信じる心
「ユーリさんは不安なんだよね?」
「……はい」
俺が問いかけると、ユーリさんは今にも消えそうな声でそう答えた。
神樹を浄化しなければ、セリカさんを治療出来ない――きっと頭では理解しているはずだ。けどいくつもの不確定要素があることで、ユーリさんは決断できずにいる。
浄化魔法は本当に成功するのか。その前にセリカさんが力尽きてしまわないか。
そして浄化できたとして、本当に神樹が力を取り戻せるのか。そんないくつもの不安が、ユーリさんをこの場に縛り付けて離さないのだと思う。
だけど未来のことなんて、誰も知ることは出来ない。分かるとするなら神と呼ばれる存在だけだろうし、人間である俺にこの先どうなるかなんて断言はできない。
それでも、俺はユーリさんを説得できるかもしれない術を一つだけ持っていた。
「セリカさんはさ、ティルの事を信じてくれる?」
「え?」
「神樹が浄化できればセリカさんを治療出来るっていう言葉、信じてくれる?」
「それは、もちろんです」
セリカさんの影響もあるのか、ユーリさんのティルに向けた信頼は絶大だ。ここは心配してなかったけど、説得するなら前提条件はしっかり固めておかないとね。
「それじゃあノークリッドの人たちはどうかな? 神樹を浄化した後に元の力を取り戻せるかは、これまでの彼らの祈りにかかっているけど」
「疑うまでもありません。私も姉様と共にずっと彼らを見てきました。その祈りは、きっと神樹を元に戻してみせるでしょう」
うん、これも聞くまでもなかったかな。
「じゃあ、俺のことは信じてくれる?」
「……どういう意味でしょうか?」
「だって浄化魔法は俺が考えたのもだし、上手くいかない可能性もあるよね? あと俺が魔力供給を上手くできなくて、浄化魔法に失敗する可能性もあるし」
「そんなことはありません! フリッツ様の考えた魔法式は素晴らしいものでした。それに魔力供給量も、一度だって違えたことがありませんでしたし……」
良かった。これを聞くのは不安だったけど、これでようやく本題に入れる。
「じゃあ、セリカさんのことは?」
「もちろん信じています、誰よりも」
そうだね、予想するまでもなかった。そして、その言葉が聞きたかった。
「俺もティルやユーリさんの話を聞いて、とても信頼出来る人だと感じたよ」
「はい、ですから私は……」
「だから、そんな人が大切なユーリさんを置いて消えたりなんてしないと思うんだ」
「それは……」
俺の言葉に動揺を見せるユーリさん。
そして隣で大人しく聞いていたティルは、「なるほどね」とだけ呟いた。どうやら彼女には、俺のやろうとしていることが伝わったみたいだ。
だけどそれ以上何も言わないということは、この場は俺に任せてくれるのだろう。
「でも、気持ちだけではどうにもならないんです! 私が少しでも力の供給を止めてしまうと、姉様は……」
分かっている。セリカさんの体が、先ほどよりも薄くなっていることを。そして、ユーリさんが先ほどよりも多く力を渡していることも。
だからこそ急がなければならない。俺はぐったりと木の幹にその体を預けるセリカさんに向き直る。こんなことを言うのは心苦しいけど、仕方ない。
「セリカさん! あなたはこのまま愛するユーリさんと、ノークリッドの人々を残して消えてしまうつもりですか?」
「やめてください! お願いです、これ以上姉様を追い込まないで……」
もはや涙を見せることも厭わず懇願するユーリさんに、良心がとても痛む。だけど、ここで言葉を止めることは出来ない。止めたらすべてが終わってしまう。
「セリカさん、答えてください」
非情な俺の問いかけに、セリカさんは動じることなく真っ直ぐな瞳でこちらを見つめ返してきた。全てを見透かすような眼差しに、思わずたじろぎそうになる。
それでも何とか平静を保っていると、
「ふふ、さすがはティルヴィング様の選んだ御方ですね」
とても穏やかな声でセリカさんがそう呟いた。
「……我ながら酷いことを言ったと思うんですが」
「いいえ、貴方はとても優しい人。だからティルヴィング様も、何も仰らないのでしょう?」
「まあね」
まいったな……どうやらセリカさんにも俺の魂胆はバレているらしい。だけどそれならそれで、今やろうとしていることを続けさせてもらうだけだ。
「それで、どうでしょうか?」
何とかユーリさんにはバレないように言葉を続ける。彼女にまで悟られるようなことがあっては色々と台無しだし、何より格好がつかない。
そんな俺の気持ちを察してか、セリカさんが欲しかった言葉を口にしてくれた。
「確かに私が今消えることは、ノークリッドの民に対する責任放棄でしょう。分かりました、浄化魔法が完成するまで何とか耐えてみせましょう」
「姉様!? ですが……」
「私の言葉を信じてくれるのでしょう?」
「それは……」
「それに、やはりまだユーリのことが心配ですからね」
そう。たとえ判断に迷う時でも、信頼する人から言われたことであれば無条件に信じられる場合がある。俺自身そうやってティルやみんなに支えられてきたのだから。
だからユーリさんもきっと――。
「……分かりました。私は姉様を、フリッツ様たちを信じます」
そう答えてくれると信じていた。
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