嵐の前の静けさ
転校して一年。
私も小学校生活最後の年を迎えた。
それなりに友達もできて、曜子がいない生活は幸せそのものだった。
中でも
「星子ちゃん。」
同じクラスの前林蒼衣とはもう無二の親友ともいえるほどの仲になれた。
彼女はできる女子で、頭もよければ運動だってできる。
そしてお嬢様でもあるまさに完璧な存在だ。
そう、実力的には私とほぼ互角であり、私の良きライバルでもある。
雅美も塾なしであの実力はすごくい思ったが、その雅美よりも驚異的だ。
まぁ私も、あの家を出てからというもの塾をやめてしまったので、それがかなり痛手だったが、それでも学業を怠ることは一切しなかった。
今では塾なしで、蒼衣にどうやって勝つかで余計に燃えている。
「中学受験のこと考えてくれたかしら?」
そうこれなんだよね。
今の悩みは…。
私だって、もしあのまま両親のもとで住んでいたら、中学受験ぐらいは受けたい。
でも今はおばにお世話になっているため、そうはいかないのだ。
かといって、ここで自分が養子であることをカミングアウトすることも難しい。
まぁ確かにこのころは片親家庭も割と堂々と言えてしまっている子は多かったものの、さすがに自分が養子であることは堂々とは言えない。
ホントそこは悩みの種である。
「ごめんね。やっぱり受験は無理かも…。それに私は遠いところに通うより、時間を有効的に使いたいんだ。」
ひたすらそう言ってごまかすしかなかった。
「やっぱりそうなのね。私あなたとだったら、中学はいってもいい友達でいられるかなと思っているのに…。残念だわ…。」
とずっとこんな日常が続くと思っていた。
私の考えが甘すぎた。
そして、その平和な日常はある日突然崩された。
それはある雨の夜の事だった。
私と風子おばさんと皐月おねえちゃんの3人で夕飯を食べた後のお片づけをしている時だった。
あ、言い忘れていたが私は今、風子おばさんと皐月ねえちゃんと私の女三人で同居している。
皐月ねえちゃんは実は高校卒業したあとすぐ、風子おばちゃんのところに逃げたのでした。実は私が曜子と対面したあの時、皐月姉ちゃんは家から、逃げる相談をしていたところだったとここにきて聞かされた。私にはよくわからないが、田舎の古いルールには二人とも嫌気がさしていて、いまだに二人とも実家から逃げているらしい。さすがに後味悪くなるのはイヤなので、おばちゃんが亡くなった時には葬儀には向かうとは言っているが、そうでもない限りあの家には帰りたくないらしい。
というのがうちの家庭事情。
まぁここはいく先をなくした女たちが最終的に来る駆け込み寺みたいな場所。
バツイチで嫁ぎ先から追い出された風子おばさん。
田舎のプライバシーゼロルールが嫌で、実家から逃げ回っている皐月姉ちゃん。
そして、生活全てが妹に妨害ばかり受けている私…。
いずれも何らか訳あり女3人が住む家なのであった。
まぁ一応、あるマンションの一室なんだけどね。
そして…。話は戻ってそんな夜にいきなりインターフォンが鳴った。
「え?」
この時は3人ともハモってしまった。
「こんな時間に誰かしら?」
「ちょっと、皐月みてきて」
「えーいやよ。なんかこわいしー。」
まさか…。
曜子じゃないよね?
特定されたとか…?
私は震えが止まらなかった…。
「……イヤ…。」
「星子?大丈夫??」
「ほら星子ちゃん怖がってるじゃん。見に行ってやんなよー。」
「えー私だってヤダよー。私だって、実家にいたあの時、卒業してすぐに40過ぎのジジイと結婚させられそうになって、それが怖くて逃げてきたこと、風子姉さんが一番よく知ってるじゃん。
もし、今来てるのがその追手だとしたら、どう責任取ってくれるのよー?」
ホント訳あり女ばかりが集っているこの家では、アポなし凸には簡単に応対しないのは毎度お約束。
「仕方ないわねー。じゃあ私みてくるから、二人は後片付けお願いね。」
とはいえ、そんなもんバカ正直に玄関まで行かずとも、モニターを見れば確認できるんだけど、それすら見るのは恐怖に思える。
そういうところは風子は冷静でやパリモニターを確認している。
「ちょっと星子ちゃん。あなたのお友達かもよ?」
「…え?」
まさか、蒼衣?
ううん、私が蒼衣の家に行くことはあっても、私は蒼依をこの家によんだ覚えはない。
ここに来てから、だれにも自分の家など教えていないはずだ。
知っていてもおなじ通学班で、同じこのマンションに住んでいる子だけだ。
通学班には、これまた運がいいことに私以外に同じ6年生の子はいない。
ただ、蒼依の家は半端ないほどのお金持ちだ。金を使って他人の個人情報など簡単に割り出せることだってある。
もしかしたら…
と思ってモニターを見てみる。
確かにモニターに映っているのは、私と同じぐらいの年の子どもだ。
体格からして曜子ではないことにはホッとする。
しかし…
「私、この子知らないんだけど…」
モニターに映っているのは、蒼依でも歩美でもケンでもなかった。
本当に知らない子だった。
「え?じゃあ誰なの?」
そう知らない子通り越して、そもそも服装はボロボロ、頭はぼさぼさ、体も薄汚れていて、外見がどこかの浮浪児でしかなくて、いったい誰なのか?判別もつかないぐらいだった。
これって関わってはいけない奴?
ここにいた誰もがそう思った瞬間であった。
ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン
インターフォンは激しくなり続けた。
それどころかそれに付け加えて、ドアを激しくたたく音までもする。
「どうしよう?」
「これ、居留守使ってることバレてる?」
どうもそうらしい…。
三人ともつばを飲み込んで覚悟を決めた。
「…はい……どちら様でしょうか?」
応対したのは風子おばさんだった。
ドアの向こうにいる主は…
「………………さん…。………………ん。」
小さな声だったので、聞こえたのはそれぐらいだ。
何を言っているのかわからない…。
「え?あの?あなた誰なの…?」
「…………お………………。」
何か「お」という声は聞こえたのだが、あいにくこの家は白土家であり、名前にも「お」が付く名前の人はいない。
「ごめんなさい。声が小さくて聞こえないのでもっとはっきり言ってくれますか?
あと家には、「お」が名前にある人はいないので、お部屋お間違いじゃないですか?」
と必死で風子さんは訴えかける。
顔は下を向いたまま、はっきり見えないし、言っていることはさっぱりわからないしで本当に困った。
と思った瞬間だった。
「おかあさん!」
という一言を言った時ようやく顔が見えた。
お母さんって?
「え!?あなた…。」
「おかあさん!たすけてーーーー!!!」
助けを求めている様子だった。
「…亮子……?」
「…え?」
私はびっくりした。
風子おばさんに子供がいたなんて話、聞いたことがなかったからだ。
その子は風子おばさんの実の娘の亮子だった。
「とにかく、上がって!!このままじゃさすがにまずいから…。」
皐月姉ちゃんがドアを開けた瞬間。
亮子というその子は、そのまま倒れてしまった。
もにーたーは白黒だったからわからなかったが、亮子はところどころ血がにじんでいて、傷だらけだった。
私たちは救急車を呼んだ。
付き添いは風子おばさんのみで、私たちは家で待機することになった。
私も突然のことだったので皐月姉ちゃんい説明を求めた。
そしたら、たった今になって風子おばさんの過去を語られることになった。
「風子姉さんも、あまりにも辛いことだったから、今まで話さなかったんだけどね。
星子ちゃんは少なくとも風子姉さんがバツイチ言うことは知っているわよね?
実は風子姉さんね。子供を残すことを条件に嫁ぎ先から追い出されたの。それが今の結果よ…。」
さらに詳しいことを聞く限りでは
風子おばさんには二人の子どもがいて、一人は上の子で、さっきここで倒れた亮子という女の子あなたと同い年よ。
もう一人の下の子は今、小学3年生の男の子らしい。
どうも風子おばさんが嫁いだ先は、お姑さんがひどい人だったらしく、跡取りの男の子さえ生んでくれさえすれば、嫁なんてどうでもいい扱いだったそうだ。
何分、一番最初に生まれたのが女の子だったので、たったそれだけでもものすごくいやな顔をされたらしい。そして、その3年後にようやく男の子を生んだと思ったら、すごい勢いでいびり倒して追い出しにかかってきたんだそうな。
その下の息子が生まれて1年半ほどはなんとか耐えたんだけど、これ以上ここにいると自分が壊れそうになったので、すべてを置いて実家に逃げてきたそうだ。それが母が里帰りする2か月前のことだったそうな。それからまぁ3月ぐらいまでそこにいて、皐月姉ちゃんと二人であの家から逃げてここに来たということらしい。
「まぁあんな家、だれも長くはもたないだろうよ。あのメンタルが強い風子姉さんですら、5年しか持たなかったんだ。
やっぱり、結婚なんてなーんもいいことなんかない。」
皐月姉ちゃんはそればっかりが口癖で、本当に一生独身でいると決めているらしい。
「まぁ今日はゆっくり寝な。たぶん、明日からはまたいろいろありそうだから。」
本当にそれだった。
そして、皐月姉ちゃんが言ったことは本当にそのままな結果になった。
なんと、亮子までもがこの家に一緒に暮らすことになったのだった。
どうも話によれば、亮子もあの家から「女の子はいらん」とまで言われて捨てられたらしい。
なんてひどい話だ。
と思うが、実は風子おばさんの元旦那が単身赴任になってしまって、結局は姑が亮子たちを見ることになったそうだ。だけど姑は弟ばかりか待っていて、亮子のことは必要最低限のこと以外は一切構っていなかった。それが原因で亮子はあの家から逃げ出してきたらしい。
最初は父親の方に逃げようとしたのだが、そこに父親の彼女らしき人がいて突っぱねられてしまって、ここにきたらしいのだった。
もういろいろありすぎてなんともいえなかった。
どうやら亮子が退院して少し落ち着いてから、ここから一緒に学校に通うという話だった。
とにかく風子おばさんから言われたことは…。
「星子ちゃんには悪いけどさ、亮子の事フォローしてくれないかな?
あの子今、心も体も何もかもが傷ついていて、多分普通でいることがかなり厳しいと思うんだ。」
とのこと。
やっぱり誕生日は私の方が早くて、少しだけお姉さんだそうだ。
なんか、まぁこの先いろいろ面倒んことになりそうだという予感だけはわかった気がした。
ホントにこの時イヤな予感しかしなかった。
そして本当にその予感は当たってしまうのであった。
この時の私は、あまりにも子供すぎて、亮子にこれまで何があったのか?どんなつらい思いをしてきたのか?なんてことなんにもわかってなかった。だから、その時は風子おばさんの言うことを安請け合いをしてしまったが、亮子の問題はすでに私一人では抱えきれないぐらいの状態だったのだ。
曜子にしても亮子にしても、私はことごとく妹運はついてないということを思い知らされるのであった。
そうそして、亮子が転校して三日後…
なぜか曜子が現れ、またとんでもないことが起こるのであった…。




