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第1話

――三智慧人


 2か月前、ニビルから日本へ渡り叔母である三智桜理さんの元で暮らすことになった時に、自室として2階の奥側の部屋を使うように言われた。

 最初に用意されていた家具は、窓際に置いたベッドと丸いちゃぶ台がひとつだけ。

 桜理さんは「必要なものがあればスグに用意するから遠慮せずに言ってね」と言ってくれたが、2か月経った今も当初と全く変わらない状態が続いている。

 桜歌には「この部屋いつ見ても生活感が無いですね」と愚痴を言われるが、少なくとも俺はこの部屋で快適な日本暮らしを満喫している。

 ちゃぶ台があれば勉強も、読書も、晩酌のツマミを広げることもできる。

 身体は一つしかないなんだから、他に何が必要なのか俺にはさっぱりわからない。

 そんなちゃぶ台を挟んで、俺の向かい側に桜歌が座っている。

 これだけなら、毎日のように目にする三智家の日常の1ページだ。

 しかし今日は普段と違い、俺と桜歌は互いの顔ではなく、手に持ったニンテンドウXの画面を凝視していた。

 ディスプレイに映し出されているのは、ポケットモンスター、略してポケモンの対戦画面。

 そこには俺が対戦で使うポケモンと、桜歌が対戦で使うポケモンが表示されていた。


「対戦方式はダブルバトル。レギュレーションは公式のランクマッチと同じで伝説ポケモン禁止のレギュレーションG。特殊ルールはダイマックスでいいですか?」

「了解だ。しかし、ウルクだけじゃなくて、地球でもダイマックス人気があるんだな」

「やっぱり楽しいですよ、ダイマックス。3ターン限定とはいえ、ポケモンを巨大化させて戦うのはロマンがあります」


 俺達が遊んでるポケモンの最新作は、過去に実装されたダイマックスやメガシンカといった特殊システムが全て実装されていて、対戦するときに好きな特殊システムを選んで遊ぶことができる。


「しかし、桜歌。お前、対戦素人じゃないな」


 提示されたパーティーを見て、俺は思わずつぶやいた。

 桜歌のパーティーを構成するポケモンは、バンギラス、ドリュウズ、ハバタクカミ、オーガポン(水)、サンダー、メタグロス。

 バンギラスとドリュウズを軸にした、いわゆる“砂パ”と呼ばれる構成で、バンギラスで天候をすなあらしに変え、その影響で素早さが倍になるドリュウズで一気に押し切る速攻型だ。


「慧人さんの構築も思いっきりガチパじゃないですか」


 桜歌は涼しい顔でそう返す。

 俺のパーティーは、カプ・クケコ、テツノカイナ、ペリッパー、ウーラオス(水)、パオジアン、テツノブジン。

 カプ・クケコのエレキフィールドを起点に、ミライポケモンの特性を活かして戦う構築だ。

 対戦開始。

 俺はカプ・クケコとテツノブジン。

 桜歌はバンギラスとドリュウズを繰り出してきた。


「あら、テツノカイナは使わないんですね」

「ドリュウズが見えてるのに、でんき二枚並べるわけないだろ」


 すなあらしとエレキフィールドが同時に展開され、テツノブジンとドリュウズの素早さが跳ね上がる。

 さて……俺はこの状況でどう動くべきか考える。

 ポケモンバトルは状況判断と、相手の行動予測で勝負が決まる。

 いまの盤面で一番怖いのは、天候の援護を受けてすばやさが2倍になっているドリュウズだ。

 桜歌がドリュウズをダイマックスさせ、≪ダイアース≫を撃ってきたら俺のカプ・クケコは一撃で落とされる。

 だから俺は――カプ・クケコを引き、ペリッパーに交代する。

 天候をあめに書き換えてドリュウズのすばやさを落とし、テツノブジンの≪インファイト≫をバンギラスに叩き込む。

 だが、桜歌は予想外の動きを見せた。

 ダイマックスしたのは、ドリュウズではなく――バンギラス。

 ≪インファイト≫は直撃したが、ダイマックスで膨れ上がった体力を削り切れない。

 オマケに弱点保険が発動し、バンギラスの攻撃力が跳ね上がった。


「もしかして、そのバンギラス耐久特化型?」

「そうですよ。努力値を攻撃に振らなくても弱点保険でカバーできるので」


 次に行動するドリュウズは≪いわなだれ≫を使い、ペリッパーとテツノブジン、両方の体力が一気に削られる。


「初手でペリッパーに交代して天候を書き換える狙いは、読めてました」

「行動予測の精度が、完全に素人のそれじゃないぞ」


 最後にバンギラスが≪ダイロック≫を使ってペリッパーを沈めると同時に天候をすなあらしに書き換える。


「初手は、私の完勝ですね」

「――まだ終わってない」


 俺はウーラオスを繰り出し、即座にダイマックスさせた。


「キョダイマックスじゃないんですね」

「≪ダイストリーム≫の方が、使い勝手がいいんだよ」


 砂パ相手には、天候の主導権を奪わなければ勝ち目がない。

 第2ターン。

 すなあらしの状況下で一番早く動けるドリュウズがテツノブジンに≪アイアンヘッド≫を放つ。

 だが、テツノブジンは≪まもる≫でそれを凌いだ。


「さすがに、それは読めてた」


 次の行動でウーラオスの≪ダイストリーム≫がドリュウズを粉砕する。


「これで3対3だな」

「いえいえ、3対2ですよ」


 最後に動いたバンギラスが≪ダイロック≫を使って、テツノブジンに攻撃する。

 弱点保険で攻撃力が大幅強化されているので、受けきれずにテツノブジンは落ちてしまう。

 3ターン目、俺は最後のポケモンとして先ほど引っ込めたカプ・クケコを、そして桜歌の3体目は……メタグロスだった。


「おい、なんでメタグロス!?」


 俺はウーラオスに対策してサンダーを出して来ると思っていたので完全にあてが外れてしまった。


「ダイマックスルールでもパオジアン、ハバタクカミ、そしてカプ・クケコの使用率は安定して高いのでその対策です。それに、この子はダイマックスさせても強いので」


 はがねタイプのメタグロスは、カプ・クケコを一方的に落とせるので決して無視できる存在ではないが、それ以上に天候すなあらしを書き換えないと攻撃力が強化されたバンギラスに蹂躙されてしまうので、俺はバンギラスがダイロックを使うのを防ぐためにダイストリームでバンギラスにトドメを刺しに行く。


「あっ、≪ダイウォール≫」


 バンギラスは最後のダイマックスターンに≪ダイウォール≫を選択してすなあらしの天候維持に成功する。


「≪ダイウォール≫上手く決まると気持ちいいですね」

「お前、バンギラス使うの上手すぎだろ」

「バンギラス素敵じゃないですか。私、技範囲が広いポケモンが好きなんですよ」


 続いて、カプ・クケコが≪マジカルシャイン≫を使うが、その攻撃も≪ダイウォール≫に阻まれ、フェアリー技に耐性を持つメタグロスにはわずかなダメージしか入らない。

 そして、最後にメタグロスの手番が回って来る。

 ここで、桜歌が選択した攻撃は――≪じしん≫。


「うわ、カプ・クケコが落ちた」


 カプ・クケコは弱点を突かれて一気にHPが0になる。

 ≪じしん≫は味方も巻き込む全体攻撃だが、ダイウォールで無効化出来ることを考えると、ナイスコンボと賞賛するしかない。

 続く、4ターン目。

 俺はヤケクソのダイストリームでようやくバンギラスを落とすことが出来たが、桜歌の最後のポケモンは予想通りサンダーだった。

 一応、最後まで投了せずに戦ってみたが、天候があめだと必中となる『かみなり』を食らって俺のウーラオスは力尽きた。


挿絵(By みてみん)

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。


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