第6話 黒騎士団――たった五十騎の最強軍団。
【緊急王権】
【一時的に封印軍団を一つ解放できます】
俺の目の前に、四つの選択肢が浮かんでいた。
【第一軍団――黒騎士団】
【第二軍団――冥界魔導兵団】
【第三軍団――竜騎兵団】
【第四軍団――???】
「これ……一つだけなんだよな?」
『一軍団のみ選択可能です』
「選んだら変更できる?」
『できません』
「説明は?」
表示が切り替わった。
【第一軍団――黒騎士団】
【召喚数:50】
【特徴:近接戦闘・突破力・防御力】
【第二軍団――冥界魔導兵団】
【召喚数:30】
【特徴:広域魔法・遠距離殲滅】
【第三軍団――竜騎兵団】
【召喚数:20】
【特徴:飛行・高速機動・対地攻撃】
【第四軍団――???】
【情報閲覧権限が不足しています】
「どれも強そうだな……」
二万五千を相手にするなら、広域攻撃ができる魔導兵団か。
それとも空を飛べる竜騎兵団か。
「リゼリア」
「はい」
「どれがいいと思う?」
「陛下がお選びになった軍団こそが最善かと」
「そういう答えじゃなくて」
「でしたら――」
リゼリアが表示を見る。
「敵を皆殺しにするのであれば、冥界魔導兵団をおすすめいたします」
「やっぱり基準がそれなんだよな」
「効率を重視したまでですが?」
「……じゃあ聞き方を変える」
俺は地図を見る。
アルディア王都。
そこへ向かっている五千の先遣隊。
さらに後方から二万の本隊。
「敵をなるべく殺さずに止めるなら?」
リゼリアが少し考えた。
「黒騎士団でしょう」
「理由は?」
「圧倒的な防御力を持つ軍団です。また、黒騎士一騎一騎が指揮官としての能力を有しております」
「つまり?」
「黒骸兵団を率いさせることができます」
なるほど。
今いる黒骸兵百人を強化できる。
「でも五十人だろ?」
「はい」
「敵は二万五千」
「はい」
「勝てるの?」
「それは――」
リゼリアが微笑んだ。
「陛下のご命令次第にございます」
「重いな……」
だが。
決めた。
「黒騎士団を選択する」
『確認します』
【第一軍団――黒騎士団】
【一時解放しますか?】
「ああ」
『承認しました』
ドクン。
心臓が大きく鳴った。
「……っ!」
突然、身体から力が抜ける。
「陛下!」
リゼリアが俺を支えた。
「なんだ……これ……」
『緊急王権を発動します』
『王力を消費』
【現在王力:100%→30%】
「王力?」
初めて聞いた。
だが、質問する余裕はなかった。
王城の前。
大地が揺れ始める。
ゴゴゴゴゴゴ――。
空が暗くなる。
巨大な黒い魔法陣が現れた。
「何だ!?」
「空が……!」
城にいた民たちが外へ出てくる。
黒骸兵百人が一斉に跪いた。
魔法陣の中央。
一つの影が現れる。
馬。
いや。
普通の馬じゃない。
全身を黒い鎧で覆われ、瞳に青白い炎を宿した巨大な軍馬。
その背に――騎士が乗っている。
黒い鎧。
黒い大剣。
顔は兜で完全に隠れていた。
一騎。
また一騎。
次々と現れる。
十。
二十。
三十。
五十。
誰一人、言葉を発さない。
なのに。
黒骸兵とは明らかに違う。
俺にも分かった。
「……強い」
五十騎が一斉に馬から降りた。
ドンッ!
大地が震える。
その中央。
ひときわ巨大な騎士が前へ出た。
他の騎士より頭一つ大きい。
背中には、身長ほどもある大剣。
騎士が兜を外した。
「……人間?」
灰色の髪。
鋭い青い瞳。
三十代くらいの男に見える。
男は俺の前まで歩いてくる。
そして。
跪いた。
「三百年――」
低い声だった。
「この日を、お待ちしておりました」
男が頭を下げる。
「黒騎士団団長、ヴァルド・クロイツ」
拳を胸に当てる。
「我が剣、我が命、再び王に捧げます」
残り四十九騎も一斉に跪いた。
「「「我らが王に、永遠の忠誠を」」」
声が大地を震わせる。
『黒騎士団の召喚に成功しました』
【黒騎士:50】
【一時召喚残り時間:71時間59分】
「……三日間だけか」
『緊急王権による召喚のため、時間制限があります』
つまり。
三日以内に帝国軍を止める必要がある。
「ヴァルド」
「はっ」
「状況は分かってる?」
「王権より共有されております」
「敵は二万五千だ」
「はい」
「こちらは黒骸兵百と、君たち五十」
「はい」
ヴァルドは平然としている。
「怖くないの?」
「何を、でしょうか」
「二万五千人」
「…………」
ヴァルドが俺を見る。
少しだけ困った顔をした。
「陛下」
「何?」
「二万五千というのは――」
一度言葉を切る。
「敵の数でございますか?」
「そうだけど」
「それだけですか?」
「……それだけって?」
ヴァルドが立ち上がる。
「三百年前」
黒い大剣を抜く。
「我ら黒騎士団が最後に戦った敵軍は十二万」
「…………」
「五十騎で?」
「当時は百騎おりました」
「結果は?」
「十一万七千ほど倒したところで、王の死を感知し消滅いたしました」
「…………」
俺はリゼリアを見る。
「本当?」
「概ね」
「概ねって何?」
「ヴァルドは昔から数を数えるのが苦手でしたので」
「そこじゃない!」
何なんだ、この国。
リゼリア一人で一国を滅ぼせる。
黒騎士百人で十二万と戦える。
「三百年前のノクスって……本当に人間の国だったの?」
「失礼な」
リゼリアが少し頬を膨らませる。
「人間もたくさんおりました」
「『も』って言ったよな?」
「…………」
「今、『も』って言ったよな?」
「陛下」
「誤魔化すな」
だが。
これなら可能性はある。
「ヴァルド」
「はっ」
「一つ命令がある」
「何なりと」
「帝国軍を止めてほしい」
「御意」
「ただし――」
俺はヴァルドを見る。
「可能な限り殺すな」
「…………」
初めて。
ヴァルドの表情が固まった。
「……もう一度、お願いいたします」
「殺さずに止める」
「…………」
後ろの黒騎士たちも微妙にざわついた。
「難しい?」
「いえ」
ヴァルドは真剣な顔で考えている。
「殺さず……止める……」
「そんな難題?」
「我々は敵を倒す訓練しか受けておりませんので」
「三百年前の教育どうなってんだよ」
ヴァルドがしばらく考える。
「手足を斬り落とすことは?」
「ダメ」
「半殺しは?」
「ダメ」
「馬だけを斬るのは?」
「できればやめて」
「…………」
ヴァルドが困り果てている。
リゼリアが小声で言った。
「陛下」
「何?」
「我が国にとって、敵を生かしたまま勝つ方が遥かに難しいのでございます」
「嫌な国だな!」
でも。
だからこそ意味がある。
「殺さずに勝つ」
俺は地図を開いた。
「それができれば、アルディアにも帝国にも見せられる」
「何をでしょう?」
「ノクス王国は、三百年前とは違うってことを」
リゼリアの表情が変わった。
「俺は世界征服なんてするつもりはない」
この国の過去。
悪魔の国。
世界を滅ぼそうとした国。
それが事実なのか、歴史が歪められているのか。
まだ分からない。
だけど。
「俺の国は俺が決める」
俺は玉座から立ち上がった。
「まず帝国軍を止める」
「御意」
「そしてアルディア国王と話す」
「御意」
「戦争を終わらせる」
ヴァルドが跪く。
「王命、承りました」
『特殊任務が更新されました』
【特殊任務――最初の外交】
【追加目標が発生】
【ヴァルガス帝国軍の侵攻を阻止せよ】
【追加条件:敵兵の90%以上を生存させる】
【達成報酬:???】
「ほら、やっぱり殺さない方がいいんじゃん」
リゼリアが表示を見る。
「王権も変わりましたね」
「変わった?」
「三百年前であれば――」
リゼリアが懐かしそうに言う。
「『敵兵の90%以上を殺害せよ』でした」
「真逆じゃねえか!」
もしかして。
王権そのものが俺に合わせて変化している?
その可能性はある。
なら――。
この国は本当に変えられる。
そのとき。
『転移門建設進行率:18%』
【完成予定まで:約20時間】
俺は表示を見る。
「待ってる時間はないな」
「では?」
「黒騎士団は先に出発」
ヴァルドが立ち上がる。
「目的地は?」
「アルディア王都」
「御意」
「黒骸兵も連れていけ」
「陛下は?」
「転移門が完成したら追いかける」
「護衛は?」
俺は隣を見る。
リゼリアが笑っていた。
「私がおります」
「一番危険そうだけどな」
「まあ」
「褒めてない」
ヴァルドが馬に乗る。
四十九人の黒騎士も続く。
黒骸兵百人が隊列を組んだ。
「黒騎士団!」
ヴァルドが大剣を掲げる。
「三百年ぶりの出陣である!」
五十騎の青白い瞳が光る。
「王命はただ一つ!」
俺は少し嫌な予感がした。
「敵を――」
ヴァルドが一瞬止まった。
「…………」
ものすごく言いにくそうだ。
「敵を……」
そして叫んだ。
「殺すな!」
黒騎士たちが沈黙した。
「…………」
「…………」
「…………」
数秒後。
「「「御意!」」」
絶対納得してないだろ。
だが。
五十騎が走り出す。
ドドドドドドド――!
その後ろを黒骸兵百人が続く。
わずか百五十の軍勢。
向かう先には――二万五千。
俺はまだ知らなかった。
この日。
アルディア王国の歴史書に残ることになる戦いが始まったことを。
後世。
『黒騎士五十騎の奇跡』
そう呼ばれる戦いが――。
世界にノクス王国の名を、再び刻みつけることになる。




