それぞれが向かう先
話し合いの後、俺たちはバウンス船長たちを見送るため港まで来ていた。
この町に来てからというもの荷物をほとんど動かしていなかったので、出航準備はステファンさんの家に運んだ食料を七日分もどすだけで時間はそうかからなかった。
「本当にそれだけで大丈夫ですか?」
俺は荷物を運び終え船へ乗り込もうとする船長に、もう一度だけ確認する。
「心配すんな、俺たちは海の専門家だ。万が一の時の対処方も十分心得てる」
「でも……」
「もう決まったことだ、ウダウダ言うんじゃねぇフリッツ! サーニャ嬢ちゃんも腹くくったんだ。おめぇがそんなんでどうする?」
たしか俺が迷っていたら、無理を言って焚きつけたサーニャに合わせる顔がない。自分で決断したことなんだから、ここは覚悟を決めて送り出さないと。
「分かりました。船長……ご無事で」
「おうよ! さっくり話しつけて、直ぐに帰ってきてやるよ。後な、フリッツ――」
「?」
「おめぇもちょっと肩の力入り過ぎなんだよ。大魔導士サマなのかもしれねぇけど、まだガキなんだからよ。責任はお偉いさんに押し付けて、もっと楽に行けや!」
そう言うやいなや、船長は俺の頭をその大きな手で掴みワシワシと撫で始めた。
「ちょっ! ガキって……俺もう二十二ですよ?」
「こちとら海の上で三十年以上生きてんだ。俺からしたらおめぇら全員まだガキさ」
船長の手から何とか逃れようとするも、やはり単純な腕力では敵わない。そろそろ王都に向かう準備をしている、他のみんなの様子も見に行きたいんだけどなぁ。
「あら、それはアタシも『ガキ』に入っているのかしら?」
「げっ!? あ、姐さん……」
と、そこにタイミングよくティルがやってきた。
船長はミルスの港で彼女に怒られたのがだいぶ効いているのか、俺の頭からぱっと手を離して直ぐに飛び退いた。ふぅ、ようやく解放されたけど頭がボサボサだ。
「フリッツ、こっちの準備も終わったわよ」
「了解。じゃあ船長、言われたこと少し意識してみます。身に覚えはあったんで」
「おぅ! じゃあなフリッツ。姐さん、こいつのこと頼んます」
「言われるまでもないわ」
「ま、そーだよな! ガハハ!」
最後まで俺たちのことを気にしつつも、船長は豪快に笑いながら船の中へと消えていった。それから直ぐに錨が揚げられ、ゆっくりと船体が動き出す。甲板からは航海士のカイルさんをはじめ、船員の人達がこちらへ手を振ってくれていた。
彼らが無事に北大陸へたどり着くよう祈りつつも、俺とティルは港を後にした。
※
出発のため町の入口へ向かうと、既に準備を終えたみんなが待ち構えていた。
サーニャのことが少しだけ気がかりだったけど、気持ちの整理がついたのか今は落ち着いた表情をしている。戻る途中にティルから聞いた話によると、エレノアとクロエが色々と気遣って話しかけに行ってくれたらしい。後でお礼を言わないとだな。
「兄ちゃん!」
と、こちらの準備を手伝ってくれていたルカが俺の方へと駆け寄ってきた。
「本当にありがとな。父ちゃんもまだ起き上がれないけど、ありがとうって伝えて欲しいって。あと、最初海賊と間違えちゃってごめんよ」
優しい子なのだろう、出会った時のことをどうやらまだ気にしていたらしい。
「もう気にしてないよ。ステファンさん、早く良くなると良いね」
「サーニャお姉ちゃんが治してくれたんだもん。父ちゃんも町のみんなもぜったい直ぐ良くなるよ!」
「そっか、そうだな!」
「そうだよ、絶対!」
ニカっと笑ってルカは馬車の方へと戻っていった。きっとサーニャにもう一度お礼を言いに行ったのだろう。すると今度はノリスさんがこちらに近寄ってきた。
「お話は終わりましたか?」
「すみません、もしかして待たせてしまいましたか?」
「いえ、良いのですよ。私たちはこの町に残るのですから急ぐ必要もありません」
俺たちが旅立つにあたって、町の人たちの看病はシエラ兵の人たちに委ねることになった。ノリスさんたちが持ってきた医療器具の中に点滴があったので、意識のない人にはそれで対応するらしい。これで安心してこの町を離れることが出来る。
「町の人たちのこと、お願いします」
「お任せください。王が命がけで守ろうとした民を、今度こそ救ってみせます」
その答えを聞いて、言うまでもなかったなと少しだけ後悔する。
「そうだフリッツ殿。こちらをお渡ししておきます」
そう思っていると、ノリスさんがこちらに封書のようなものを差し出してきた。
「これは?」
「シエラ城へと着きましたら、門番にそれをお見せください。この町で起きたことや、フリッツ殿たちに王の容態を見て頂くよう依頼したことを書いておきました」
「紹介状ですか、助かります」
失くさないように、俺は受け取ったものを大切に懐にしまい込んだ。これでシエラに着いた後も、時間をかけることなく王様の容態を診に行くことができるだろう。
「王を救う手立てがあるかもしれないというフリッツ殿の言葉を、私も信じます。だから王が目覚めた時に胸を張れるよう、自分に出来ることに全力を尽くしましょう」
そうか。覚悟を決めたのは、なにも俺やサーニャだけじゃないんだ。
バウンス船長やルカ、ノリスさんも覚悟をもって進むべき道を――戦うべき戦場を決めたのだ。その先に良い未来が待っていると信じて、全力を尽くそうとしている。
だから俺たちも、託された者として進まなければならない。この先には住民全員が昏睡状態となった七つの町と、生死の境をさまよう王がいる都があるのだから。
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