神樹の葉
前回の更新で7万PVとなりました。いつも読んでくれている方も、たまたま読んでくれた方も有難うございます。一つ一つのPVに、いつも気力を貰っています。
シエラ王の顔を見て、思わず息をのむ。
その体には、これまで診てきたどの患者よりもどす黒い痣が浮かび上がっていた。息も絶え絶えで、苦しさに歪んだ表情は見るに堪えない。体の方は布団が掛けられており確認できないが、ノリスさんの話では全身に症状が出ているとのことだった。
サーニャのことが心配になり、ちらりと視線を向ける。しかし、その必要はなかった。彼女は目は背けられることなく、しっかりと王を捉えていた。
ダメだな、どうやら俺の方が気弱になっていたらしい。
「予想通りと言えばそれまでだけど、かなりマズイ状態ね」
ティルが王の額に触れながらそう呟く。ステファンさんの時は見ただけで判断していたが、ここまで酷くなると触れて確認する必要があるのだろうか?
「サーニャ、アナタも手を」
「はい」
ティルの言葉に従って、サーニャも王の額に手を乗せた。それから意識を集中させるように目を瞑り、やがて――。
「っ!?」
何かに気付いたのか、驚いたように手を引っ込めた。
「どうやら感じ取れたみたいね。これが魔素に体を冒された末期の状態よ。体中の至る所に侵食し、やがて同化する。魔素と化した部分はニンゲンとしての機能を奪われ、やがて生命活動を続けることができなくなってしまうの」
「ステファンさんたちは……」
「彼らは魔素が体とギリギリ同化する前だったから、浄化魔法で治療することが出来た。だけどシエラ王は体の所々で既に同化が始まっている。ここに浄化魔法をかけると、どうなると思う?」
「魔素となった部分を浄化……まさかっ!?」
「そう。浄化魔法が体を魔素と判断し、その機能を停止させてしまう」
つまり今シエラ王に浄化魔法をかけると、逆にその命を奪ってしまうのか。
港町でティルが治療をはっきり否定した理由が、今になってようやく理解できた。効果が有る無しの話ではなく、浄化魔法をかけること自体がダメだったのだ。
「これは魔法の技量でどうにかなる問題じゃない。例え歴代の聖女であったとしても、これを治療することは出来ないの。わかるわね?」
「……はい」
悔しさを表情に滲ませつつも、ティルの言葉にしっかりと頷くサーニャ。残念だけれど、これでシエラ王に浄化魔法が掛けられないことが実証された訳だ。
「ティル、そろそろ教えてくれても良いんじゃない?」
だけど王都に入る前、『僅かな可能性が見えた』と彼女は言っていた。『現実的ではない』とも言っていたが、今はそれに賭けるしかないだろう。
「そうね。二人とも、神樹の話は覚えているかしら?」
「あぁ、それはもちろん」
覚えている。かつては勇者を助け、今は疫病の原因ともなっているもの。俺とサーニャがが頷くと、ティルが満足そうに頷いて言葉を続けた。
「じゃあ、その枝と葉の話については?」
確かその枝から作られた武器は魔を祓い、その葉はどんな怪我や病も――。
「そうか、神樹の葉があればっ! いや、でも今は……」
「そうね。ダンタリオンのせいで魔素漬けになってるし、元に戻ったとしても既に力を失い枯れている。新たに葉が採れる可能性なんて、僅かにでもあるかどうか」
やれやれといった風に、ため息を吐きながら首をふるティル。
「でも、可能性はあるんですよね?」
だが今のサーニャにとっては、それで十分だったようだ。確認してはいるものの、どんな答えが返ってきても絶対にやり遂げるという強い意志が感じられた。ティルも同じように思ったのか、僅かな可能性についての考えを語ってくれた。
「枯れる直前、神樹はこう言い残したの。『たとえ一時枯れようとも、人々が絶えず祈りを捧げれば、永き時を経て再び力を取り戻すだろう』ってね」
――人々の祈りと、永き時。
神樹の言う永き時がどれくらいの長さなのか、それは分からない。魔素で冒され、封印されていた時も含まれるのか? それによっても大きく変わってくるだろう。
ただ、人々の祈りはちゃんと神樹に届いているのではないだろうかとも思う。
信仰の対象は違えどシエラ、ノークリッド共に自然を愛する国だ。神樹の存在が歴史から消えてしまっても、人々が自然に感謝する気持ちは今も残っている。
それは、神樹への祈りと言えるのではないだろうか?
「ま、それを確認するにも神樹を元に戻さないといけないんだけね」
だがティルの言う通り、結局はそこに帰結してしまうのだ。
であれば、次は何とかしてノークリッドに行き――いや、その前に神樹を元に戻す方法を探さないといけないのか。
「ティル、神樹を元に戻す方法については?」
「いちおう考えてはいたんだけどね。実際に出来るかは何とも言えないわ」
まあ魔素に冒された神樹を元に戻すなんて、史上初の試みだろうからなぁ。
「大丈夫です。可能性があるなら、きっと」
シエラ王の手をそっと握り、そう呟くサーニャ。
「うん、やれることを全部やっていこう。じゃあ次はノークリッドに行く手段を考えないとか。クロエやエレノアたちにも相談を……」
「その前に、少しだけやることが残っているわよ」
俺の言葉を遮るようにティルから待ったがかかる。何事かと思い彼女に目を向けると、その視線はベッドに伏せるシエラ王へと注がれていた。
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