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第17話 三百年前の暗殺者――ガレス、お前は何者だ。

「ガレス……?」

 あり得ない。

 何度見ても同じだった。

 王の記憶。

 三百年前。

 燃え落ちるノクス王城。

 アルクの胸を剣で貫いた男。

 灰色の髪。

 鋭い目。

 頬にある小さな傷。

 そして。

 現在のアルディア第三騎士団長――。

 ガレス・バルド。

 同じ顔。

 似ているなんてレベルじゃない。

 完全に同一人物だった。

「陛下?」

 リゼリアが俺を見る。

「どうされました?」

「リゼリア」

「はい」

「ガレスって……何歳?」

「正確には存じませんが、四十前後かと」

「だよな」

 三百年前の人間なわけがない。

「王の記憶を見た」

 リゼリアの表情が変わった。

「第三封印が?」

「ああ」

「何がございました?」

「アルクが殺されるところ」

「…………」

 リゼリアが息を呑む。

「誰に?」

「ガレス」

「…………」

 沈黙。

「ガレス・バルド」

 俺がもう一度言う。

「今のガレスと全く同じ顔の男が、アルクを殺した」

 リゼリアの赤い瞳が細くなる。

「陛下」

「何?」

「すぐに王城へ戻りましょう」

「やっぱり?」

「はい」

 声が冷たい。

「本人へ確認いたします」

「殺すなよ?」

「…………」

「リゼリア?」

「善処いたします」

「約束して!」

「……御意」

 怖い。

 ◇ ◇ ◇

 ノクス王城。

 帰還した俺を待っていたのは。

 大量の報告だった。

「陛下!」

 ハインが走ってくる。

「ご無事でしたか!」

「何とか」

「北部森林から、とてつもない魔力が……」

「もう大丈夫」

「本当ですか?」

「たぶん」

「たぶん!?」

「いや、大丈夫」

 神喰種は倒した。

 問題は別にある。

「セレスティア」

「何?」

「魔晶石、どれくらい使った?」

 彼女が帳簿を見る。

「推定で埋蔵量の0.7%」

「それだけ?」

「巨大鉱床だから」

「じゃあまだ売れる?」

「もちろん」

「よかった」

「ただし」

「何?」

「さっきの戦闘で地下構造が変わった」

「まずい?」

「逆」

 セレスティアが眼鏡を上げる。

「新しい鉱脈が露出した」

「…………」

「しかも魔晶石だけじゃない」

「何が出た?」

「ミスリル」

「おお」

「オリハルコン」

「聞いたことある」

「星銀鉱」

「知らない」

「全部合わせると」

 彼女が少し笑った。

「推定資産価値、金貨八百万以上」

「…………」

 俺は固まった。

「八百万?」

「最低でも」

「国庫目標十五万だったよな?」

「そうね」

「もう売らなくても金持ちなんじゃ?」

「資産と現金は違う」

「厳しいな」

「当然」

 さすが財務担当。

 でも。

 今はそれより。

「ガレスは?」

「アルディア?」

「うん」

「昨日、使者が来ていたわ」

「何て?」

「これ」

 一通の手紙。

 差出人。

 ガレス・バルド。

 開く。

『ノクス王レオン陛下へ』

『至急、お伝えしたいことがございます』

『可能であれば、アルディア王都へお越しください』

『他者には知られぬようお願いいたします』

 俺とリゼリアは顔を見合わせた。

「タイミング良すぎない?」

「罠の可能性がございます」

「だよな」

「私が一人で参ります」

「ダメ」

「では暗殺して参ります」

「もっとダメ!」

 行くしかない。

 ◇ ◇ ◇

 その夜。

 アルディア王都。

 転移門を使い、俺とリゼリアだけで移動した。

 指定された場所は王城ではない。

 王都の外れ。

 古い礼拝堂。

「怪しい」

「はい」

「めちゃくちゃ怪しい」

「はい」

「帰る?」

「建物ごと消滅させてからであれば」

「普通に入ろう」

 扉を開ける。

 ギィィ……。

 中は暗い。

「ガレス?」

「こちらです」

 声。

 奥。

 一人の男が立っていた。

 ガレス。

「来ていただき感謝いたします」

「…………」

 俺は彼を見る。

 やっぱり。

 同じ。

 三百年前。

 アルクを殺した男。

「ガレス」

「はい」

「質問していい?」

「もちろんです」

「三百年前」

 ガレスの表情が止まった。

「俺を殺した?」

「…………」

 沈黙。

 それだけで。

 答えみたいなものだった。

 リゼリアの魔力が膨れ上がる。

「貴様……!」

「待って!」

「陛下!」

「まだ!」

 ガレスは逃げない。

 むしろ。

 ゆっくりと。

 膝をついた。

「ようやく」

 彼が言った。

「そこまで思い出されましたか」

「……お前」

「はい」

「本当に三百年前から生きてるの?」

「生きている、という表現が正しいかは分かりません」

「どういう意味?」

 ガレスが自分の胸に手を置く。

「私は人間ではありません」

 表示。

『特殊個体を検出』

【偽装解除】

【個体名:ガレス・バルド】

【種族:人造生命】

【製造年代:約312年前】

「人造生命……?」

「誰が作った?」

 ガレスが俺を見る。

「あなたです」

「…………」

「正確には」

 静かに続ける。

「初代王アルク・ノクス」

 俺が。

 ガレスを作った?

「目的は?」

「王を殺すためです」

「…………」

「待って」

 頭が追いつかない。

「アルクが自分を殺すために、お前を作った?」

「はい」

「なんで?」

「それを説明するため、お呼びしました」

 ガレスが立ち上がる。

 礼拝堂の奥へ歩く。

「こちらへ」

 地下へ続く階段。

「陛下」

 リゼリアが止める。

「危険です」

「分かってる」

「ならば」

「でも行く」

「…………」

「知りたい」

 三百年前。

 何が起きたのか。

 俺は階段を降りた。

 ◇ ◇ ◇

 地下。

 そこには。

 小さな部屋があった。

 中央。

 一つの石棺。

「何これ?」

「初代王が残したものです」

「アルクが?」

「はい」

 ガレスが石棺に触れる。

 ガコン。

 蓋が開く。

 中。

 黒い箱。

 そして。

 一冊の本。

「日記?」

「初代王の記録です」

 俺が触れる。

『王権認証』

【認証完了】

 ページが勝手に開く。

 文字。

 アルクの筆跡。

『もしこれを読んでいる俺がいるなら』

 俺?

『たぶん俺は死んでいる』

「…………」

『そして、お前は俺ではない』

 心臓が跳ねた。

「何?」

 続きを読む。

『同じ魂を持っている』

『同じ記憶を持つ可能性もある』

『だが』

『お前は俺ではない』

 まるで。

 今の俺に向けて書かれている。

『だから』

『俺の罪まで背負う必要はない』

「アルク……」

 ページがめくれる。

『俺は王権の真実を知った』

『歴代王は民の命を燃料に力を使っていた』

『その果てに神喰種が生まれた』

 知っている。

『俺は王権を封印することにした』

『だが問題があった』

『始祖王が生きている限り』

『王権は完全には停止しない』

「…………」

 嫌な予感。

『だから』

『俺は自分を殺す必要があった』

 俺はガレスを見る。

「それで……」

「はい」

 ガレスが答える。

「私が作られました」

「じゃあ滅王派って」

「元々は」

 ガレスが言う。

「アルク陛下自身が作った組織です」

「…………」

 全部。

 ひっくり返った。

「王を滅ぼす派閥」

「はい」

「自分を?」

「はい」

「じゃあ今の滅王派は?」

 ガレスの表情が曇る。

「変質しました」

「どういう意味?」

「初代王の目的は、王権を終わらせること」

「うん」

「しかし」

「現在の滅王派は――」

 ガレスが俺を見る。

「完全な始祖王を作り、その力を奪おうとしている」

「誰が?」

「分かりません」

「三百年いるのに?」

「組織の頂点は私にも知らされていない」

「お前は仲間じゃないの?」

「違います」

 ガレスが首を振る。

「私は三百年前に滅王派を離脱しました」

「なんで?」

「初代王の最後の命令です」

「最後の命令?」

 ガレスの声が少し震えた。

「次に生まれる王を――」

 俺を見る。

「守れ」

「…………」

「それが」

 彼が跪く。

「アルク陛下が私へ下した最後の命令です」

 リゼリアが黙っている。

「じゃあ」

 俺は聞く。

「アルディア騎士団にいたのも?」

「あなたを待つためです」

「俺が復活するって知ってた?」

「正確な時期は不明でした」

「三百年?」

「はい」

「ずっと?」

「はい」

「…………」

 俺は頭を抱えた。

「重いな……」

 ガレスが少しだけ笑った。

「よく言われます」

「誰に?」

「アルク陛下に」

 なんか。

 分かる気がする。

「でも」

 一つ。

 重要な疑問。

「なんで俺は日本にいた?」

 ガレスの笑みが消えた。

「そこです」

「知ってる?」

「一部だけ」

 彼が黒い箱を見る。

「アルク陛下は死ぬ直前」

「うん」

「自らの魂を、この世界から切り離しました」

「……何?」

「王権から逃がすために」

 箱が開く。

 中。

 一つの水晶。

 触れる。

『魂魄記録を検出』

【対象:アルク・ノクス】

 映像。

 死ぬ直前のアルク。

 胸には剣。

 ガレスが泣いている。

『すまんな』

『陛下……!』

『命令通りだ』

『しかし!』

『泣くな』

 アルクが笑う。

『俺の魂は王権に食わせない』

 手の中。

 黒い光。

『遠くへ飛ばす』

『どこへ!?』

『知らん』

『陛下!』

『別の世界かもしれない』

 俺の身体が震える。

『そこで普通に生きられたら』

 アルクが笑った。

『それでいい』

 映像が消える。

「…………」

 日本。

 俺はそこで生まれた。

 普通に育った。

 普通に生活していた。

「じゃあ」

 俺は呟く。

「俺が日本にいたのは……」

「偶然ではありません」

 ガレスが言う。

「初代王が逃がした魂」

「それが俺?」

「おそらく」

「じゃあ」

 最大の疑問。

「誰が俺をこの世界へ戻した?」

 沈黙。

 その瞬間。

 水晶が赤く光った。

『警告』

【外部アクセス】

「何?」

『魂魄記録に第三者が接続』

「誰だ!?」

 水晶から。

 声。

『やっと』

 女の声だった。

『そこまで辿り着いたのね』

「誰だ?」

『レオン・アークレイ』

 知らない声。

 でも。

 なぜか。

 懐かしい。

『十三日後』

「…………」

『セレナ王国へ来なさい』

 第二の王殺し。

「お前が滅王派のトップ?」

『違う』

「じゃあ誰だ!」

 女が笑う。

『あなたをこの世界へ戻した者』

「…………」

 全員が固まった。

「お前が?」

『ええ』

「なぜ?」

『それを知りたければ』

 水晶に。

 一人の少女が映った。

 金色の長い髪。

 青い瞳。

 十八歳ほど。

 俺は知らない。

 だが。

 その少女の胸には。

 銀色の王権紋。

『セレナ王国第一王女』

【アリシア・セレナ】

『この娘を救いなさい』

「救う?」

『十三日後』

 女の声が冷たくなる。

『この娘は殺される』

「誰に?」

 数秒の沈黙。

 そして。

『あなたよ』

「…………」

「俺?」

『正確には――』

 水晶に映る。

 もう一人の俺。

 黒い王冠。

 血に濡れた剣。

 赤く染まった瞳。

『完全に覚醒した』

 女が告げる。

『アルク・ノクスに』

 映像が消える。

『警告』

【未来事象への接続を確認】

【発生確率:78.4%】

【十三日後】

【王都セレナ】

【第二の王殺し】

 そして。

【殺害者――レオン・アークレイ】

 俺は。

 自分の名前を見つめた。

 十三日後。

 守ろうとしている少女を。

 俺自身が殺す未来が、すでに始まっていた。

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