シエラ王都と、国王の容態
車輪を軋ませながら馬車が門の前で停止すると、それを見計らったように槍を持った兵士が数人こちらに駆け寄ってきた。まあさすがにこんな状況下であれば、警戒もされるか。ノリスさんはこの状況を見越して紹介状を書いてくれたのだろう。
ひとまずティルを携えて俺だけ馬車を下りると、駆け寄ってきた兵士たちの中でも隊長格と思われる壮年の男性兵士が話しかけてきた。
「おぬし達、何者だ? 装いを見るに、我が国の者ではないようだが」
驚いた、服装だけで自国民ではないと判断出来るのか。
確かにこの大陸に来てから、人々の服装はかなり簡素なものが多いと感じていた。あまり身に着けるものにこだわらないのが、シエラの国民性なのかもしれないが。
「俺たちは怪しい者ではありません。マリアガーデンのエリュシカ女王に依頼を受け、この国の疫病を調べるため北大陸から来ました」
両手を頭上に挙げ、危害を加えるような意思はないことを訴える。
「なに? 北大陸からだと?」
予想外の答えだったのか、兵士の人は僅かばかりの動揺を見せた。しかし直ぐに冷静さを取り戻し、再びこちらに厳しい視線を投げ掛けていた。
「何かそれを証明するものはお持ちか?」
来た、ノリスさんから預かってきたものを出すのは今しかない。
「俺たちが船をつけた港町で、こちらの兵士の方とお会いしました。その方が書いて下さった紹介状があるので、それを見て頂けば大方の事情は分かると思います」
答えつつも、俺は懐にしまってあったものを取り出す。
それを見た隊長格の兵士が後ろで控える部下に視線で何か伝えると、若い兵士が一人がこちらへ駆け寄ってきた。おそらく彼が内容を確認してくれるのだろう。
その兵士は俺から紹介状を受け取ると、直ぐに内容の確認を始めたが――。
「こ、これは!」
読み進めていく内に何かに気付いたのか、驚いたような声を上げた。そして慌てた様子で隊長格の兵士の下へ向かい、何やら耳打ちを始めた。
「なに?」
その報告を聞き、今度は自ら手紙を確認していく壮年の兵士。やがて読み終わったのか手紙を閉じると、俺の方へ向かってゆっくり頭を下げた。
「先ほどまでの無礼な態度、お許し下さい。私はダンテ、シエラ王国の兵士長を務めております。此度の来訪、我が王に代わりお礼申し上げます」
どうやらノリスさんの手紙が、うまく伝わったらしい。
それにしても、まさか兵士長さんだったとは。ここまで地位が高い人に会えたのは今後の為にも良かったけど、こうもあっさり信用されると少し心配になる。
「自分が言うのもなんですが、そんなに簡単に俺たちのことを信じて大丈夫ですか? 手紙とか簡単に偽造できますし、もう少し警戒されるものかと……」
「ご心配召されるな。ノリスは私の息子です。さすがに息子の字は間違えませんよ」
「えっ、そうなんですか!?」
まさかの展開だった。言われてみれば、顔もどことなくノリスさんに似ている気がする。だけど、まさかこんな縁があるとは思わなかったな。
「息子の手紙からは興奮が伝わってきます。最近は王のこともあり気落ちしていたんですが、あの町の変化がよほど嬉しかったのでしょうな。私も見てみたかった」
遠くの町で奮闘する息子の姿を思い浮かべているのか、ダンテさんの目はとても優しいものだった。兵士長という立場はあるだろうけど、やっぱり心配なんだな。
「息子が頑張っているなら、私はそれ以上にしっかりしないといけませんな。王を診て下さるとのことでしたね。ご案内しますので、馬車も連れて付いてきて下さい」
ダンテさんに言われ再び馬車に戻った俺は、みんなに事情を説明し兵士たちの案内に従ってついにシエラ王都へ足を踏み入れることになった。
※
城に案内される途中に町の様子を見てみたが、やはりシエラに高い建物は存在していなかった。ダンテさんによるとこの国では清貧を心掛ける方針が取られており、建物に過度な高さや広さを求めることは贅沢とみなされる傾向にあるらしい。
宗教的な影響もあるのだろうが、道行く人々の服装も質素で華美なものは見当たらない。最低限の機能さえ備えていればそれで十分、という感じだ。
そして、それは王城も同じだった。
外から見たシエラ城は壁は煉瓦で覆われているものの、遠目にはどこか地味に見える。その控えめな佇まいが、この国の気質を象徴しているようだった。
いざ城内に足を踏み入れるも、やはり外観と同じく内部にも豪華さを感じられる装飾はほとんどなかった。広さも他国の王城と比べると、半分くらいかもしれない。
例外だったのは貴賓室で、そこだけは他国に引けをとらない豪奢な造りをしていた。エレノアとクロエはそこで待つことになり、治療を行うサーニャと俺だけが王の下へ向かうことになった。重病人の元に大勢で押しかける訳にはいかないしね。
そして、ついに王の私室の前に辿り着いた。
「どうぞ、お入り下さい」
ダンテさんが扉を開けると、俺たちはゆっくりと室内に足を踏み入れた。王が療養している部屋でも、やはりそれほどの広さはない。部屋の中央にはベッドが置かれ、その脇に側仕えと思しき三人の女性が控えていた。
「ダンテ様? いかがなさいましたか?」
その中の一人が俺たちの存在に気付き、こちらへ声をかけてきた。
「すまない、王の容態をこの方たちに診てもらうことになった。少しの間、席を外してもらえないだろうか?」
「かしこまりました。行きますよ、みなさん」
ダンテさんが説明すると、特に驚いた様子も見せず側仕えの人たちは部屋を後にした。恐らく彼の信頼がそれほどまでに厚いのだろう。
「では皆さん、宜しくお願い致します」
そう言われ、俺たちはそっとベッドの側へと歩み寄った。やがて、ゆっくりとシエラ王の顔が視界に入り――。
「っ!」
俺とサーニャは現実と直面することになる。
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