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第36話

――三智慧人


 6月18日、午後21時。

 すっかり夜の帳は降りているが、三宮の街は煌々とした街明かりに照らされ、多くの人が街を闊歩していた。

 そんな夜に街で、俺は柱の陰に身を隠して目的の人物が現れるのを待っていた。

 俺が待機しているのは神戸国際会館と呼ばれる建物の入り口で、目の前にはコロッセオの一部を切り取ったような半円状の階段が整備されている。

この階段は、地下にある花時計前駅から公道に出るための通路となっていて、階段の真ん中のベンチで流奈さんを買おうとしたスケベオヤジ改め中川まさやが新たな獲物を待ち構えている。

一時間前に桜歌から連絡があり、中川まさやという名前のスケベオヤジと、阿部佐奈という名の星華学園の生徒がこの場所で待ち合わせをしているので、中川と阿部さんが合う現場を押さえて欲しいと依頼を受けた。

制服のままでは補導される可能性があるので、俺はその辺の服屋でカーゴパンツとスカジャンを調達し、ゴミに変装して張り込みを行うことにした。

柱の陰で星華学園の生徒が来るのを待つっていると、21時ギリギリになって星華学園の制服を着た阿部さんが駅からあがってきた。


「なあ、阿部さんも、流奈さんと同じように保護しないのか?」


 中川と阿部さんが合流して言葉を交わすのをスマートグラスのカメラに収めながら、俺は桜歌に素朴な疑問をぶつけてみる。


「あ……いえ、彼女は流奈さんと違って売春を行うのが初めてではないので、ホテルに入るところも撮影して犯罪の実績と証拠を残した上で、被害届を出すよう説得します」

「あいよ」


 流奈さんと阿部さんで扱いに差をつける理由がわからなかったが、桜歌の判断には常に合理的な理由があるので、素直に指示に従うことにする。

 二人の尾行は思った以上に簡単だった。

 人気のないところでは尾行する場合は、尾行していることを気づかれないようにするために距離を開けすぎて目標を見失う可能性があるが、兵庫県最大の繁華街である三宮の街は裏通りでも通行人が途切れることはないし、何より阿部さんの着ている真っ白なワンピースが闇夜に映えていい目印になってくれる。

 二人は駅から15分ほど歩いたところにあるシティホテルの前で立ち止まり、連れ立ってホテルの敷居をまたぐ。

 俺はその姿をただ眺めているだけだったが、俺がかけているスマートグラスの内蔵カメラが、二人がホテルに入るところをばっちり撮影してくれた。


「慧人さん、危険な任務を引き受けてくれてありがとうございます」

「別に危険なんてなにも無いよ。ここだって普通に人歩いてるし」

「それでも、ありがとうございます」

「あと慧人君、悪いけどもう少しだけ付き合ってくれない? 私と桜歌も三宮に行くからJR三宮駅の改札前で落ち合いましょう」

「おい大丈夫なのか? 中学生が午後9時過ぎたあと屋外に居たら補導されるんだろ」


 亜沙美が今から自分達も三宮に来ると言い出したので、俺も困惑してしまう。


「だからこそよ。阿部佐奈を警察署に連れて行って被害届を出させる。この事件、今日で決着を付けましょう」

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。

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