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18/20

第18話 未来の俺――十三日後、王女を殺すのは誰だ。

【十三日後】

【王都セレナ】

【第二の王殺し】

【殺害者――レオン・アークレイ】

「…………」

 何度見ても。

 俺の名前だった。

「いやいやいや」

 俺は首を振る。

「殺さないよ?」

『…………』

「絶対殺さない」

『未来事象は確定していません』

「じゃあこの七十八・四%って何?」

【現在観測可能な未来における発生確率です】

「変えられる?」

【可能です】

「なら問題ない」

「陛下」

 リゼリアが俺を見る。

「簡単にお考えにならない方がよろしいかと」

「分かってる」

 でも。

 未来が確定していないなら。

 やることは一つ。

「殺さなきゃいい」

「……単純だな」

 ガレスが呟いた。

「何?」

「いえ」

 少し笑っている。

「アルク陛下も同じことを仰ったでしょう」

「やめて」

「なぜです?」

「最近それ言われすぎて、ちょっと嫌になってきた」

 俺は俺だ。

 アルクじゃない。

 同じ魂だろうが。

 記憶があろうが。

「ところで」

 俺は水晶を見る。

「さっきの女は?」

 俺をこの世界へ戻した。

 そう言っていた。

「ガレス、知ってる?」

「声には覚えがありません」

「リゼリア?」

「私も」

「じゃあ誰なんだよ……」

 その瞬間。

『追加情報を解析』

【未来事象に含まれる魔力波長を照合】

【一致個体あり】

「誰?」

【レオン・アークレイ】

「俺?」

【一致率:100%】

「いや、それは殺害者が俺なんだから――」

【否定】

「何?」

【殺害時に検出された魔力】

【現在のレオン・アークレイとは異なる王権構造です】

「どういうこと?」

 表示。

【現在】

【新生王権】

 そして。

【未来】

【始祖王権・原初型】

「……原初型?」

 滅王派が欲しがっている。

 民の生命力を使う旧王権。

「つまり」

 ガレスが低い声で言う。

「何者かが、陛下の王権を元に戻す」

「そんなことできる?」

『可能性あり』

「嫌な回答」

【外部から王権中枢へ干渉された場合、新生王権が解除される可能性があります】

「誰がそんなことできる?」

【該当権限保持者】

【2名】

「二人?」

【一名:レオン・アークレイ】

「もう一人は?」

【情報制限】

「またそれか!」

 でも。

 思い当たる。

 王権保持者は二人。

 俺。

 そして。

 アリシア・セレナ。

「……王女?」

『回答できません』

「ほぼ答えてるだろ」

 ◇ ◇ ◇

 ノクス王国へ戻った俺は。

 すぐに会議を開いた。

 参加者。

 俺。

 リゼリア。

 セレスティア。

 イグニス。

 ハイン。

 そしてガレス。

「待て」

 イグニスがガレスを指差す。

「こいつが三百年前にアルクを殺した?」

「はい」

「殺していいか?」

「ダメ」

「なぜだ」

「アルク本人が頼んだから」

「意味が分からん」

「俺も」

 ガレスが頭を下げる。

「古代竜イグニス殿」

「何だ」

「あなたの父、グラン殿の件については――」

 イグニスの目が鋭くなる。

「今は言うな」

「……承知しました」

「父の話は」

 イグニスが拳を握る。

「すべて分かってから聞く」

 少しだけ。

 こいつも変わった気がする。

「本題」

 セレスティアが机を叩く。

「十三日後なんでしょう?」

「うん」

「正確には?」

『残り12日と7時間』

「もう十三日切ってる!」

「時間は待ってくれないわ」

 セレスティアが地図を広げる。

「ノクスからセレナ王都まで、直線距離で約四百キロ」

「普通に行くと?」

「馬車なら十日以上」

「ギリギリじゃん」

「でも」

 彼女が俺を見る。

「あなた、転移門作れるでしょう?」

「あ」

 忘れてた。

「領土じゃないと無理じゃ?」

『転移門は自国領土外にも設置可能です』

「できるの!?」

【相手国の許可が必要です】

「ちゃんとしてる」

「セレナ王国へ使者を送る」

 セレスティアが言う。

「国交を結ぶ?」

「その前段階」

「何て言う?」

「あなたの国の王女が十二日後に暗殺されます。犯人はうちの王です」

「絶対入国拒否されるだろ!」

「でしょうね」

「真顔で言うな」

「なら普通に外交使節として行く」

「なるほど」

「ノクス王国はアルディアと不可侵条約を結んだ。帝国軍を撃退した実績もある」

「うん」

「今ならセレナ側も無視できない」

 セレスティア。

 こういう時、本当に頼りになる。

「問題は」

 ガレスが言う。

「セレナ王国はノクスに対して、アルディアより遥かに強い敵意を持っています」

「なんで?」

「三百年前」

 リゼリアが答えた。

「七王国連合を結成した中心国がセレナだからです」

「…………」

「当時のセレナ王は」

 ガレスが続ける。

「ノクスを魔王国と呼び、大陸の敵として討伐を呼びかけた」

「じゃあ俺、めちゃくちゃ嫌われてる?」

「おそらく」

「行きたくなくなってきた」

「行くのでしょう?」

 リゼリア。

「行くけど」

 ◇ ◇ ◇

 その日の午後。

 もう一つ問題が起きた。

『通知』

【ノクス王国への移住希望者が増加】

「また?」

【現在の臣民数:527】

【移住待機:1,842】

「千八百!?」

 ハインまで驚いている。

「なぜこれほど……」

『要因』

【神喰種討伐時の大規模魔力現象】

【アルディアでの古代竜鱗競売】

【ノクス王国の経済価値上昇】

【周辺地域で噂が拡散】

「どんな噂?」

【ノクスでは仕事がある】

【ノクスでは土地がもらえる】

【ノクス王は民を殺さない】

【ノクス王国には古代竜がいる】

【ノクス王は死者を蘇らせる】

「最後違う!」

『情報の真偽は保証されません』

「訂正して!」

 セレスティアが考えている。

「でも使える」

「何が?」

「人よ」

「全員受け入れる?」

「まさか」

 即答。

「国には必要な人材がある」

「農家とか?」

「農家、大工、鍛冶師、商人、医師、魔術師」

 指を折る。

「そして今、一番必要なのは」

「何?」

「冒険者」

「冒険者!」

 異世界っぽい単語が来た。

「ついに!」

「何で嬉しそうなの?」

「いや、なんとなく」

 セレスティアが呆れる。

「北部森林には魔物が多い。鉱山の護衛も必要」

「うん」

「兵士を全部そこへ回すより、冒険者ギルドを使った方がいい」

「そういえば解放されてたな」

【冒険者ギルド】

「建てよう」

【建設費:1,000】

「安い!」

「金銭感覚がおかしくなってるわよ」

 古代竜の鱗一枚五万を経験したせいだ。

【国庫:49,000→48,000】

【冒険者ギルド建設開始】

【完成予定:24時間】

「よし」

 すると。

『特殊条件達成』

「また?」

【人口500以上】

【冒険者ギルド建設】

【交易実績あり】

【王国レベル5】

【条件を満たしました】

【都市建設機能――解放】

「都市?」

 表示。

【現在のノクス王国】

【王城周辺居住区】

【人口:527】

【都市規模:集落】

「集落だったの!?」

「当然でしょう」

 セレスティア。

「王城だけ立派だから勘違いしてた……」

【都市昇格条件】

【人口1,000】

【市場】

【冒険者ギルド】

【治療所】

【防衛施設】

【達成時:ノクス王都として認定】

「王都……」

 少しワクワクする。

 自分の国。

 自分の街。

 でも。

 今は。

「セレナが先」

「ええ」

 ◇ ◇ ◇

 その夜。

 俺は一人で王城のバルコニーにいた。

 眠れない。

「未来の俺か……」

 王女を殺す。

 どういう状況なら。

 俺がそんなことをする?

「絶対にしない」

『未来事象は変動しています』

「ん?」

【第二の王殺し】

【発生確率:78.4%→74.1%】

「下がった?」

【現在の行動により未来が変化しました】

「じゃあ」

 俺がセレナへ行くと決めたから?

「ゼロにできる?」

【理論上可能】

「よし」

 やる。

 その瞬間。

 背後。

「レオン」

「うわっ!」

 イグニス。

「びっくりさせるなよ!」

「王のくせに警戒心がない」

「君の気配がおかしいんだよ」

 イグニスが隣へ。

「眠れんのか」

「まあね」

「未来の話か」

「うん」

「くだらん」

「え?」

「まだ起きてもいないことだ」

「でも七十四%」

「二十六%は起きない」

「…………」

 こいつ。

 たまに良いこと言う。

「イグニス」

「何だ」

「ありがとう」

「気持ち悪い」

「取り消す」

 その時。

 空。

 何かが光った。

「ん?」

 流れ星?

 違う。

 こっちへ来る。

「レオン!」

 イグニスが俺を掴む。

 ドォォォン!

 王城の中庭へ何かが落下した。

「何!?」

 俺たちは走る。

 リゼリアもすぐ現れた。

「陛下!」

「大丈夫!」

 中庭。

 煙。

 クレーター。

 その中央。

 一人の少女が倒れていた。

「女の子?」

 金色の髪。

 白銀の鎧。

 年齢は十八くらい。

「まさか……」

 見覚えがある。

 水晶に映っていた。

「アリシア……?」

 少女が目を開く。

「……ここは」

 俺を見る。

 そして。

 剣を抜いた。

「レオン・アークレイ!」

「え?」

「見つけた!」

 俺へ斬りかかる。

「ちょっ!」

 ガキィン!

 リゼリアが指二本で剣を止めた。

「陛下への無礼」

 殺気。

「万死に値します」

「殺すな!」

「まだ何もしておりません」

「目が殺してる!」

 アリシアが後ろへ飛ぶ。

「やはり……!」

 青い瞳。

 俺を睨む。

「未来で見た通り」

「未来?」

「十二日後!」

 アリシアが剣を構える。

「あなたは私を殺す!」

「俺もそれ聞いた!」

「……え?」

「だから助けに行こうとしてた!」

「…………」

「…………」

 妙な沈黙。

「どういうこと?」

「こっちが聞きたい」

 その瞬間。

 俺とアリシア。

 二人の胸元が同時に光った。

 黒い王権紋。

 銀の王権紋。

『警告』

【二つの王権が接触】

【始祖王権】

【聖王権】

「聖王権?」

 アリシアも驚いている。

「始祖王権……?」

 そして。

『三百年間停止していた機能を再起動します』

「何の機能?」

 表示された文字。

【双王システム】

【起動】

 俺とアリシアの間。

 一つの映像が現れる。

 三百年前。

 アルク。

 そして。

 その隣に立つ――。

 金色の髪の女性。

「誰……?」

 アリシアの顔が青ざめる。

「嘘……」

「知ってる?」

 彼女が震える声で答えた。

「初代セレナ女王」

「…………」

 映像の中。

 アルクと初代セレナ女王は。

 敵同士ではなかった。

 並んで立っていた。

 そして。

 二人が同時に告げる。

『未来の王たちへ』

『もしこの記録が開いたなら』

 アルクが笑う。

『俺たちは失敗した』

 女王が続ける。

『だから――』

 二人がこちらを見る。

『同じ失敗を繰り返さないで』

 映像が乱れる。

 最後。

 ほんの一瞬だけ。

 映った。

 三百年前。

 七王国連合がノクスへ侵攻した日。

 その軍勢の背後。

 すべてを見下ろしている。

 一人の女。

「……この声」

 俺は気づいた。

 俺をこの世界へ戻した女。

 同じ声。

 そして表示。

【個体照合】

【一致】

【三百年前の七王国戦争への関与を確認】

【レオン・アークレイの転生への関与を確認】

【アリシア・セレナの未来視への関与を確認】

 名前。

 ついに表示された。

【個体名――エリシア】

【種族――???】

【生存期間――最低1,200年以上】

【現在位置――セレナ王国王都】

 アリシアが息を呑む。

「……そんな」

「何?」

「エリシアって」

 彼女の手から剣が落ちた。

「私の――」

 震える。

「母の名前よ」

 沈黙。

「え?」

 アリシアが俺を見る。

「私を産んだ母は」

 青ざめた顔で。

 告げた。

「十八年前に死んだはずなの」

 その瞬間。

『未来事象更新』

【第二の王殺し】

【残り:12日】

【発生確率:74.1%→91.8%】

「上がった!?」

 さらに。

【新規未来事象を検出】

【王都セレナ崩壊】

【死者予測――812,441名】

 そして最後に。

【原因】

【エリシア覚醒】

 俺たちはまだ知らなかった。

 十二日後に起きるのは。

 王女一人の暗殺なんかじゃない。

 百二十万人が暮らす王都そのものを巻き込む、三百年前から準備された“王権戦争”だった。

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