ここから先は
「いくよみんな!」
「「「はい!」」」
サーニャ、クロエ、ユーリさんの返事を確認してから俺は魔力の供給を始める。
新開発の浄化魔法は、常識外れの魔力を消費する。だからこそ、過剰にならないよう慎重に一人ずつ渡す必要がある。三人の魔力受容量もそれぞれちがうのだから。
まずはサーニャ。
彼女には何度も魔力を供給しているので、ここは慣れたものだ。
次にクロエ。
加速魔法を使う時に魔力供給をしていたので、こちらの受容量もだいたい把握している。サーニャに渡している魔力を分離させ、適した魔力になるよう調整する。
――よし、こっちも安定した。ここまでは想定通り。
最後にユーリさん。精霊ということもあって、彼女は最も魔力の受容量が多い。
二人に供給している魔力を更に分離させ、三人に行き渡るように流していく。ここからはかなり魔力制御が難しくなるが、ここに来る途中まで何度も練習したんだ。
「ふぅー」
深呼吸し、サーニャとクロエはそのままにユーリさんへの供給量を上げていく。
――まだだ……もう少し……よし、これくらいだろう。
「フリッツ様、もう大丈夫です!」
ユーリさんの言葉に頷き、俺は魔力の流れを安定させる。
あとは浄化魔法が発動するまで魔力を供給し続けるだけなのだが、ここから先は完全に未知の領域だ。 一瞬の気の緩みが、すべてを台無しにしかねない。
それでも、やらなきゃならない。俺にはまだ果たすべき役目が残っているんだ。
「三人とも、俺はこれからエレノアの援護に向かう。だから後のことは……」
「大丈夫です。こちらは任せてください」
「お任せください! サーニャ様が円滑に浄化魔法を使用できるよう、全力でサポー
トします」
エレノアへの援護は、さっき急に決まった話だった。
それでも、二人は眉ひとつ動かさず頷いてくれる。ユーリさんだって不安がないはずがない。それでも俺の言葉に、しっかりと応えてくれた。
「フリッツ様、私はあなたを信じます。だから……どうかお願い致します」
だから俺は信じてくれた彼女の信頼に、全力で答えなければならない。
「大丈夫。絶対に神樹を近づけさせないし、魔力の供給を途絶えさせたりしない」
それだけ答え、俺は神樹の足止めをするエレノアの下へ走り出した。
※
神樹の下へたどり着いたのは、本当に、紙一重のタイミングだった。
うねるような根が地を裂き、無数の風の刃が空を切る。その全てが、体勢を崩したエレノアめがけ今まさに襲い掛かろうとしているところだった。
「間に合え!」
咄嗟に剣を構え、叫びと同時に全力で振り下ろす。
次の瞬間、神樹の魔法が俺の斬撃と正面からぶつかり合い、閃光と衝撃が弾けた。
風の咆哮が耳をつんざき、足元の地面が吹き飛ぶ。視界が一瞬真っ白になるほどの衝撃だったが、何とか全ての攻撃を相殺することに成功した。
「エレノア!」
神樹の攻撃が一旦止まったことを確認すると、慌ててエレノアに駆け寄る。
「……フリッツか。遅かったじゃないか」
「ごめん……」
「ふふ、冗談だよ。良く間に合わせてくれた……」
その言葉の裏にある安堵が、痛いほど伝わってくる。どれだけ無理をして戦ってきたか、その瞳がすべてを語っていた。
ふらふらと力のない足取りで近づいてきたエレノアは、やがて力尽きたように俺の体に倒れ込んできた。彼女の体には無数の傷痕があり、かなり危険な状態だった。
「近接戦闘には自信があったんだが、魔法戦闘は経験が少なくこの様だ……。任せておけとあれだけ大見得を切っておきながら、全く情けない限りだよ……」
「何言ってるんだよ……エレノアが踏ん張ってくれなきゃ、浄化魔法の準備が出来なかった。もう詠唱に入ってるから、エレノアは休んでいいんだよ」
「こんな重要な場面で私だけ休めと、お前はそう言うのか?」
「ああ、エレノアは十分に自分の仕事をやってくれた。だから、ここからは俺の仕事だ。ちょっと頼りないかもしれないけど、信じて任せてくれないかな?」
「あぁ……そうか。悔しいが、このまま立ち上がっても足手まといにしかならない。後は頼んだ、フリッツ……私はお前を、信じて、いるか、ら……」
「エレノア!」
エレノアの目がふっと閉じられた瞬間、胸の奥がひやりと冷たくなる。
だがすぐに、ティルの声が静かに届いてきた。
(大丈夫、気絶しただけよ。肉体というよりも気力が限界だったみたいね)
その言葉に、張り詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
「そっか……よかった」
(それより本当に大丈夫? エレノア抜きだと、かなり厳しい戦いになるわよ?)
「そうだろうね。でも……」
みんなが俺を信じて、ここに送り出してくれたんだ。
信じてもらう為に、セリカさんにもかなりの無理を聞いてもらった。ユーリさんの気持ちを曲げてまで、この状況を作り出したんだ。
「ここで踏ん張れないで、何が大魔導士だって話さ」
魔力の供給量は変えず、ティルに魔力を流し込んでいく。実質、初めて四人に魔力を供給しながら戦うことになるが不安は全くない。信じてくれる仲間がいるから。
(はぁ……ま、どうなろうと最後まで付き合ってあげるわよ)
うん、それももちろん信じていたさ。だから――。
「ここから先は、俺の戦いだ!」
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