第4話 三百の軍勢――滅びた王国への宣戦。
アルディア王国軍。
兵力――約三百。
復活して一日しか経っていない俺の国に、いきなり三倍の軍勢が向かってきている。
「……早すぎない?」
俺は遠くに見える白い旗を眺めた。
「何がでしょうか、陛下」
「普通さ、国を作ったら最初は畑作ったり、家建てたりするもんじゃないの?」
「左様ですね」
「なのに何で初日から戦争なんだよ」
「運がよろしいのでは?」
「どこが!?」
リゼリアは本気で言っているらしい。
ダメだ。
こいつと俺では、平和という言葉の意味が違う。
「それより、あの軍隊は俺たちを狙ってるのか?」
『敵軍の進路を解析』
【目的地:ノクス王城】
「完全にこっちだな……」
ゴブリンに捕まっていた五人の表情が青ざめる。
そのうちの一人――先ほど俺の手を払った年配の男が口を開いた。
「おそらく……我々を探しに来たのではありません」
「じゃあ何だ?」
男は王城がある方角を見る。
「城です」
「城?」
「ノクス王城が復活したからです」
なるほど。
あれだけ巨大な城が突然復活すれば、周辺国が気づかないわけがない。
「アルディアってどんな国なんだ?」
「この地域を支配している王国です。ここから東に三日ほど進んだ場所に王都があります」
「強い?」
「大国とまでは言えません。しかし、この周辺では最大の国です」
男は俺を見る。
「そして――三百年前、ノクス王国を滅ぼした七王国の一つです」
「……なるほど」
因縁の相手というわけか。
「現在も七王国は残ってる?」
「すべてではありません。滅びた国もありますし、名前を変えた国もあります」
「アルディアは残った、と」
「はい」
面倒だな。
向こうからすれば、三百年前に倒したはずの敵国が突然復活したことになる。
警戒するのは当然か。
「陛下」
リゼリアが前へ出る。
「私にお任せください」
「何するつもり?」
「三百名でしたら――」
リゼリアが微笑む。
「一撃で消せます」
「却下」
「まだ最後まで申し上げておりませんが」
「絶対ろくなこと言わないだろ」
「山ごと消滅させようかと」
「ほらな!」
危ない。
こいつに任せたら外交どころか地形まで変わる。
「黒骸兵団を城へ戻す」
「戦わないので?」
「まず話す」
相手が攻めてきたと決まったわけじゃない。
できるなら戦争は避けたい。
俺たちは五人を連れて王城へ戻った。
◇ ◇ ◇
王城へ戻ると、十二人の民が俺たちを迎えた。
救出した五人を見て驚いている。
「この人たちは?」
「森でゴブリンに捕まってた。食事と休める場所を用意してやってくれ」
「か、かしこまりました!」
臣民の一人が慌てて頭を下げる。
なんだか本当に王みたいになってきた。
いや、王なんだけど。
『救助者を王国内へ受け入れました』
【移住希望判定中】
勝手に判定するのか。
まあいい。
「それより迎撃準備だ」
黒骸兵百人を城門前に配置する。
俺は城壁の上へ向かった。
そこからなら周囲を一望できる。
しばらくすると――。
ドドドドドド……。
地面が震え始めた。
来た。
白銀の鎧を身につけた兵士たち。
騎兵。
歩兵。
弓兵。
約三百人。
俺たちとは違い、完全に人間の軍隊だ。
先頭には白馬に乗った男がいる。
金色の鎧。
年齢は四十前後だろうか。
軍勢は王城から少し離れた場所で停止した。
「ノクス王城の者に告ぐ!」
男の声が響く。
「私はアルディア王国第三騎士団団長、ガレス・バルド!」
やっぱり来た目的は俺たちか。
「三百年前に滅びたはずのノクス王城が復活したとの報告を受け、調査に参った!」
調査。
戦争ではないらしい。
少し安心した。
「城の責任者と話がしたい!」
「陛下」
リゼリアを見る。
「私が参りましょうか?」
「いや」
俺は階段へ向かった。
「俺が行く」
「危険です」
「話し合うのに王が隠れてどうする」
「陛下は非常にお弱いので」
「三回目だぞ、それ!」
俺は黒骸兵十人だけを連れ、城門を出た。
リゼリアも当然のようについてくる。
三百人の兵士たちがざわついた。
「アンデッド……?」
「本当にノクスなのか……?」
「黒骸兵だ……」
どうやら、この兵士たちを知っている者もいるらしい。
俺はガレスという男の前まで進んだ。
「責任者はお前か?」
「一応」
「名を聞こう」
「レオン・アークレイ」
「立場は?」
一瞬迷った。
でも、隠す意味はない。
「ノクス王国国王」
ざわっ。
三百人が一斉に騒ぎ始める。
「国王だと!?」
「そんな馬鹿な!」
「ノクス王家は滅びたはずだ!」
ガレスが俺を睨む。
「証明できるか?」
「証明?」
「貴様がノクス王であるという証拠だ」
そんなこと言われても。
免許証みたいなものはない。
すると――。
『王権証明を実行しますか?』
便利だな、お前。
「実行」
次の瞬間。
俺の背後に巨大な黒い光が現れた。
「なっ……!」
光は翼を広げる。
黒竜。
ノクス王国の紋章。
空中に巨大な黒竜の紋章が浮かび上がった。
黒骸兵たちが一斉に跪く。
リゼリアも胸に手を当て、頭を下げた。
「我らが王に、永遠の忠誠を」
アルディア兵たちが静まり返った。
ガレスの顔から余裕が消える。
「王権紋……」
知っているらしい。
「本物……なのか」
「これでいい?」
「…………」
ガレスはしばらく黙っていた。
そして。
「ノクス王よ」
声の調子が変わった。
「貴国の目的を聞きたい」
「目的?」
「三百年前――ノクス王国は大陸統一を掲げ、各国へ侵攻した」
やっぱり本当にやってたんだ。
「今度は何をするつもりだ?」
「何もしない」
「……何?」
「俺は昨日目覚めたばかりだ」
ガレスが眉をひそめる。
「意味が分からん」
「俺も分からない」
「…………」
「でも、少なくともアルディアを攻めるつもりはない」
「信用しろと?」
「今すぐは無理だろうな」
俺は正直に答えた。
「だったら監視でも何でもすればいい。ただし――」
後ろの王城を見る。
「あそこにいる十二人は俺の国民だ」
昨日まで名前すら知らなかった人たち。
でも。
俺の国に置いてほしいと言った。
なら、俺には責任がある。
「俺の民には手を出すな」
ガレスの目が細くなる。
「出したらどうする?」
「守る」
「三百の軍を相手に?」
「人数は関係ない」
そう答えた瞬間。
リゼリアが嬉しそうに笑った。
「陛下」
「何?」
「今のお言葉、素晴らしゅうございました」
「静かにしてて」
「はい」
ガレスが剣に手を置いた。
周囲の兵士も一斉に武器を構える。
黒骸兵たちも反応する。
「待て」
俺が命じる。
黒骸兵は動かない。
「俺は戦いに来たんじゃない」
「こちらもだ」
ガレスが答えた。
「なら剣から手を離してくれ」
「…………」
しばらく睨み合う。
やがて。
ガレスが剣から手を離した。
「分かった」
兵士たちも武器を下ろす。
よかった。
最初の外交で戦争なんて洒落にならない。
「だが一つ条件がある」
「条件?」
「アルディア王国へ来てもらう」
「俺が?」
「そうだ」
ガレスは俺を真っ直ぐ見る。
「我が国王と直接話してもらいたい」
「…………」
敵国の王都。
危険なのは間違いない。
だが、このまま互いに警戒し続けるよりはいい。
「分かった」
「陛下」
リゼリアが低い声を出した。
「大丈夫だ」
「しかし――」
「話すだけだ」
俺はガレスを見る。
「行くよ」
「感謝する」
その瞬間。
『特殊任務が発生しました』
【特殊任務】
【最初の外交】
【アルディア国王と会談せよ】
【成功報酬:王国経験値5000】
【失敗条件:アルディア王国との開戦】
「…………」
失敗条件が怖すぎる。
すると。
突然、後方から馬が駆けてきた。
「団長!」
アルディア兵の一人だ。
顔が真っ青になっている。
「どうした?」
「緊急報告です!」
兵士が馬から飛び降りる。
「王都より伝令!」
ガレスが振り返った。
「申せ!」
「西方国境にて――」
兵士が息を切らしながら叫ぶ。
「ヴァルガス帝国軍が侵攻を開始!」
「何!?」
アルディア兵たちが騒然となった。
「敵兵力は!?」
「確認できただけで――」
伝令が答える。
「およそ五千!」
五千。
俺は思わず聞き返した。
「……五千?」
こっちは百。
アルディア軍ですら三百。
桁が違う。
「さらに帝国軍は国境砦を突破!」
「馬鹿な! あそこには千の守備兵がいたはずだ!」
「全滅です!」
ガレスの顔色が変わった。
その瞬間。
俺の頭の中にも声が響いた。
『警告』
【大規模軍事行動を検出】
【ヴァルガス帝国】
【推定兵力:5,240】
【進軍方向――アルディア王都】
地図が表示される。
赤い光の大群が東へ進んでいた。
その先にはアルディア王都。
そして――。
さらにその先には。
俺たちのノクス王国がある。
「これ……アルディアが落ちたら」
リゼリアが答える。
「次は我が国でしょう」
「だよな」
復活二日目。
今度は五千人。
「陛下」
「何?」
「今度こそ――」
リゼリアが嬉しそうに微笑む。
「滅ぼしてよろしいですか?」
俺は目の前に広がる赤い光を見つめた。
どうやら――。
平和な国づくりは、まだまだ先になりそうだった。




