第35話
――関谷亜沙美
香織さんが流奈さんを助け出した後、私と桜歌は志村のアカウントを監視してマッチングアプリに新たに投稿されたメッセージをチェックしていた。
【流奈って女に逃げられた。どういうことだ?】
【知らねえよ。お前が下手なこと言ってきらわれただけだろ】
【違う。突然、別の女が現れて連れて行ったんだ】
【それこそ知らん。運が悪かったと思ってあきらめろ】
【ふざけるなッ! そういえば、流奈を連れていった女が、『流奈さんは、青山由紀に脅されてこんなところに来た』とか言ってたな。お前、流奈を脅して割り切りさせてるのか?】
【違う。あくまで、あの女が稼ぐために割り切りしたいって言ったんだよ】
【お前が女子高生を恐喝して割り切りさせてるって通報してもいいんだぜ?】
【別の女を手配する。少し待て】
【わかった。連絡を待ってる】
これが、香織さんが流奈さんを助け出した後に、志村とスケベオヤジが交わした一連のメッセージだ。
「おそらく志村は、由紀を通じて新たに売春を強要できる女生徒を探すつもりね」
「私もそうだと思います。可能であれば志村さんと青山さんの通信記録を見たいところですが、もう二人とも学校内に居ませんね」
パケットキャプチャーツールが受信した通信記録の一覧に、青山由紀の端末と、志村和雄の端末から送信された通信記録が表示されなくなった。
もう19時を過ぎているので二人とも帰ってしまったようだ。
こうなると、あとはアカウントを割った志村のマッチングアプリのメッセージを見て彼らの動きを追うしかない。
「ちなみに、流奈さんを買おうとしていた男性の身元は特定できそうですか」
「あのスケベオヤジか、一応画像検索かけてみるね。意外とフェイスブックとかやってるかもしれないし」
慧人君がスマートグラスで撮影してくれたオジサンの顔写真を画像検索にかけてみる。
検索エンジンがから意外な答えが返ってくる。
「あっ、ヒットした」
「中川まさや。吉本興業所属。お笑い芸人だったんですね。テレビにも出演してるみたいですよ」
「けっこう有名人みたいね。私は知らなかったけど」
スケベオヤジの正体は、主に関西テレビが制作しているバラエティ番組に出演している関西のローカルタレントだった。
「私もアサミンも、バラエティ番組なんて見ないから仕方ないですよ」
「でも、運が向いてきた感じがする。中川まさやが不同意性交罪で逮捕されたら、志村と青山にも必ず操作の手が伸びる」
「芸能人の犯罪ですもんね。SNSのトレンドが事件のニュースで埋め尽くされる光景が目に浮かびます」
私と桜歌は顔を合わせて笑みを浮かべる。
盤面はもう終盤だ。
詰めを誤らなければ、香織さんを悲しませた奴らを地獄に落とすことができる。
一時間ほど経ってから、マッチングアプリに新たなメッセージが投稿された。
【女の用意が出来た。割り切りで、ほべつ5でどうだ】
【待たせたのに割引なしかよ。まあ、処女だったら構わないが】
【悪いが処女じゃない。けど、JCだ。嫌いじゃないだろ若い女】
【JCか、じゃあ顔が見たい。美人なら、ほべつ5出す】
【見た目はいい方だと思うぞ】
少し間が空いて志村が女生徒の顔写真を投稿する。
――!!?
「ッ!!! ゲホッ…ゲホッ!」
「ちょっとアサミン大丈夫ですか?」
驚きのあまり激しく咳き込んでしまった私の背中を桜歌がさすってくれる。
志村が投稿した写真には私の知っている人物が写り込んでいた。
「だって、こいつ……」
「私も驚きました。星華学園の中等部に転校してたんですね」
写真の少女は、2年前私をイジメのターゲットにして自殺未遂に追い込んだ阿部佐奈だった。
「桜歌、悪いけど付き合ってくれない。私達も三宮に行こうって」
「三宮に行くって、アサミンまさか佐奈に会うつもりですか!?」
桜歌が心配するのも無理はない。
私は二年前、佐奈にひどいイジメをうけて自殺未遂に追い込まれた。
「よく考えたら都合がいいじゃない。佐奈を警察署に連れて行って被害届を出させれば私達の勝ちよ」
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