王都への道で
港町を出発した俺たちは、王都を目指しつつ道中にある住民全員が罹患した町の治療を行っていった。迷いを断ち切ったサーニャの活躍は目覚ましく、次の町からはティルのサポートを借りずに範囲浄化魔法を発動させ治療を施していった。
そのおかげで一つの町での治療にはほとんど時間はかからず、ある程度の住民が目を覚ましたところで俺たちは次の町へと向かった。というのも、港町を出る段階でノリスさんたちシエラ王国の兵が後追いで来てくれることを聞いていたからだ。
そうして七つ全ての町で治療を終え、俺たちはついに――。
「あれかな?」
馬車の進む道の遥か先に広がる平野に、シエラの王都らしきものを発見した。
ただ広大な町ではあるものの、王城らしきものが一つも見当たらない。というか、背の高い建物が見える範囲では一つもないのでいまいち自信が持てない。
「あそこが王都で合ってるよね?」
御者台の隣で地図を広げ案内してくれていたエレノアに、思わずそう尋ねる。
「地図を見る限り、おそらく間違いはないだろう。どうする、そろそろ速度を落としてもらうか? クロエ殿も魔法を使い続けで疲れてきた頃だろう」
「あ、そうだね」
後ろの荷台ではクロエが加速魔法を、サーニャが範囲浄化魔法を発動している最中だった。少しでも被害を減らすため、王都へ急ぎつつも道中も浄化してきたのだ。
これを提案したくれたのは他でもないサーニャで、クロエもそれに感化されたのか加速魔法で手伝ってくれることになったのだ。俺もそんな二人をサポートしたくて、今も手綱を握りながら魔力を絶え間なく供給しているという訳だ。
……まあ、ティルに魔力制御の特訓だと言われてやっている面もあるんだけどね。
しかも、これがかなり難しくて神経を使う。集中力を高める狙いなんだろうけど、手綱の操作を誤らないかずっとヒヤヒヤしながら馬車を操縦していたのだ。
だけどクロエが加速魔法を解くのであれば、供給をなくさないといけない。
「エレノア。今から魔力の供給を減らしていくから、クロエにも自分にちょうどいいタイミングで加速魔法を解くように言ってきてもらえるかな?」
「あぁ、分かった」
揺れる足元をものともせず立ち上がると、エレノアは軽やかに荷台の方へと移動していった。やがて加速魔法が解除されたのか、徐々に馬車のスピードが落ちていく。
それを確認してから、俺もクロエに供給している魔力を徐々に減らしていく。ただサーニャの方はそのままにしないといけないので、慎重にやらないといけない。
「ふぅー……」
クロエに流れていた魔力が自分の方に戻ってくるのを感じる。それがサーニャの方へ流れないよう注意しながら、深呼吸をして体内の魔力を落ち着けていく。
「……よし」
そして魔力の制御に成功し、馬車の操縦へ意識を戻そうとしたところで――。
「ちゃんとクロエへの魔力供給を絶てたみたいね。ま、その分こっちへ向ける意識がお留守だったみたいだけど」
「おわっ!?」
いきなり隣から声が聞こえ、体がビクッと浮いてしまった。見ればさっきまでエレノアが座っていたところに、ティルがちょこんと腰かけていた。
「いつの間に……」
「エレノアにアンタのことを頼まれて、入れ替わりでこっちに来たのよ。それより、だいぶ魔力の制御に慣れてきたんじゃない?」
「そう、なのかな? 確かに前は魔力を分けながら供給することなんて出来なかったけど、慣れたかと言われると自信ないなぁ」
「これでも結構難しいことをやらせてるのよ? アンタは自分が思ったより成長してるわ。正直、アタシの想像を超える成長速度といってもいいくらいにね」
「ティルが褒めてくれるなんて、珍しくない?」
「……素直に受け取りなさいよ、まったく。ふぁ……」
少し不満げな様子を見せながらも、あくびを漏らすティル。
彼女は魔剣だが、普通に食事もするし睡眠もとる。特に意味はないそうだけど、人間と永く過ごす内に習慣になったらしい。だから睡眠が足りないと、今みたいにあくびもする。睡眠不足の魔剣なんて変な話だが、実際にそうなのだから仕方ない。
「最近、夜遅くまで起きてるよね?」
「気付いてたの?」
「まあね。たまたま起きた時に、何か考え込んでるみたいだったからさ」
「はぁ……。誰かさんがサーニャに『シエラ王が助かる方法が他にもあるかも』なんて言うから、過去の記憶を掘り返して手がかりを探してたのよ」
考えるまでもなく、それは俺のことだ。
もうすぐ王都に着くということは、シエラ王の容態を確認する時が近づいているということ。ティルの見立てでは浄化魔法が効く可能性は限りなく低いため、それ以外の治療方法を必死に考えてくれていたんだろう。他でもない俺のせいで。
「ごめん。でも――」
「必要だったんでしょ? 分かってるわよ、それくらい。それにアンタの言葉に思うところがあったから、アタシも調べてたの。ま、そのおかげで蜘蛛の糸くらい細い可能性は見えたけどね」
「え、本当!? ……とっ、わわ!」
思ってもみなかったティルの言葉に、思わず立ち上がってバランスを崩してしまう。幸い手綱は引かれず馬が止まることはなかったが、後ろに倒れ座席に尻を思いっきり打ち付けてしまった。これはきっと痣が出来てしまうかもしれない。
「いつつ……」
「落ち着きなさい。まだサーニャに魔力を供給してるのよ?」
「!?」
言われてとっさに心を落ち着ける。
……大丈夫、サーニャへの魔力供給は正常な範囲で出来ている。
「まだ現実的なものじゃないから、他のみんなには黙ってなさい。まずはシエラ王の容態を確認して、それから実現可能かを考えるから」
「う、うん」
それでも可能性が見えてだけ充分だ。ティルには本当に感謝しかない。そして馬車はついに、木造の大きな柵で出来たシエラ王都の門へとたどり着いたのだ。
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