新魔法開発
「それで、セリカは今どうしてるの?」
昔なじみとしては気になるのか、ティルがユーリさんにそう尋ねる。
「女王は現在、封印が解かれ暴走を始めた神樹を一人で抑え込んでいます。ただ神樹の力はすさまじく、国を離れる余裕が無いため代わりに私が参りました」
「さすがのあの子も神樹が相手じゃ抑えるのが精一杯、か。ところで魔素に対する備えは誰がやっているのかしら? セリカはその状態じゃ無理でしょう?」
「それは……」
その問いにユーリさんが言葉を詰まらせる――が、それも一瞬だった。
「魔素への対処は私の役割でした。しかし大気中に飛散したものに気を取られ、地中への浸食に気付きませんでした。シエラ王が原因に気付いたおかげで今は対処済みですが、この件が終われば女王から私にしかるべき罰が与えられるでしょう」
自分の失敗なんてあまり触れられたくないだろうに、言い訳もせず淡々とそう語るユーリさん。だが悔しい思いはあるのは、その手はぎゅっと握られていた。
「罰なんて、セリカがそんなこと望むとは思えないけれど」
「だとしてもです。私がもっと早くに気付いてさえいれば、ノークリッドの民がここまで苦しむことはありませんでした。それにシエラだって……」
「それは結果論ね。アタシだってこの大陸に来て直ぐには気付けなかったし、今回の件はそれだけ周到な計画だっただけの話。本当に頭にくる話だけれどね」
自分を責めるユーリさんを気遣ってか、ティルは大げさにそう言い放つ。まあ怒っているのは本当だろうけど……なにせダンタリオンが絡んでいるんだし。
「それよりも、これからどうするかのほうが肝心よ。このままだとセリカがもたない……だから巫女であるアナタがわざわざシエラまでやって来たんでしょう?」
「はい。私の使命は神樹の元まであなた様をお連れすること。女王セリカも、ティルヴィング様ならきっと何とかしてくれるはずだと言っておりました」
「まったく、ずいぶんと期待されたものね」
そう言いはするものの、ティルの表情はどこか嬉しそうだった。女王様とは昔からの顔見知りらしいし、その期待には是が非でも応えたいのかもしれない。
「ま、可愛い昔馴染みのためにも出来ることはやるつもりよ。と言っても、今回はだいぶフリッツに頑張ってもらうことになると思うけど」
「え、俺?」
ティルからいきなり指名が入り、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。そういえばシエラ王を治療している時も、何か策があるようなことは言っていたけど……。
「フリッツとサーニャには先に言ったけど、神樹を浄化する方法は前々から考えていたの。だけどその方法だと時間もかかるし、何より確実性に欠ける。だから少し可能性を上げるためにも、別の新しい方法を取ることにしたのよ」
「そりゃ可能性が高いならその方が良いだろうけどさ……」
それは果たして俺が頑張ったところでどうにかなる問題なのだろうか?
自慢じゃないが、得意なことなんて魔力供給くらいだ。浄化で魔力が大量に必要というなら分かるけど、それは頑張りが必要というほどのレベルではない。
ティルもそれは理解していると思うんだけど……。
「フリッツ、アンタには新しい浄化魔法を考えてもらうわ」
「……はい?」
新しい、浄化魔法? 考えるの? 俺が?
「いやいやティル。何を言って――」
「言っておくけど、冗談じゃないわよ」
釘を刺されてしまった。いや、冗談じゃないなら余計に問題だよ!
「あのねティル。昔はどうだったか分からないけど、今の時代に新魔法を開発出来る人なんて世界で数人しかいないと思うんだよ。そんなことが俺にできると思う?」
自分で言ってて悲しくなるが、こればっかりはゆるぎない事実なのだ。
「心配しなくても魔法開発なんて酔狂なことをやっていたニンゲンなんて、だいたいどの時代でもごくわずかよ。別にこの時代だけ少ない訳じゃないわ」
「なら、なんでそんな難しいことをやらせようとしてるのさ……」
かなり現実味のない話ではあると思うけど、ティルが何の理由もなくそんな無茶ぶりをするとも思えない。だから、一応理由だけは聞いておくことにしよう。
「それはね、アタシの改変した魔法式の内容をアンタが理解できたからよ」
「魔法式って、さっきの対抗呪文?」
「えぇ。さっきはその才能を活かせる場面はまだないと思っていたけど、よくよく考えたら魔法開発に活かせるんじゃないかと思ったワケ」
「そんなに簡単な話かなぁ」
「なによ、えらく自信なさげじゃない?」
「だってさ、現代の魔法使いが使っているのだって九割以上が大昔の魔法なんだ。魔法開発出来る人間が少ないってものあるけど、それだけ昔の魔法が洗練されているからなんだよ。あの浄化魔法よりも強力なものを作るなんて、本当にできるの?」
正直に言って自信なんて全くといっていいほどない。そう言いたかっただけど――
「もっと自信を持ちな……さい!」
ばちん! と思いっきり背中をティルに叩かれてしまう。
「いって! ちょっ、ティル本気で叩いたでしょ!」
「本気も本気よ、大本気よ。いい、フリッツ。確かにアンタは今まで魔力タンクだなんだと言われて、褒められてこなかったのかもしれない。でもね、アタシはアンタを選んだの。それだけの才能があるし、努力も見てきた」
「ティル……」
「大丈夫、フリッツなら出来るわ。もっと自分を信じなさいな」
自分を信じる、俺にそんなことができるのだろうか?
たしかに大魔導士の後継者だと言われ、多少なりとも人の役に立つことができるようになって、昔よりは劣等感を持つことが少なくなったのは事実だ。
それでも、俺は自分という存在を誰よりも信じていない。
それは長年の経験で染みついた、もはや習性のようなものだ。口だけなら何とでもいえるだろうが、心の方がそれに追いついてこれるかは話が別だ。
だけど――。
「ま、どうしても自分が信じられないって言うならアタシを信じなさい。アンタを選んだ、この魔剣ティルヴィングをね」
どこか自慢げに言い放つティルを見ていたら、そんな悩みはとてもちっぽけに思えてきた。きっと彼女なりの冗談ではあるんだろうけど、それでも――。
「はは。なんだよ、それ」
その言葉は確かに俺の背中を押してくれた。なら、行動をもってそれに応えよう。
「やってやるさ」
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