人がいます」
その言葉は、はっきりしていた。
修一は自然に返す。
「誰だ?」
「兄です」
即答だった。
修一は少しだけ驚く。
「仲いいのか?」
カイゼルは迷いなくうなずく。
「はい」
そして続ける。
「一番、信頼しています」
その言葉には、確かな重みがあった。
ただの家族ではない。
支えになっている存在。
「探索隊に入るきっかけも」
「兄が与えてくれました」
修一は小さく笑う。
「いい兄だな」
カイゼルの表情が少しだけ柔らぐ。
「……はい」
その笑みは、これまでで一番自然だったかもしれない。
だが、それは長くは続かなかった。
「父とは……」
言葉が止まる。
修一は何も言わない。
ただ、隣で歩き続ける。
急かさない。
聞き出そうともしない。
その距離が、逆に話しやすくしていた。
カイゼルは静かに続ける。
「うまくいっていません」
その声は落ち着いているが、感情が消えているわけではない。
「再婚してから」
「家の空気が変わりました」
修一は短く答える。
「そうか」
それ以上は聞かない。
必要以上に踏み込まない。
だが、無関心でもない。
その距離感が、ちょうどよかった。
少し間を置いて、カイゼルは続ける。
「ですが」
「妹とは仲が良いです」
修一は軽くうなずく。
「それは良かったな」
カイゼルは少しだけ視線を落とす。
「腹違いですが……」
そして、はっきりと言う。
「大切な存在です」
修一はその言葉をそのまま受け止める。
「それなら、十分だ」
余計な理屈はいらない。
大事なものがあるなら、それでいい。
カイゼルは少しだけ驚いた表情をする。
そして、小さくうなずいた。
「……はい」
その声は、どこか軽くなっていた。
少し沈黙が流れる。
だが、もう重さはない。
修一が軽く言う。
「じゃあ今回は」
少し間を置いて続ける。
「兄に会いに行く旅だな」
カイゼルはまっすぐ前を見たまま、はっきりとうなずく。
「はい」
その目には、もう迷いはなかった。
アルゴが淡々と情報を提示する。
「目的地 ヴァルディア」
「到達まで約二日」
修一は少しだけ肩を回す。
「結構あるな」
カイゼルは答える。
「途中に町があります」
「補給と休息が可能です」
修一はうなずく。
「じゃあ、そこで一度休もう」
「はい」
再び歩き出す。
ノースガルドの大地。
整備された道。
だが、その奥にあるものは決して単純ではない。
階級。
家族。
過去。
それぞれが絡み合っている。
その先にあるのは――
帰る場所。
そして、向き合うべきもの。
三人は進む。
それぞれの理由を胸に抱えながら。
読んでいただきありがとうございます!
ノースガルドの階層構造とともに、
カイゼルの過去や人となりも少しずつ描いていきました。
これから先、彼女の立場や選択が物語に大きく関わっていきます。
次回は途中の町に立ち寄る予定です。
そこでこの世界の現実がさらに見えてきますので、
ぜひ続きも読んでいただけたら嬉しいです!
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