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2/20

第2話 最初の臣下が、どう考えても強すぎる。

「ご命令を、我が王」

 俺の前に跪く銀髪の女――リゼリア。

 見た目だけなら、息を呑むほど美しい。

 だが問題はそこじゃない。

【個体名:リゼリア】

【種族:魔族】

【階級:災厄級】

【レベル:???】

 災厄級。

 どう考えても物騒だ。

 しかも、俺ではレベルすら測定できない。

「リゼリア」

「はい、我が王」

「まず確認したいんだけど……俺のこと、知ってるのか?」

「もちろんでございます」

 即答だった。

「じゃあ、俺が誰なのか説明してくれ」

「我らが王にございます」

「それは知ってる」

「ノクス王国を統べる唯一絶対の御方」

「そこじゃなくて」

 話が噛み合わない。

「俺は……レオン・アークレイなんだよな?」

「はい」

「じゃあ、前の俺については?」

 リゼリアが首を傾げる。

「前、とは?」

「……いや、いい」

 やっぱりダメだ。

 少なくとも、俺が日本にいた人間だったことは知らないらしい。

 そもそも、なぜ俺がここにいるのか。

 なぜ王になったのか。

 分からないことだらけだ。

「じゃあ次。この国について教えてくれ」

 そう尋ねると、リゼリアの表情がわずかに変わった。

「ノクス王国は――滅びました」

「……やっぱり?」

「三百年前に」

「三百年!?」

 思わず声が裏返った。

 そんな昔なのか。

「なんで滅びた?」

「七王国連合による侵攻です」

「七王国……」

「かつてノクス王国は、この大陸でも有数の強国でした。しかし周辺諸国は、その力を恐れました」

 リゼリアが静かに立ち上がる。

「そして七つの国が同盟を結び、我が国へ侵攻しました」

「負けたのか」

「はい」

 少し意外だった。

 これだけ強そうな臣下を召喚できる国が、簡単に滅ぼされるのだろうか。

「当時も、君みたいな奴がいたんじゃないのか?」

「おりました」

「じゃあ、なんで……」

「王が殺されたからです」

 空気が変わった。

 リゼリアの赤い瞳が、一瞬だけ鋭くなる。

「ノクス王国の力は王を中心として成り立っています。王を失えば、王権によって存在していた臣下や兵士の多くも力を失います」

「なるほど……」

 つまり俺が死ねば終わり。

 とんでもなく重要な情報じゃないか。

「ちなみに俺、どれくらい強い?」

「現在の陛下ですか?」

「ああ」

 リゼリアは少し考えた。

「非常にお弱いです」

「…………」

 即死級の言葉が飛んできた。

「もうちょっと言い方ない?」

「申し訳ございません」

「いや、いいけどさ」

 レベル2だ。

 そりゃ弱いだろう。

「じゃあリゼリアは?」

「私でございますか?」

「ああ」

「現在の大陸であれば――」

 リゼリアは何でもないことのように答えた。

「一国程度でしたら、単独で滅ぼせるかと」

「…………」

 聞かなきゃよかった。

「絶対に滅ぼすなよ」

「かしこまりました」

「本当に分かってる?」

「もちろんでございます」

 怪しい。

 ものすごく怪しい。

 そのときだった。

『警告』

 頭の中に声が響いた。

『王国領内への侵入者を確認』

「侵入者?」

 目の前に文字が現れる。

【侵入者:12】

【位置:王城南門】

【敵対判定:不明】

 リゼリアの雰囲気が一変した。

「陛下」

「ん?」

「殺してまいります」

「待て待て待て!」

 早い。

 判断が早すぎる。

「まだ敵かどうか分からないだろ!」

「王の領土へ許可なく侵入した時点で敵では?」

「違う!」

「では、半殺しに」

「もっとダメ!」

「難しいものですね」

 何が難しいんだ。

「とりあえず様子を見る。俺も行く」

「なりません」

 即答だった。

「なんで?」

「陛下は非常にお弱いので」

「二回言わなくていい!」

 とはいえ、正論ではある。

 だがここで引きこもっていても何も分からない。

「俺は王なんだろ?」

「はい」

「だったら、自分の国に誰が来たのかくらい自分で確認する」

「…………」

 リゼリアは少し黙った。

 やがて、静かに頭を下げる。

「承知いたしました」

 俺たちは王城の南門へ向かった。

 歩きながら、改めて城を見る。

 ひどい。

 廊下は崩れ、窓は割れ、いたるところに植物が入り込んでいる。

 三百年放置されたと言われれば納得できる。

「これ……本当に直せるのか?」

『王国機能の拡張により修復可能です』

「また急に出てくるな」

 頭の声にも少し慣れてきた。

「修復するには?」

【必要条件】

【臣民:10】

【国庫:1000】

【領土:1】

 臣民10。

 国庫1000。

「金も人もいないんだけど」

『現在の達成率:33%』

「領土しかないからな!」

 先は長そうだ。

 やがて南門に到着した。

 巨大な門は半分崩れている。

 その向こうから声が聞こえた。

「急げ!」

「もう追いつかれる!」

「子供を先に!」

 ……子供?

 俺は瓦礫の陰から外を見る。

 そこにいたのは、ボロボロの服を着た人たちだった。

 老人。

 女。

 そして小さな子供。

 全部で十二人。

 武器らしい武器はほとんど持っていない。

「侵略者には見えないな」

「陛下」

 リゼリアが静かに言った。

「後方から別の集団が接近しております」

「別の?」

 耳を澄ます。

 遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。

 次第に大きくなる。

「いたぞ!」

「逃がすな!」

 武装した男たちが森から現れた。

 五人。

 全員が剣や弓を持っている。

 逃げてきた人々が悲鳴を上げた。

「お願いします!」

 一人の女が叫んだ。

「子供だけでも!」

 武装した男が笑う。

「借金も払えねえ奴が何言ってやがる」

「村は焼かれたんです! 払えるわけが――」

「知るか」

 男が剣を抜いた。

 俺は思わず前に出た。

「おい」

 全員の視線がこちらを向く。

「誰だ、てめえ?」

「俺は……」

 言いかけて止まる。

 なんて名乗ればいい?

 日本人?

 レオン?

 それとも――。

 王?

 その瞬間、リゼリアが俺の横に立った。

「頭が高い」

「は?」

「御前であるぞ」

 男たちが顔を見合わせる。

「御前?」

「誰のだよ」

 リゼリアが微笑んだ。

「この地を統べる――ノクス王国国王陛下の御前である」

 空気が止まった。

 逃げてきた人々も俺を見る。

 そして武装した男たちも。

 やがて一人が吹き出した。

「ノクス王国?」

「三百年前に滅んだ国じゃねえか!」

「こいつ頭がおかしいぞ!」

 笑い声が響く。

 俺は小さくため息をついた。

 まあ、そうなるよな。

 ところが。

「陛下」

 リゼリアが俺を見る。

「やはり殺してよろしいでしょうか?」

「だからダメだって」

「残念です」

 本当に残念そうにするな。

 武装した男の一人がこちらへ歩いてきた。

「どけ」

「嫌だと言ったら?」

「死ぬだけだ」

 男が剣を振り上げる。

 怖い。

 さっきの甲冑とは違う。

 生きている人間だ。

 でも――。

 後ろを見る。

 震えている子供がいた。

 母親らしき女性が、その子を抱きしめている。

 ここで退いたら。

 たぶん、この人たちは殺される。

「……リゼリア」

「はい」

「殺すな」

「承知いたしました」

「でも――」

 俺は男たちを見る。

「追い返せ」

 その瞬間。

 リゼリアが笑った。

「御意」

 消えた。

「え?」

 次の瞬間。

 ドォォォン!

 地面が爆発した。

「うわああああ!」

 武装した男たちがまとめて吹き飛ぶ。

「…………」

 俺は言葉を失った。

 地面には巨大な亀裂。

 木々がなぎ倒されている。

 なのに――。

 五人とも生きていた。

「ば、化け物……!」

「逃げろ!」

 男たちは武器を捨て、一目散に森へ逃げていった。

 リゼリアが戻ってくる。

「追撃いたしますか?」

「しなくていい」

「承知いたしました」

 俺は改めて思った。

 こいつ。

 本当に強すぎる。

 そのとき。

「……あの」

 後ろから声がした。

 振り返る。

 逃げてきた十二人が、俺を見ていた。

 一人の老人が前に出る。

「先ほど……ノクス王国の王と」

「あー……」

 どう説明したものか。

「一応、そうらしいです」

「らしい?」

「いや、こっちの話です」

 老人は俺の後ろにある巨大な城を見上げた。

「この城に……住んでおられるのですか?」

「今日からですけど」

「…………」

 また変な顔をされた。

 仕方ない。

 俺自身、状況を理解していない。

 老人は少し迷ったあと――。

 突然、地面に膝をついた。

「え?」

 他の十一人も続く。

「ちょっと、何してるんですか?」

「お願いがございます」

 老人が頭を下げた。

「我々を――」

 声が震えていた。

「この国に置いていただけないでしょうか」

 その瞬間。

 頭の中に声が響いた。

『条件達成を確認』

『移住希望者を検出しました』

【移住希望者:12】

【受け入れますか?】

 俺は表示された文字を見る。

 臣民。

 確か城の修復に必要だった人数は――10人。

「……まさか」

 俺は小さく笑った。

「もちろん」

【移住を承認しました】

 文字が切り替わる。

【臣民:0→12】

【王国復興条件を達成】

【臣民10/10】

【領土1/1】

【新機能が解放されます】

【王国施設――国庫】

【王国任務が解放されます】

【初回任務:民を守る王】

【報酬:金貨1000枚】

「……え?」

【任務達成】

【金貨1000枚を獲得しました】

【国庫:0→1000】

 さらに表示が変わる。

【王城修復条件をすべて達成しました】

【王城を修復しますか?】

「…………」

 俺は崩れかけた城を見上げた。

 臣民十二人。

 最強らしい臣下一人。

 そして金貨千枚。

 目覚めたときには、本当に何もなかった。

 それなのに――。

「修復する」

『承認しました』

 ゴゴゴゴゴゴゴ――!

「な、なんだ!?」

 大地が揺れた。

 崩れていた城壁が浮かび上がる。

 割れた石が元の位置へ戻り、亀裂が消えていく。

 朽ち果てた門が巨大な黒い城門へと変わる。

 十二人の民が呆然と見上げている。

 そして俺も――同じだった。

 数分後。

 そこにはもう、廃墟はなかった。

 月明かりの下。

 巨大な黒い王城が、三百年の眠りから蘇っていた。

『ノクス王城の修復が完了しました』

『王国レベルが上昇しました』

【ノクス王国】

【王国レベル:2】

【臣民:12】

【兵力:0】

【国庫:1000】

【領土:1】

 だが。

 最後に、見覚えのない表示が現れた。

【王国レベル2到達報酬】

【第二王権が解放されます】

「第二王権……?」

 表示された能力名を見て、俺は固まった。

【第二王権――軍団召喚】

 リゼリアが静かに笑った。

「陛下」

「……なんだ?」

「ようやく――」

 真紅の瞳が月明かりを反射する。

「我らの国が、始まりますね」

 臣民十二人から始まった、小さな国。

 この夜。

 三百年前に滅びたはずのノクス王国が――。

 再び、世界に姿を現した。

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