↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/20

第14話 王国商売――古代竜の鱗を売ったら、とんでもない値段になった。

「一枚だけだぞ」

 イグニスが念を押した。

「分かってる」

「勝手に抜くな」

「抜かないよ」

「寝ている間もダメだ」

「やらないって!」

「リゼリアにも言っておけ」

「なぜ私が?」

 リゼリアが不満そうに睨む。

「貴様ならやりかねん」

「竜の鱗程度に興味はございません」

「何だと?」

「待って」

 また始まる。

「喧嘩しない」

 二人が黙る。

「で」

 俺はセレスティアを見る。

「本当に鱗一枚で金貨一万?」

「最低でもね」

「最低?」

「状態次第ではもっと」

 セレスティアがイグニスを見る。

「古代竜の鱗は、普通の竜とは別物よ」

「何に使うの?」

「武器、防具、魔道具、薬」

「薬にも?」

「粉末にして使う」

「我の身体を勝手に粉末にする話をするな」

「抜け落ちた鱗よ」

「それでも嫌だ」

「牛」

「…………」

「最高級」

「…………」

「毎日」

「……一枚だけだ」

「交渉成立」

「強いな、この人」

 戦闘能力は低い。

 でも。

 別の意味で強い。

 ◇ ◇ ◇

 イグニスが竜の姿へ戻る。

 巨大な身体。

 深紅の鱗。

「どれ?」

「これだ」

 翼の付け根。

 少し浮いている鱗が一枚あった。

「抜けかけてる?」

「数日で落ちる」

「ならいいか」

 イグニスが身体を震わせる。

 カラン。

 地面に落ちた。

「…………」

 でかい。

 俺の上半身くらいある。

「これ一枚?」

「そうだ」

 セレスティアが近づく。

 鱗を触る。

 叩く。

 魔力を流す。

「……すごい」

「そんなに?」

「純度が異常」

「純度?」

「古代竜の鱗でも、これほど魔力を保持しているものは滅多に市場へ出ない」

 セレスティアの目が完全に商人になっている。

「金貨一万どころじゃないわ」

「いくら?」

「競売なら――」

 少し考える。

「三万」

「…………」

「下手をすれば五万」

「一枚で!?」

 現在の国庫。

【1,500】

 目標。

【150,000】

「これ十枚売れば終わるじゃん」

「レオン」

 イグニスの声が低くなる。

「冗談」

「目が本気だったぞ」

「気のせい」

 危ない。

 一瞬。

 イグニスが歩く金塊に見えた。

「でも」

 セレスティアが言う。

「大量には売らない」

「なんで?」

「価値が下がるから」

「なるほど」

「希少だから高い。市場に十枚も出したら値崩れする」

 ちゃんと考えている。

「じゃあ一枚?」

「一枚だけ」

「どこで売る?」

「アルディア」

「近いから?」

「それもあるけど」

 セレスティアが笑う。

「ちょうどいい人がいる」

「誰?」

「アルディア王」

「…………」

「国王に売るの?」

「違う」

「じゃあ?」

「国王に競売を開いてもらう」

「そんなこと頼める?」

「あなた」

 セレスティアが俺を見る。

「アルディアを救ったんでしょう?」

「結果的には」

「不可侵条約も結んだ」

「うん」

「だったら使いなさい」

「使う?」

「信用を」

 俺は少し引っかかった。

「恩を売るみたいで嫌だな」

「違うわ」

 セレスティアが即答する。

「国同士は、互いに利益があって初めて関係が続く」

「…………」

「あなたがアルディアを助けた」

「うん」

「今度はアルディアに助けてもらう」

「なるほど」

「そして次は、こちらがアルディアを儲けさせる」

「それが交易?」

「そう」

 セレスティアが微笑む。

「戦争よりずっと面白いでしょう?」

「それは間違いない」

 ◇ ◇ ◇

 三日後。

 アルディア王都。

 王立競売場。

「……人多くない?」

「当然よ」

 俺は二階の特別室から会場を見下ろしていた。

 商人。

 貴族。

 冒険者。

 他国の使者。

 数百人いる。

「情報流した?」

「少しだけ」

「何て?」

「古代竜の完全な鱗が出品されるって」

「それだけ?」

「それだけ」

 十分だったらしい。

「本物なのか?」

「古代竜など百年以上確認されていないぞ!」

「いくらになる?」

 会場がざわついている。

「ちなみに」

 俺はセレスティアを見る。

「イグニス本人がいることは?」

「秘密」

「だよな」

 本人はノクス王国で牛を食べている。

「始まるわよ」

 競売人が壇上へ。

「皆様!」

 会場が静かになる。

「本日の特別出品!」

 布に包まれた巨大な物が運ばれてくる。

「三百年ぶりに復活したノクス王国より!」

 布が取られる。

「古代竜の鱗です!」

 ざわっ!

 空気が変わった。

「本物だ!」

「この魔力量……!」

「あり得ない!」

 魔術師らしき老人が立ち上がる。

「これほどの素材……国宝級だぞ!」

 競売人が手を上げる。

「開始価格!」

 俺は息を飲む。

「金貨一万枚!」

「いきなり一万!?」

 俺なら絶対買えない。

「一万一千!」

 すぐ声。

「一万二千!」

「一万五千!」

「二万!」

「…………」

 開始十秒。

 もう二万。

「二万五千!」

「三万!」

「三万二千!」

「三万五千!」

 俺はセレスティアを見る。

 涼しい顔。

「驚かないの?」

「予想通り」

「どこまで?」

「四万」

「本当に?」

「見てなさい」

「四万!」

 出た。

「…………」

 怖い。

「四万一千!」

 さらに上がる。

「四万三千!」

「四万五千!」

 そこで。

 静かになった。

「四万五千……」

 競売人が確認する。

「他には?」

 沈黙。

「四万五千!」

 一回。

「四万五千!」

 二回。

「落札――」

「五万」

 声。

 全員が振り返る。

 黒い外套の男。

 顔は見えない。

「金貨五万」

「…………」

 会場が静まり返る。

 俺も驚いた。

「セレスティア」

「私も予想外」

 初めて彼女の表情が変わった。

「誰?」

「分からない」

「五万!」

 競売人が叫ぶ。

「他にありませんか!」

 誰も出ない。

「落札!」

 木槌が鳴る。

「古代竜の鱗、金貨五万枚!」

 歓声。

 俺は椅子にもたれた。

「……一枚で五万」

「手数料を引いて四万七千五百」

「十分すぎる」

『国庫情報を更新』

【国庫:1,500】

【競売収入:+47,500】

【国庫:49,000】

「一気に増えた……」

 でも。

 目標十五万。

 まだ三分の一。

「次どうする?」

「帰るわよ」

「もう?」

「ええ」

 セレスティアが立ち上がる。

「本番はここから」

「本番?」

「鱗を売るのは商売じゃない」

「五万稼いだのに?」

「資産を切り売りしただけ」

 なるほど。

「国が継続的に稼ぐ仕組みを作る」

「何かある?」

「もう見つけてある」

「いつ?」

「三日前」

「早いな!」

 ◇ ◇ ◇

 ノクス王国。

 北部森林。

「ここ」

 セレスティアが地面を指差す。

「何もないけど」

「掘って」

「俺が?」

「王でしょう?」

「王って穴掘る仕事?」

 仕方なく。

 近くにあったシャベルを持つ。

「陛下」

 リゼリアが止める。

「私が」

「いや、いい」

 ザク。

 土を掘る。

 ザク。

 さらに。

 カン。

「ん?」

 何かに当たった。

「石?」

「出して」

 掘る。

 黒い石。

 でも。

 表面に青い光が走っている。

「何これ?」

 セレスティアが笑う。

「魔晶石」

「高い?」

「普通ならそれなり」

「普通なら?」

「これは普通じゃない」

 彼女が石を光に当てる。

「最高純度」

「…………」

「しかも」

 地面を見る。

「この一帯全部」

「え?」

「地下に巨大な魔晶石鉱床がある」

「…………」

『領土資源を解析』

【北部森林地下】

【大規模魔晶石鉱床を検出】

【推定埋蔵量:測定不能】

「測定不能!?」

「おそらく」

 セレスティアが続ける。

「三百年以上、誰も採掘していない」

「つまり?」

「世界最大級の鉱床かもしれない」

「…………」

 俺は黒い石を見る。

「これ売れば?」

「国庫十五万?」

「うん」

「一か月どころか」

 セレスティアが笑った。

「十日で達成できる」

「マジ?」

「ただし」

「何?」

「絶対に大量販売しない」

「また値崩れ?」

「それもある」

 セレスティアの表情が真剣になる。

「資源を持つ国は狙われる」

「…………」

「特に魔晶石は、魔道具にも兵器にも使える」

「つまり」

「これが知られれば――」

 彼女が俺を見る。

「ノクス王国を奪おうとする国が出てくる」

 その瞬間。

『警告』

「今度は何?」

【領土内に侵入者を検知】

【人数:7】

【所属:不明】

「場所は?」

【北部森林】

「…………」

 俺たちは顔を見合わせた。

「近いな」

「ええ」

 リゼリアの目が赤く光る。

「排除いたしますか?」

「殺すなよ」

「承知しております」

「成長したな」

「陛下に褒めていただきました」

 嬉しそう。

 そして。

 七人を見つけるのに五分もかからなかった。

「動くな」

「っ!」

 黒い服。

 武装した七人。

 その一人を見て。

 俺は止まった。

「お前……」

 見覚えがある。

 アルディア王城。

 俺の酒に毒を入れた男。

 逃げた暗殺者。

「また会ったな」

 男が笑う。

「滅王派」

 俺が言う。

「そう呼ばれてたんだろ?」

「……記憶を取り戻し始めたか」

「まだ少しだけ」

「なら好都合だ」

 男が懐から黒い球を取り出す。

「何する気?」

「十三日後まで待つ予定だった」

 男が笑う。

「だが――予定変更だ」

 黒い球が砕ける。

 ドクン。

 地面が震えた。

「何だ!?」

 魔晶石鉱床。

 地下。

 何かが反応している。

『警告』

【地下深部より巨大魔力反応】

【封印術式を検出】

「封印?」

 男が両手を広げる。

「お前は何も知らない」

「何を?」

「なぜこの土地に、これほど魔晶石があると思う?」

「…………」

 男の笑みが深くなる。

「鉱山ではない」

 地面が割れる。

 黒い光が噴き出す。

「三百年前――」

 リゼリアの顔色が変わった。

「陛下!」

「この魔力……!」

 彼女が震えている。

 初めて見る反応だった。

「リゼリア?」

「あり得ません……」

「何が?」

 地下。

 巨大な何かが動いた。

 男が告げる。

「魔晶石はただの副産物だ」

 地面がさらに裂ける。

「ここに眠っているのは――」

 巨大な黒い瞳が。

 地下から俺を見た。

「三百年前、初代王アルクが自ら封印した――」

『最高警戒』

【未確認生命体覚醒】

【危険度判定不能】

 男が笑う。

「――神殺しの魔獣だ」

 そして。

 俺の中で。

 第二の記憶が――。

 強制的に開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。