第18話 未来の俺――十三日後、王女を殺すのは誰だ。
【十三日後】
【王都セレナ】
【第二の王殺し】
【殺害者――レオン・アークレイ】
「…………」
何度見ても。
俺の名前だった。
「いやいやいや」
俺は首を振る。
「殺さないよ?」
『…………』
「絶対殺さない」
『未来事象は確定していません』
「じゃあこの七十八・四%って何?」
【現在観測可能な未来における発生確率です】
「変えられる?」
【可能です】
「なら問題ない」
「陛下」
リゼリアが俺を見る。
「簡単にお考えにならない方がよろしいかと」
「分かってる」
でも。
未来が確定していないなら。
やることは一つ。
「殺さなきゃいい」
「……単純だな」
ガレスが呟いた。
「何?」
「いえ」
少し笑っている。
「アルク陛下も同じことを仰ったでしょう」
「やめて」
「なぜです?」
「最近それ言われすぎて、ちょっと嫌になってきた」
俺は俺だ。
アルクじゃない。
同じ魂だろうが。
記憶があろうが。
「ところで」
俺は水晶を見る。
「さっきの女は?」
俺をこの世界へ戻した。
そう言っていた。
「ガレス、知ってる?」
「声には覚えがありません」
「リゼリア?」
「私も」
「じゃあ誰なんだよ……」
その瞬間。
『追加情報を解析』
【未来事象に含まれる魔力波長を照合】
【一致個体あり】
「誰?」
【レオン・アークレイ】
「俺?」
【一致率:100%】
「いや、それは殺害者が俺なんだから――」
【否定】
「何?」
【殺害時に検出された魔力】
【現在のレオン・アークレイとは異なる王権構造です】
「どういうこと?」
表示。
【現在】
【新生王権】
そして。
【未来】
【始祖王権・原初型】
「……原初型?」
滅王派が欲しがっている。
民の生命力を使う旧王権。
「つまり」
ガレスが低い声で言う。
「何者かが、陛下の王権を元に戻す」
「そんなことできる?」
『可能性あり』
「嫌な回答」
【外部から王権中枢へ干渉された場合、新生王権が解除される可能性があります】
「誰がそんなことできる?」
【該当権限保持者】
【2名】
「二人?」
【一名:レオン・アークレイ】
「もう一人は?」
【情報制限】
「またそれか!」
でも。
思い当たる。
王権保持者は二人。
俺。
そして。
アリシア・セレナ。
「……王女?」
『回答できません』
「ほぼ答えてるだろ」
◇ ◇ ◇
ノクス王国へ戻った俺は。
すぐに会議を開いた。
参加者。
俺。
リゼリア。
セレスティア。
イグニス。
ハイン。
そしてガレス。
「待て」
イグニスがガレスを指差す。
「こいつが三百年前にアルクを殺した?」
「はい」
「殺していいか?」
「ダメ」
「なぜだ」
「アルク本人が頼んだから」
「意味が分からん」
「俺も」
ガレスが頭を下げる。
「古代竜イグニス殿」
「何だ」
「あなたの父、グラン殿の件については――」
イグニスの目が鋭くなる。
「今は言うな」
「……承知しました」
「父の話は」
イグニスが拳を握る。
「すべて分かってから聞く」
少しだけ。
こいつも変わった気がする。
「本題」
セレスティアが机を叩く。
「十三日後なんでしょう?」
「うん」
「正確には?」
『残り12日と7時間』
「もう十三日切ってる!」
「時間は待ってくれないわ」
セレスティアが地図を広げる。
「ノクスからセレナ王都まで、直線距離で約四百キロ」
「普通に行くと?」
「馬車なら十日以上」
「ギリギリじゃん」
「でも」
彼女が俺を見る。
「あなた、転移門作れるでしょう?」
「あ」
忘れてた。
「領土じゃないと無理じゃ?」
『転移門は自国領土外にも設置可能です』
「できるの!?」
【相手国の許可が必要です】
「ちゃんとしてる」
「セレナ王国へ使者を送る」
セレスティアが言う。
「国交を結ぶ?」
「その前段階」
「何て言う?」
「あなたの国の王女が十二日後に暗殺されます。犯人はうちの王です」
「絶対入国拒否されるだろ!」
「でしょうね」
「真顔で言うな」
「なら普通に外交使節として行く」
「なるほど」
「ノクス王国はアルディアと不可侵条約を結んだ。帝国軍を撃退した実績もある」
「うん」
「今ならセレナ側も無視できない」
セレスティア。
こういう時、本当に頼りになる。
「問題は」
ガレスが言う。
「セレナ王国はノクスに対して、アルディアより遥かに強い敵意を持っています」
「なんで?」
「三百年前」
リゼリアが答えた。
「七王国連合を結成した中心国がセレナだからです」
「…………」
「当時のセレナ王は」
ガレスが続ける。
「ノクスを魔王国と呼び、大陸の敵として討伐を呼びかけた」
「じゃあ俺、めちゃくちゃ嫌われてる?」
「おそらく」
「行きたくなくなってきた」
「行くのでしょう?」
リゼリア。
「行くけど」
◇ ◇ ◇
その日の午後。
もう一つ問題が起きた。
『通知』
【ノクス王国への移住希望者が増加】
「また?」
【現在の臣民数:527】
【移住待機:1,842】
「千八百!?」
ハインまで驚いている。
「なぜこれほど……」
『要因』
【神喰種討伐時の大規模魔力現象】
【アルディアでの古代竜鱗競売】
【ノクス王国の経済価値上昇】
【周辺地域で噂が拡散】
「どんな噂?」
【ノクスでは仕事がある】
【ノクスでは土地がもらえる】
【ノクス王は民を殺さない】
【ノクス王国には古代竜がいる】
【ノクス王は死者を蘇らせる】
「最後違う!」
『情報の真偽は保証されません』
「訂正して!」
セレスティアが考えている。
「でも使える」
「何が?」
「人よ」
「全員受け入れる?」
「まさか」
即答。
「国には必要な人材がある」
「農家とか?」
「農家、大工、鍛冶師、商人、医師、魔術師」
指を折る。
「そして今、一番必要なのは」
「何?」
「冒険者」
「冒険者!」
異世界っぽい単語が来た。
「ついに!」
「何で嬉しそうなの?」
「いや、なんとなく」
セレスティアが呆れる。
「北部森林には魔物が多い。鉱山の護衛も必要」
「うん」
「兵士を全部そこへ回すより、冒険者ギルドを使った方がいい」
「そういえば解放されてたな」
【冒険者ギルド】
「建てよう」
【建設費:1,000】
「安い!」
「金銭感覚がおかしくなってるわよ」
古代竜の鱗一枚五万を経験したせいだ。
【国庫:49,000→48,000】
【冒険者ギルド建設開始】
【完成予定:24時間】
「よし」
すると。
『特殊条件達成』
「また?」
【人口500以上】
【冒険者ギルド建設】
【交易実績あり】
【王国レベル5】
【条件を満たしました】
【都市建設機能――解放】
「都市?」
表示。
【現在のノクス王国】
【王城周辺居住区】
【人口:527】
【都市規模:集落】
「集落だったの!?」
「当然でしょう」
セレスティア。
「王城だけ立派だから勘違いしてた……」
【都市昇格条件】
【人口1,000】
【市場】
【冒険者ギルド】
【治療所】
【防衛施設】
【達成時:ノクス王都として認定】
「王都……」
少しワクワクする。
自分の国。
自分の街。
でも。
今は。
「セレナが先」
「ええ」
◇ ◇ ◇
その夜。
俺は一人で王城のバルコニーにいた。
眠れない。
「未来の俺か……」
王女を殺す。
どういう状況なら。
俺がそんなことをする?
「絶対にしない」
『未来事象は変動しています』
「ん?」
【第二の王殺し】
【発生確率:78.4%→74.1%】
「下がった?」
【現在の行動により未来が変化しました】
「じゃあ」
俺がセレナへ行くと決めたから?
「ゼロにできる?」
【理論上可能】
「よし」
やる。
その瞬間。
背後。
「レオン」
「うわっ!」
イグニス。
「びっくりさせるなよ!」
「王のくせに警戒心がない」
「君の気配がおかしいんだよ」
イグニスが隣へ。
「眠れんのか」
「まあね」
「未来の話か」
「うん」
「くだらん」
「え?」
「まだ起きてもいないことだ」
「でも七十四%」
「二十六%は起きない」
「…………」
こいつ。
たまに良いこと言う。
「イグニス」
「何だ」
「ありがとう」
「気持ち悪い」
「取り消す」
その時。
空。
何かが光った。
「ん?」
流れ星?
違う。
こっちへ来る。
「レオン!」
イグニスが俺を掴む。
ドォォォン!
王城の中庭へ何かが落下した。
「何!?」
俺たちは走る。
リゼリアもすぐ現れた。
「陛下!」
「大丈夫!」
中庭。
煙。
クレーター。
その中央。
一人の少女が倒れていた。
「女の子?」
金色の髪。
白銀の鎧。
年齢は十八くらい。
「まさか……」
見覚えがある。
水晶に映っていた。
「アリシア……?」
少女が目を開く。
「……ここは」
俺を見る。
そして。
剣を抜いた。
「レオン・アークレイ!」
「え?」
「見つけた!」
俺へ斬りかかる。
「ちょっ!」
ガキィン!
リゼリアが指二本で剣を止めた。
「陛下への無礼」
殺気。
「万死に値します」
「殺すな!」
「まだ何もしておりません」
「目が殺してる!」
アリシアが後ろへ飛ぶ。
「やはり……!」
青い瞳。
俺を睨む。
「未来で見た通り」
「未来?」
「十二日後!」
アリシアが剣を構える。
「あなたは私を殺す!」
「俺もそれ聞いた!」
「……え?」
「だから助けに行こうとしてた!」
「…………」
「…………」
妙な沈黙。
「どういうこと?」
「こっちが聞きたい」
その瞬間。
俺とアリシア。
二人の胸元が同時に光った。
黒い王権紋。
銀の王権紋。
『警告』
【二つの王権が接触】
【始祖王権】
【聖王権】
「聖王権?」
アリシアも驚いている。
「始祖王権……?」
そして。
『三百年間停止していた機能を再起動します』
「何の機能?」
表示された文字。
【双王システム】
【起動】
俺とアリシアの間。
一つの映像が現れる。
三百年前。
アルク。
そして。
その隣に立つ――。
金色の髪の女性。
「誰……?」
アリシアの顔が青ざめる。
「嘘……」
「知ってる?」
彼女が震える声で答えた。
「初代セレナ女王」
「…………」
映像の中。
アルクと初代セレナ女王は。
敵同士ではなかった。
並んで立っていた。
そして。
二人が同時に告げる。
『未来の王たちへ』
『もしこの記録が開いたなら』
アルクが笑う。
『俺たちは失敗した』
女王が続ける。
『だから――』
二人がこちらを見る。
『同じ失敗を繰り返さないで』
映像が乱れる。
最後。
ほんの一瞬だけ。
映った。
三百年前。
七王国連合がノクスへ侵攻した日。
その軍勢の背後。
すべてを見下ろしている。
一人の女。
「……この声」
俺は気づいた。
俺をこの世界へ戻した女。
同じ声。
そして表示。
【個体照合】
【一致】
【三百年前の七王国戦争への関与を確認】
【レオン・アークレイの転生への関与を確認】
【アリシア・セレナの未来視への関与を確認】
名前。
ついに表示された。
【個体名――エリシア】
【種族――???】
【生存期間――最低1,200年以上】
【現在位置――セレナ王国王都】
アリシアが息を呑む。
「……そんな」
「何?」
「エリシアって」
彼女の手から剣が落ちた。
「私の――」
震える。
「母の名前よ」
沈黙。
「え?」
アリシアが俺を見る。
「私を産んだ母は」
青ざめた顔で。
告げた。
「十八年前に死んだはずなの」
その瞬間。
『未来事象更新』
【第二の王殺し】
【残り:12日】
【発生確率:74.1%→91.8%】
「上がった!?」
さらに。
【新規未来事象を検出】
【王都セレナ崩壊】
【死者予測――812,441名】
そして最後に。
【原因】
【エリシア覚醒】
俺たちはまだ知らなかった。
十二日後に起きるのは。
王女一人の暗殺なんかじゃない。
百二十万人が暮らす王都そのものを巻き込む、三百年前から準備された“王権戦争”だった。




