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第3話 軍団召喚――現れたのは百人の死兵だった。

 三百年の眠りから蘇ったノクス王城。

 その姿を見上げながら、俺は一つだけ確信していた。

 ――絶対に目立つ。

「これ……大丈夫なのか?」

「何がでしょうか、陛下」

 隣に立つリゼリアが首を傾げる。

「こんな巨大な城が突然復活したら、周りの国にバレるだろ」

「問題ございません」

「本当か?」

「はい」

 リゼリアは微笑んだ。

「発見した者をすべて消せばよろしいかと」

「それを問題って言うんだよ!」

「……難しいものですね」

「だから何で毎回そこに着地するんだ」

 俺はため息をついた。

 こいつに外交を任せるのだけは絶対にやめよう。

 後ろを見る。

 先ほど臣民となった十二人が、蘇った王城を呆然と眺めていた。

「本当に……ノクス王国が……」

 老人が震える声で呟く。

 その表情には恐怖と驚き――そして、わずかな希望が混ざっていた。

「とりあえず中に入ろう」

「よろしいのですか?」

「今日からこの国の民なんだろ?」

「……はい」

「だったら遠慮しなくていい」

 十二人を連れて城内へ入る。

 さっきまでとは完全に別物だった。

 崩れていた壁は黒い石材で美しく修復され、天井には巨大な魔石の照明が灯っている。

 廊下には黒と銀の旗。

 中央には見覚えのない紋章が描かれていた。

 翼を広げた黒い竜。

「これがノクス王国の紋章か?」

「左様でございます」

「なんか……悪の帝国っぽくない?」

「最高のお褒めの言葉にございます」

「褒めてない」

 そんな話をしていると――。

『王国レベル2への移行が完了しました』

 例の声が響いた。

『第二王権を使用できます』

 来た。

 さっき表示された能力。

【第二王権――軍団召喚】

 名前からして、とんでもない。

「リゼリア」

「はい」

「軍団召喚って知ってる?」

 その瞬間。

 リゼリアの表情が変わった。

「……すでにそこまで?」

「何かまずい?」

「いいえ」

 彼女は俺の前に跪いた。

「おめでとうございます、陛下」

「そんなすごい能力なのか?」

「王国の軍勢を呼び戻す力にございます」

「呼び戻す?」

「はい。かつてノクス王国に仕えた者たち。その魂の一部は王権の中に保存されております」

「つまり……昔の兵士を召喚できる?」

「その認識で問題ございません」

 なるほど。

 臣下召喚がリゼリアのような強力な個人を呼び出す能力。

 軍団召喚は兵士をまとめて呼び出す能力ということか。

「じゃあ、使ってみる」

「お待ちください」

「ん?」

「城内での召喚はおすすめいたしません」

「なんで?」

「少々……数が多い可能性がございますので」

「…………」

 先に言ってくれて助かった。

 俺たちは王城の外にある広場へ移動した。

 十二人の民も興味深そうについてくる。

 俺は広場の中央に立った。

「どうやって使うんだ?」

『第二王権を使用しますか?』

 タイミングよく声が響く。

「ああ」

『召喚可能軍団を検索します』

 目の前に文字が並んだ。

【第一軍団:解放条件未達成】

【第二軍団:解放条件未達成】

【第三軍団:解放条件未達成】

【第四軍団:解放条件未達成】

「全部使えないじゃん」

『初回召喚特典があります』

「最初からそっち出してくれ」

【初回召喚】

【黒骸兵団】

【召喚数:100】

【実行しますか?】

「黒骸……?」

 嫌な名前だ。

「リゼリア、これ知ってる?」

「存じております」

「強い?」

「雑兵です」

「そうなのか」

「はい」

 リゼリアが何でもないことのように答える。

「私であれば一分ほどで殲滅できます」

「比較対象がおかしいんだよ」

 まあいい。

 今の王国には兵士が一人もいない。

 百人も来てくれるなら十分だ。

「召喚する」

『承認しました』

 その瞬間。

 広場全体に巨大な魔法陣が現れた。

 ズズズズズズ――。

 地面から黒い霧が噴き出す。

 十二人の民が悲鳴を上げた。

「陛下!」

「大丈夫……たぶん」

 俺も怖い。

 やがて霧の中から何かが現れた。

 一人。

 二人。

 十人。

 二十人。

 どんどん増える。

 全員が黒い鎧を身につけていた。

 顔は兜で隠れている。

 手には長剣と盾。

 だが、兜の隙間から見えるのは――。

 白い骨。

「……アンデッド?」

「左様でございます」

 百人。

 整然と並んだ黒い骸骨の兵士たち。

 その姿は、どう見ても魔王軍だ。

「俺……人間側だよな?」

「もちろんでございます」

「本当に?」

 不安になってきた。

 そのとき。

 百人の黒骸兵が一斉に剣を地面へ突き立てた。

 ドンッ!

 全員が俺に向かって跪く。

『黒骸兵団の召喚に成功しました』

【兵力:0→100】

「おお……」

 壮観だ。

 百人の兵士が俺の命令を待っている。

「立て」

 ザッ!

 全員が同時に立ち上がる。

「右向け」

 ザッ!

「左」

 ザッ!

「座れ」

 ガシャン!

「おお!」

「陛下」

「なんだ?」

「楽しんでおられますか?」

「ちょっとだけ」

 人生で百人を同時に動かす機会なんて普通ない。

 だが、遊んでいる場合じゃない。

「この兵士たちは飯とか必要なのか?」

「必要ございません」

「寝る場所は?」

「不要です」

「給料は?」

「不要です」

「維持費ゼロ?」

「左様でございます」

「めちゃくちゃ優秀じゃん」

 国庫には金貨千枚しかない。

 維持費がかからない軍隊はありがたい。

『王国軍が設立されました』

『新たな王国任務が発生しました』

【王国任務】

【領土内の安全を確保せよ】

【達成条件:領土内の脅威を排除】

【報酬:領土拡張権×1】

「領土拡張……」

 これは欲しい。

 今の領土は王城周辺だけ。

 国を大きくするなら必要になるはずだ。

「脅威って何だ?」

 すると地図のようなものが表示された。

 王城を中心に、森や山が描かれている。

 その一角。

 赤い光が点滅していた。

【脅威を検出】

【北東の森】

【推定数:42】

【種族:ゴブリン】

「ゴブリンか」

 いかにも異世界らしい。

「リゼリア」

「すぐに皆殺しにしてまいります」

「まだ何も言ってない!」

「違いましたか?」

「今回は近いけど!」

 とりあえず話を聞いてくれ。

「ゴブリンって危険なのか?」

「通常個体であれば、人間の成人男性より少し弱い程度でしょう」

「じゃあ黒骸兵は?」

「一体で十体程度なら問題ないかと」

「……百人いらなくない?」

「必要ありませんね」

 四十二体に対して百人。

 しかも一体で十体倒せる。

 完全に過剰戦力だ。

 だけど――。

「初戦だからな」

 俺は百人の兵士を見る。

「全員で行く」

「承知いたしました」

 初めての軍事行動。

 俺たちは北東の森へ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 一時間ほど歩いた。

 疲れない。

 これも王の身体能力補正らしい。

「陛下」

 リゼリアが止まった。

「おります」

「どこ?」

「あちらです」

 森の奥。

 耳を澄ませる。

 何か聞こえる。

「ギャッ!」

「ギャギャ!」

 確かにいる。

 俺は兵士たちを止めた。

「どうする?」

「陛下がお命じになれば、黒骸兵団が殲滅いたします」

 簡単に言う。

 だが――。

「ちょっと待て」

 俺は木々の隙間から様子を確認した。

 ゴブリン。

 初めて見る。

 緑色の小さな人型生物。

 数は四十体ほど。

 そして。

「……あれ」

 檻があった。

 木で作られた粗末な檻。

 中に人間がいる。

「捕まってる?」

「そのようですね」

 若い男女が五人。

 全員ボロボロだ。

「先に助ける」

「承知いたしました」

「人質に被害を出すなよ」

「でしたら私が――」

「リゼリアは待機」

「……なぜでございますか?」

「黒骸兵団の力を確認したい」

 少し考えてから付け加える。

「それに君が出たら、一瞬で終わるだろ」

「三秒ほどいただければ」

「ほらな」

 俺は黒骸兵たちを見る。

 どう指示する?

 ゲームなら簡単だ。

 だが、これは現実。

 一つ間違えれば人が死ぬ。

 考えろ。

 ゴブリンの位置。

 檻。

 逃走経路。

「二十人で檻を確保」

 兵士たちが動く。

「四十人は右から回り込め」

 別の集団が森へ消える。

「残り四十人は俺と正面」

 リゼリアが俺を見る。

「陛下」

「何?」

「戦術をご存じなのですか?」

「いや」

「では、今の指示は?」

「なんとなく」

「…………」

「そんな顔するなよ」

 でも。

 なぜだろう。

 分かる。

 兵士たちがどこにいるのか。

 まるで自分の手足のように感じられる。

『王権補正を確認』

【軍団指揮能力が発動しています】

「これか……」

 王には、軍を動かす能力まであるらしい。

 そして。

 配置が完了した。

「行け」

 俺が命じた瞬間。

 森の中から四十人の黒骸兵が飛び出した。

「ギャッ!?」

 ゴブリンたちが慌てる。

 同時に正面からも黒骸兵が突撃。

 完全な挟撃だ。

「ギャアア!」

「ギャッ!」

 戦闘は――。

 一方的だった。

 黒骸兵の剣が振るわれるたび、ゴブリンが倒れる。

 こちらは一体も倒れない。

「強っ……」

「雑兵ですが?」

「君基準で話すな」

 三分後。

 戦闘は終了した。

『領土内の脅威を排除しました』

【黒骸兵団損耗:0】

【王国任務達成】

【領土拡張権×1を獲得しました】

「よし」

 檻に近づく。

 黒骸兵が扉を破壊した。

 中にいた五人が怯えながら出てくる。

「助けに来た。もう大丈夫だ」

「あなたは……?」

「俺は――」

 そのとき。

 一人の男が俺の後ろを見て、顔を青ざめさせた。

「黒い……骸骨の軍隊……」

 まずい。

 完全に怖がられている。

「違う。こいつらは俺の兵士で――」

「ノクス……」

「え?」

 年配の男が震えていた。

「その紋章……黒竜の紋章……」

 俺の胸元を指差している。

「知ってるのか?」

「そんな……」

 男の顔から血の気が引いた。

「ノクス王国は……三百年前に滅びたはずだ」

 やっぱり知られている。

 俺は男へ手を差し出した。

「事情は後で説明する。とりあえず安全な場所まで――」

「触るな!」

 手を払われた。

「…………」

「す、すみません……ですが……」

 男は怯えながら俺を見る。

「ノクス王国は……悪魔の国です」

「……悪魔?」

「子供でも知っています」

 男は震えていた。

「三百年前、大陸全土を滅ぼそうとした魔王の国」

「…………」

 俺はリゼリアを見る。

 リゼリアは――。

 笑っていた。

「リゼリア」

「はい、陛下」

「聞いてた話と違うんだけど」

「何がでしょう?」

「君、七王国に恐れられて攻められたって言ったよな?」

「はい」

「大陸を滅ぼそうとしたって言ってるぞ」

「そのような説もございますね」

「初耳なんだけど!」

 嫌な予感がする。

 ものすごく嫌な予感だ。

「リゼリア」

「はい」

「ノクス王国って……本当は何をした国なんだ?」

 彼女は少しだけ考えた。

 そして。

 美しく微笑んだ。

「世界を統一しようとしただけでございます」

「それ、侵略って言わない?」

「見る者の立場によるかと」

「…………」

 俺は頭を抱えた。

 どうやら俺が受け継いだ国は――。

 ただの滅びた王国ではなかったらしい。

『警告』

 その瞬間。

 頭の中に声が響いた。

『領土境界付近に多数の生命反応を検出』

「今度は何だ?」

【所属:アルディア王国】

【兵力:約300】

【王国領土へ接近中】

「三百……?」

 俺は顔を上げた。

 森の遥か向こう。

 地平線に――。

 大量の騎兵が見えた。

 風に揺れる白い旗。

 その中央に描かれているのは、金色の獅子。

 助け出した男が、その旗を見て叫んだ。

「アルディア王国軍だ!」

 俺の国。

 復活して、まだ一日目。

 臣民十二人。

 兵士百人。

 そして――。

 最初の敵国がやってきた。

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