第38話
――三智桜歌
警察官に深夜徘徊をした中学生として補導された私達は、パトカーで生田警察署に連行された。
警察署に着くと眉をひそめた少年課の刑事さんに、この件を親に連絡すること、身元引受人が来るまで警察署で保護すると説明を受けた。
「あと、こんな時間までなにしてた事情を聞きたいから一人ずつ、こっちの部屋で話を聞かせてくれる」
「取り調べって奴ですね。なんか刑事ドラマみたいです」
「君ッ! 笑いごとじゃないから」
「それじゃ、私が一通り事情を説明しますね」
「この作戦を発案したの私だから、私が刑事さんに説明するよ」
「いえ、亜沙美さんは頑張ったので少し休んでいてください。それに私、あの刑事さんの顔、見覚えがあるんです」
私は自ら志願して最初に取り調べ室の椅子に座ると、対面している刑事さんが大きなため息を吐いた。
刑事さんは40代くらいの男性で、筋肉がスーツの上からでもわかるガッシリとした体格をしている。
「お久しぶりです。秋田さん、今回はお仕事を増やしてしまって本当にごめんなさい」
「なんでボクの名前を知ってるのかなあ。君は弁護士の三智先生の娘さんだよね?」
「はい、三智桜理の娘で三智桜歌です。秋田さんのことは、母の裁判を傍聴したときに何度か顔を見て覚えました」
お母さんは未成年者が関わる事件の裁判を担当することが多いので、自然と少年課の刑事さんの姿を目にすることになる。
お母さんから、秋田さんは少年課の職務に忠実な優しい刑事さんだと言っていた。
この人になら、香織さんと、佐奈が巻き込まれた事件の幕引きを任せてもいいだろう。
「じゃあ、さっそく話を聞こうかな。何で、夜遅くまで街中を徘徊していたのかな? 未成年は保護者の同伴無しで夜間に外出したいけない。君は、そのルールを知っているよね」
「それについては、口で語るより見ていただいた方が早いですね。預けているパルスフォンを持ってきてくれませんか? 端末に、吉本興業所属のタレント中川まさやが犯した犯罪の証拠があります」
私がそう告げると秋田さんはいぶかしげな表情を浮かべたまま、私のパルスフォンを持ってきてくれた。
私はパルスフォンを操作して、慧人さんが撮影してくれた二人がホテルの敷居をまたぐシーンを切り取った写真を表示する。
「これは!?」
まさに決定的なシーンだ。
佐奈はまだ16歳未満なので、彼女が被害届を出せば中川まさやの不同意性交罪が成立する。
「駅で二人が合流するシーンも撮影していますよ。こんな感じで、駅前で二人が会っているのを見かけたので、佐奈を警察署に連れて行く必要があると思ったんです。ただ、普通に説得するだけだと佐奈は絶対に警察署に行かないと思ったので」
「駅前でケンカ騒ぎを起こして、ワザと警官に補導されたんだね」
「そんな感じです。私見ですが、任意同行でもいいので中川まさやの行動について一刻も早く調べていただけると助かります。もたもたしてると利用しているマッチングアプリのデータが消えて背後関係を探るのが難しくなります」
私の提案を聞いた秋田さんが再び大きなため息を吐いた。
「いろいろ気になることがあるんだが……君はこの事件についてどこまで把握してるんだ?」
「全てお話してもいいですが、私の証言は刑事裁判で証拠として使えないと思います。それより、中川まさやの身柄を確保してください。彼の通信記録を調べれば、裁判で有効となる証拠がたくさん出てくるはずです」
「君は本当に三智先生と血が繋がっているんだな。学生証を見ても、間違いなく中学生だし、君みたいな頭のいい中学生がいると思うと正直怖いよ」
「怖いですか……」
秋田さんの気持ちもわかる。
もし私が犯罪に手を染めたら高確率で秋田さんを出し抜けるだろう。
でも……。
「安心してください。私は頭がいいので犯罪に手を染めて誰かを苦しめたら、いつか必ず報いを受ける。そういうことを、ちゃんと判っています」
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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