第37話
――関谷亜沙美
6月18日。午後10時過ぎ。
私とオッカそして慧人君の3人は、神戸花時計駅前の大階段に集まっていた。
とてもリスクの高いことをしているのは自分でもわかっている。
不良に変装している慧人君はともかく、中学校の制服を着ている私と桜歌は、警察官に見つかったら確実に補導されてしまう。
「桜歌、慧人君、ごめんなさい。こんな時間まで付き合わせて」
「なに言ってるんです。佐奈が警察に被害届を出せば、青山も、志村も、中川も全員終わりです。この絶好の機会を逃す手はありません」
「しかし、この場所で待ち伏せする理由はなんだ? 確かに阿部佐奈は中川とここで待ち合わせしてたけど、帰りはJRで帰るかもしれないぞ」
慧人君はホテルの前で待ち伏せすることを提案してくれたが、佐奈を警察署に連れていくためには人通りの多いこの場所で彼女と接触するのがベストだ。
「それに、例えJRで帰るとしても佐奈はここに来ると思う」
「女の子にとって夜道は怖いですからね。三宮はにぎやかですがJR三宮駅に向かうとしても、暗い屋外より明るい地下街から帰りたいと思うのが人情です」
「そうか、そういえば地下街はJRの駅までつながっていたな」
そんな話をしながら私達は佐奈が来るのを待つ。
彼女と接触する前に警察官に見つかったら全てが無駄になるので、『早く来い、早く来い』と祈りながら暗い夜道をにらみつける。
どのくらい待っていただろう。
ずっと待ち続けていたような気もしたが、実際は10分か15分くらいだと思う。
私の視界に、真っ白なワンピースタイプの制服を身にまとったロングヘアの少女。
佐奈が現れた。
彼女の姿を見た途端、2年前の記憶がフラッシュバックして心臓がドキドキと痛いくらいに早鐘を打つ。
「大丈夫……私には友達がいるッ!」
そうつぶやきながら、私は階段を降りてくる佐奈の前に立ちはだかった。
「その制服タジ中の……って、あんた!?」
「久しぶりね。佐奈」
佐奈は私の顔を見たとたん顔色を真っ赤に紅潮させる。
桜理さんは、佐奈が私をイジメのターゲットにして自殺未遂に追い込んだことを刑事事件に発展させて激しく糾弾してくれた。
家庭裁判所で有罪判決を受けた彼女は学校から退学処分を受け、家族そろって学園都市から引っ越すことを強いられた。
きっと彼女からすれば私は、自分を栄光から突き落とし、先輩から売春を強要される立場に貶めた、不幸の元凶みたいに見えるだろう。
「どけよモサ美ッ! 私はお前と話すことなんてない」
「悪いけど私の方は話があるの。とりあえずねぎらいの言葉が必要かな。佐奈、大変なお仕事、ごくろうさまです」
「死ねえッ!」
そう言い放つと、佐奈は暴言を吐きながら平手打ちを放ってきた。
私は平手打ちを受け、階段から転げ落ちないように両足で衝撃を受け止める。
痛い……でも大丈夫。
きっと佐奈は、私が想像もつかないくらい痛い思いをしているはずだから。
「あんた、どこまで知ってるの!?」
「青山由紀、菅野直美、野田佳代。そして、志村和雄と、中川まさや」
私が、佐奈に売春を強要している加害者の名前をあげると途端に、彼女の表情が真っ青になる。
「佐奈、助けてあげる。一緒に警察署に行ってあげるから中川まさやに何をされたのか、全部話しましょう。それしか、あなたがいまの地獄から抜け出す術はないわ」
「警察なんて。行けるわけないだろ!?」
激高した佐奈が私の襟首をつかんで絶叫する。
周囲を見渡すと、ケンカ騒ぎに気付いた通行人が私達の周りに集まって来るのが見えた。
「安心して、青山由紀に売春するよう脅されたって言えば、あなたは被害者として保護してもらえる」
「ふざけるなッ! 私が、お前みたいな負け犬になって、惨めに犯されたなんて……なんて……」
怒鳴りながら佐奈の瞳に涙が浮かぶ。
私だって女の子だ。
佐奈の怒りと悲しみも、売春していることを隠したいという気持ちも痛いほどわかる。
けど……。
「そうだね……助けるなんて言わない。私は友達を助けるために、あなたを利用するの」
――「こんな世界」と嘆くだれかの生きる理由になれるでしょうか♪♪
ケンカ騒ぎを聞きつけた野次馬が見守る中で、私のパルスフォンから最大音量で音楽を奏で始めた。
この曲は桜歌から着信を受けたときに鳴るように設定した着信メロディ。
私と佐奈がケンカ騒ぎを起こして人が集まってきたら、桜歌にコールしてもらって大音量で着メロを鳴らして注目を集める。
それが私と桜歌の考えた作戦だ。
私はパルスフォンを取り出し音楽を止めることなく時計の表示を佐奈に見せる。
「残念だけど時間が来ちゃったわね」
パルスフォンの画面には現在時刻が23:00と表示されていた。
「11時になったからなんだって言うのッ!?」
「知らないの? 兵庫県の条例で未成年は23時以降の外出が禁止されているのよ」
「んなッ!!」
私の言葉を聞いて佐奈の表情が恐怖にゆがむ。
ピイィィィィ!!!
直後、ホイッスルの音が響き渡る。
ケンカ騒ぎを聞きつけたお巡りさんが、私達を補導するためにやってきたのだ。
「クソがああッ!」
佐奈が私を迂回して逃げようとしたので、私は佐奈の腰にしがみついて彼女が逃げないように拘束する。
「モサ美! 放せ! ふざけるな!」
佐奈は拘束から抜け出すためにバンバンと叩いてくるが、その攻撃に、目を閉じ、歯を食いしばって耐え続ける。
「逃げちゃダメッ! あなたが今の地獄から抜け出すために『助けて』って言わなきゃいけないの」
「イヤだッ! 私を負け犬にしないで……」
警察官に取り押さえられるまで佐奈は抵抗し毒を吐き続けていた。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
【読者の皆様へのお願い】 下にあるポイント評価(星マーク)は、作品のランキングに直結する非常に大きな力になります。 「面白かった」「今後に期待」と思っていただけましたら、応援のつもりで星をタップしていただけると嬉しいです!
頂いた評価や感想を糧に、さらに面白い物語を届けていけるよう頑張ります。




