女性国家マリアガーデン
女性国家――マリアガーデンはそんな風に言われることが多い。
とは言っても、当然ながら女性しかいないという訳ではない。女王が国を治めており、軍事力の要でもある兵士も女性が多いことからそう呼ばれているのだ。
まあ、俺もさっきエレノアから聞いたばかりなんだけどね。
「てっきり女性ばっかりの国だと思ってたけど、もし本当だったら国をとして立ち行かなくなるしね……。よくよく考えれば当たり前だよなぁ」
「ははっ、そうだな。ただお前のように勘違いする者は多いぞ。私もバルディゴに行ったばかりの頃は、本当に女性だらけの国なのかとよく聞かれたよ」
女性国家と聞くと、男としてはどうしても憧れる部分があるんだよね。エレノアもそれが分かっているのか、馬車の中で笑いながらそう説明してくれた。
そして、そんなやり取りをしてから数日後。
山道を抜け舗装された街道を走る馬車から美しい庭園が見えてきた。それこそ正に俺たちの目的地、乙女の園の城下町だと気付いたのはそれから数刻後のことだった。
入国手続きを済ませ城下町に入ると、煉瓦で作られた家々を横目に馬車は城へと向かう。マリアガーデンの街並みを見ての感想は、まさに優美の一言だった。
そして、最も象徴的なのはやはり王城だ。
これまで見てきた城は、どこも壁が茶や灰など目立たない色であることが多かった。しかしマリアガーデン城は白煉瓦を使用しており、見た目からして他国の城とは雰囲気が異なる。所々にはめ込まれた青煉瓦も、より一層優美さを引き立てている。
「やっぱり女性の国だけあって、綺麗なお城だなぁ」
そんな感想を抱いている間にも馬車は徐々に減速していき、やがて城門の前までくると完全に停車した。馬車から降りると門番の女性兵士が警戒した視線を向けてきたが、エレノアが前に進み出るとその表情が驚きに満ちたものへと変わった。
「ま、まさかエレノア様……? お戻りになられらのですか!」
「おぉ、私を知っている兵士だったか。ならば ちょうど良い、女王陛下に謁見をお願いしたいのだが、取り次いでもらえるだろうか?」
「この城で貴女様の名前を知らぬ者などおりません。ささ、中へどうぞ! 陛下には直ぐにお伺いをしてきますので」
急に態度が軟化した兵士の人に連れられ、俺たちは何の苦労をすることもなく城内へ入ることが許された。そして貴賓室へ案内されたかと思うと、謁見の許可が下りるまで自由にお過ごしくださいと言われあまりの待遇に戸惑うことになってしまう。
「ここまですんなり来ると、逆に怖くなってくるな……」
エレノアがいることで、ある程度はスムーズに事が運ぶと思っていた。そして実際にそうなったのだが、それにしたって待遇が良すぎる気がする。
それに気の所為でなければ、この部屋に来るまでかなり視線を感じていたのだ。
もちろん見られていたのは俺じゃなくてエレノアだ。案内してくれた人も途中ですれ違った人も、みんなどこか熱のこもった視線を彼女に向けていた。
「もしかしてエレノアって、俺が思ってるよりもすごい人?」
「そんなことはないさ。ただ新兵の訓練で教官をすることもあったから、顔や名前を知っている人間が多いのだろう」
「あぁ、だから教えるのがあんなに上手かったのか」
彼女の剣術指導は素人の俺でもとても分かり易い。教官には適任だと思うし、新兵がその強さに憧れる気持ちも良く分かる。だが例えその立場であったとしても、女王様に謁見をお願い出来るかと言われたら微妙なところかもしれない。
何か他に理由があるんだろうか?
そんなことを考えていたら、何やら部屋の外が騒がしくなってきた。視線を部屋の入り口の方に向けると、直後に激しい音と共に部屋の扉が開かれたのだ。
「エレノアちゃーーーん! おかえりーーーーー!!」
そう言い放って現れたのは、純白のドレスを身に纏い頭にはティアラを身に着けた長身の女性だった。キリっとした目鼻立ちはどことなくエレノアに似ており、入って来るなり長い金色の髪を揺らしながら誰かを探すように部屋の中を見渡した。
そして視線がある一点で止まったかと思うと、満面の笑みを浮かべながら目的と思われる人物――エレノアの方へ向けて歩み寄り、勢いよく抱き付いたのだ。
「久しぶりだねー会いたかったよおおおぉぉぉぉー!!」
言葉通りの気持ちを示すように、女性は自らの頬をエレノアへと擦り付けている。な、なんというかすごい人だけど……この人はもしかしなくても――。
「陛下……公の場でいきなり抱き付くのはおやめください」
どこか疲れたようなエレノアのその言葉で、俺は自分の予想が当たっていることを確信した。目の前の人物こそ、このマリアガーデンの女王様だということを。




