役割の分担
会談が終わると、俺たちは直ぐにノークリッドに向かうことになった。
シエラ王の容態も気にはなるが、対抗呪文で病状の進行は抑えることはできた。後はどれだけ早く神樹の葉を手に入れ、ここに戻って来れるかがカギになってくる。
その為には少しの時間も無駄にはできないし、俺も神樹の下へたどり着く前に新しい浄化魔法を考えなければならない訳だけど――。
「フリッツ様。僭越ながら、これでもまだ浄化の力が足りないかと思われます」
「それにサーニャ一人で制御するには、魔法式が複雑すぎるかしら? あの子の制御能力もかなり高いけど、この規模だとちょっと難しいわね」
ノークリッドへ向かう馬車の中、ようやく絞り出した案にユーリさんとティルから容赦のない指摘が入る。まあ自分でもダメそうな気はしてたんだけどね……。
「やっぱこれだと厳しいかぁ」
「あの、すみませんフリッツ様……。せっかく考えて頂いているのに」
俺が落ち込んでしまったと思ったのか、ユーリさんが申し訳なさそうに謝ってくれる。会談の時はかなり大人びて見えたけど、今は見た目どおり少女のように見える。
「いえ、ぜんぜん大丈夫です。ユーリさんは神樹の状態について一番知っていると思うので、気になったところはどんどん言って下さい」
「……はい、承知致しました」
うーん、何か遠慮されている気がする。神樹の精霊だから俺なんかより全然長生きのはずだし、そこまで気を遣ってもらわなくても良いんだけどなぁ。
「ティル、俺って顔怖かったりする?」
「心配しなくても、何処にでもいそうな平凡な顔よ」
小声で相棒に尋ねるも、何とも失礼な答えが返ってきた。まあ知ってたけどさ。
それからいくつか案を出してみたけど、浄化力を上げると魔法式が複雑になり、魔法式を簡単にすると浄化力が落ちるどっちつかずなものばかりになってしまった。
「うーん、難しい」
ティルとユーリさんが昔の呪文について色々教えてくれたから、魔法式の構築法についてはかなり理解が深まった。後は浄化力の強さと魔法制御のし易さをどう両立させるかだけなんだけど、これが思ったよりも難しくてなかなか良い案が出てこない。
「すみません。私にも浄化魔法が使用出来れば、サーニャ様のお手伝いをすることも可能だったのですが……」
「言っても仕方ないわよ。対抗呪文と違って、浄化魔法や回復魔法は聖女の系譜のみに許された力。神樹の精霊であるアナタしか出来ないことがあるのと同じなの」
「はい……」
ティルに諭され頷くユーリさんだが、その表情は晴れない。俺も彼女の気持ちは、なんとなくだが分かる。自分の力が足りないのは、いつだってもどかしい。
個人的には今手伝ってくれているだけでも大助かりなのだが、神樹の精霊としてはやっぱり自分の力で浄化の手助けをしたいのかもしれない。
できる事なら力になってあげたいのだけど……。
「ん、待てよ?」
ユーリさんの言葉で思い付いたことがあり、再び魔法式を考える。最初は頭の中だけで考えていたが、それだけでは足りなくなり用意していた紙に書き出していく。
「何か思いついたの?」
ティルがそう聞いてくるが、今は答えている余裕もない。少しでも思考を止めると、組み上げていたものが一気に崩れていきそうな気がするのだ。だから悪いとは思いつつも、手を止めることなく頭に浮かんだものをひたすら書き出していく。
そしてようやく全ての魔法式を書き終えると、それをティルとユーリさんがじっと見ていることに気付いた。二人はこの魔法式に一体どんな評価をするだろうか?
「複雑過ぎる……と言おうと思ったのだけど、なるほどね。これなら確かに制御出来るかもしれないわ。考えたじゃない、フリッツ」
「これは……発想自体は考えつくものですが、まさか実現可能な魔法式を新たに組み立てるなんて信じられません……」
どうやら悪い評価ではなさそうで、ホッと胸をなでおろす。まあユーリさんの言う通り、発想自体は本当に単純なものだ。魔法式に起こすのに苦労しただけで。
問題はサーニャ一人で、どうやって魔法を制御するかにあった。
誰かが手伝えればいいのだが、浄化魔法は聖女の系譜にのみ許された魔法。だから俺やクロエ、ユーリさんが手伝うことはどうやっても出来ない。
だけど、それは発動に限った話だ。魔法式の構築と制御であれば、他の人が手伝うことが出来るのではないか? というのが、俺の考え出した案だった。そのためにはまず、魔法の発動と魔法式の構築/制御をいったん分離して考える必要があった。
だけど魔法は個人で使うのが基本。それを三人でやるのだから、魔法式はかなり複雑なものとなってしまった。考えている途中は脳が焼き切れるかと思ったほどに。
それでも、この方法ならサーニャの負担はかなり減るはずだ。
魔法式の構築と制御をクロエとユーリさんに任せれば、魔法の発動に専念できるし何より浄化力が格段に上がる。いいこと尽くめと言ってもいいだろう。それに、
「ユーリさん、どうかな?」
浄化を手伝いたいという彼女の希望も、これで叶えられたんじゃないかと思う。だから最終確認の意味も含めてそう聞いてみたんだけど――。
「フリッツ様……!」
なぜか突然ユーリさんに抱きしめられてしまう。
「えっ! ど、どうしました!?」
「有難うございます……本当に、有難うございます……」
俺の胸にしがみつき、ぽろぽろと涙をこぼすユーリさん。予想外に展開に目を白黒させていると、ティルから何か意味ありげな視線を向けられていることに気付く。
(いいから、しばらくそのままじっとしていなさい)
何となくだけど、そう言っている気がした。結局ユーリさんが泣き止むまでの間、俺は変な緊張感に包まれながら過ごすことになったのだった。
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