マリアガーデンへの道
「またいつでも帰っておいで。旅の土産話を楽しみにしているよ」
「村のことは任せてくれ。これまで通りきっちり守ってみせるさ」
村長やタイガたちに見送られ、俺たちはペスタの村を後にした。
「村人の皆様、とても優しい方ばかりでしたね」
「タイガ達も真面目に働いているようだし、あれなら問題ないだろう」
馬車の中でクロエやエレノアが、ペスタの感想を思い思いに口にする。
俺も村の人たちが元気にしている姿を見れて安心したし、それはサーニャも同じだったと思う。ただ一つ気になっていることがあるとすれば――。
「サーニャ、結局『あの事』については話さなかったの?」
「はい、背負うって決めましたから。だからペスタのみんなにも『サーニャ』って呼んでもらいたいんです。わたし、ワガママでしょうか?」
何となく察してはいたが、サーニャは自らの出自を村の人に明かさなかったようだ。きっと色々考えて出した結論だろうし、俺もその意思を尊重したい。
「いや、サーニャがそう決めたならそれでいいと思うよ」
「ありがとうございます」
別にお礼を言われるようなことでもなかったが、サーニャのどこか吹っ切れたような表情を見ていると細かいことはどうでもいいかと思えたのだった。
※
ところで、マリアガーデンへたどり着くまでにはいくつか問題があった。
一つは馬車の少なさだ。バルディゴ行きなら日に十本程度は出ているけど、マリアガーデン行きは数日に一本しかない。間が悪いことに俺たちが宿場町に着いたのは馬車が出た直後で、次の便が出るまで数日足止めを食らうことになってしまった。
また馬車に乗ってからも険しい道は続く。
マリアガーデンは周囲を山で囲まれており、そこへ至る道も当然のごとく山道だ。いちおう整備はされているものの、普通の道と比べると揺れは大きい。
また暑い季節ということに加え、周囲には火山もある。場所によっては熱気が凄まじく、じっとしていても止めどなく汗が噴き出てくるのだ。
「うわさには聞いていたけど、ここまで凄いとはね……」
「ペスタの村長殿からこの服をもらってきて正解だったな」
夜――魔物に備え見張りをしていた俺の呟きに、相方であるエレノアが身に着けている薄布の服をはためかせながら答えた。彼女が身に付けているのはペスタで来ていたものと同じで、村長が村に来た記念にと全員分用意してくれたのだ。
これがなければ、今頃は暑さで倒れていたかもしれない。
「マリアガーデンに行く人は大変だなぁ」
「国自体は山と山の間にあって、風がよく吹き暑さはあまり感じないんだがな」
「そうなの?」
「あぁ、むしろ寒波が吹く冬の方が厳しい。まあ鍛錬には持ってこいなのだかな」
「そこで鍛錬の話しが出てくるあたり、さすがは女性強しの国だね。今さらだけど、本当に俺が行っても大丈夫?」
「そこまで過激な国ではないから安心しろ。まあ女を目的としてマリアガーデンに来ようとする輩は多いが、それは篩の時点で弾かれる」
「篩?」
そんなものがあるのか。だけど、それなら俺も弾かれる可能性があるような……。それとも、エレノアが一緒にいると大丈夫なんだろうか。
「分からないか、フリッツ?」
「うーん、国に入る前に何か試験的なことをやらされるとか?」
「門番によってはそれもあるが、正解はまさに今の状況だよ」
「え……あっ!」
『今の状況』というエレノアの言葉で、ようやくピンときた。
「つまり、マリアガーデンまでの過酷な道のりが篩ってこと?」
「正解だ。別に意図していた訳ではなく、結果的にそうなっているだけだがな。軟弱な考えや意思でマリアガーデンに来ようとしたものは、この大自然で容赦なくふるい落とされる。逆にいえば、たどり着きこそすればそれだけで意志が強い者だ」
なるほど。偶然の産物とはいえ、なかなか面白い考え方だ。
「ということは、否が応でも辿り着かないとな」
「そういうことだ。もう一踏ん張り、我慢しようではないか」
そんな軽い冗談を言い合いつつ、エレノアと笑う。
「楽しそうなところ悪いけど、そろそろ交代の時間よ」
二人でそんな話をしていると、見張りの交代をする為ティルが馬車の中から顔を出した。彼女は別に寝る必要はないのだが、心配なので休んでもらったのだ。
「辿り着かないとなら、休息はちゃんと取りなさい」
「そうだな、じゃあ頼むよティル」
「すみませんが、よろしくお願い致しますティルヴィング様」
「はいはい、おやすみ」
適当に返事をしながら、俺たちを馬車の中へ押し込むティル。
きっと気兼ねなく休めるように、気を遣ってくれたのだろう。彼女の言外の優しさを感じながらも、俺とエレノアは直ぐに眠りにつくのだった。
※
ティルは夜の番をしながら、先程こっそり聞いていたフリッツ達の話を思い出していた。マリアガーデンへの過酷な道のりが、男たちの篩になっているというものだ。
「そういえば、前にもマリク達とこの辺りを旅したわね」
そんなことを呟きつつも、ティルは先代勇者パーティーとの旅を思い返した。
あの時代、この辺りは本当に山しかなかった。しかし近道をしたいとマリクがワガママを言い、ティルの力を使って山を一つ吹き飛ばしたのだ。それはちょうど今から向かおうとしている、マリアガーデンの辺りだったはずた。
「そういえば、エレノアが山と山の間に国があるって言ってたわね」
もしかして――と、ティルはさらに記憶を掘り起こしていく。
確かあの時パーティの誰もがマリクの行動に引いていたのだが、一人だけ違う反応をした娘がいた。極度の男嫌いでありながらも、勇者を助ける為にパーティに参加していたエリザという聖騎士だ。確か彼女はこんなことを言っていた。
『私が国を興すなら、ここにしようかしら。ここなら変な男も寄ってこないじゃない。ね、ティルもそう思うでしょ?』
彼女は常々、平和になったら女の子だけの自分の国を作りたいと言っていた。そして今、男を遠ざけるようにマリアガーデンという国をが存在している。
「まさかね」
言葉ではそう言いつつも、ティルはあの子ならそういう国を作りかねないと思っていた。宿場町でエレノアに聞いた話では、王は代々女性だが宰相は女王の伴侶となる男性が務めるそうだった。そして、その習慣も初代女王から続いているという。
「もしかしたら、貴女にも信頼出来る大切なパートナーが出来たのかしら?」
呟きながら、ティルはエリザとの旅の思い出を振り返る。思い返してみればエリザの側には、どれだけ嫌われようといつも忠実に付き従う不器用な少年騎士がいた。
後半のティルの回想は思い付きでくっつけたので、いつか修正するかもしれませんんし、しないかもしれません。




