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第27話

――関谷亜沙美


「亜沙美さん、おつかれさまです。難しいところは終わったので、後片付けをして早々に退散しましょう」

「そうだね」


 警備員さんが巡回に来る前にこの部屋から退散しないといけない。

 私は急いでコンセントカバーを付けなおし、道具をカバンに仕舞い込むと、そそくさと1―Cの教室から退散した。


「今度こそおつかれさまです。亜沙美さん、危険な仕事を引き受けてくれて、ありがとうございます」

「私のために、ごめんなさい。本当にありがとうございます」

「気にしないで危険な仕事を引き受けた分、バイト代ははずむって桜理さんに言われてるから。それに私と香織さんと友達でしょ。私は友達を幸せにするために頑張りたいの」

「そうですね。私も友達を幸せにするために頑張ります」

「ッ!? あっ、ありがとう……ございます」


 香織さんは感極まって泣いてしまったようで、声を詰まらせながらお礼を言ってくれた。


「それじゃ、警備員さんに怪しまれないように映像と通信は切るから」

「了解です。お帰りをお待ちしています。あと、朗報です。今日の打ち上げは、お母さんがなんでもご馳走してくれるそうです」

「そうなのッ! じゃあ、高いお肉お願いしようか?」

「いいですね、そうしましょうッ!」


 そう言い残して桜歌との通信は切れた。

 私は校門前の守衛さんに怪しまれないよう、スマートグラスもカバンに仕舞い込む。

 警備員さんの仕事は基本的に不審者の侵入を防ぐことなので、ゲートを入って来る人に対してはシッカリ確認しているはずだが、出ていく人はさほど気にしないだろう。

 このまま香織さんに変装したまま門を潜れば無事任務は完了する。


――そう思っていた。


 校舎の入り口で私は、連れ立って歩く女生徒の一団に遭遇した。

 全員、星華高校指定のジャージか体操着を身に着けていたので運動部の生徒なのは間違いないが、ボールやラケットを持っていないので何の部活なのかはわからない。

 女生徒の一人が「こんにちは」と声をかけてきたので、私は怪しまれないように「こんにちは」と挨拶を返しながらペコリと一礼して女生徒達をやり過ごす。

 そうやって女生徒達とすれ違って校舎を出た直後、1人の女生徒が駆け寄ってきて私は右手をつかまれた。


「香織、久しぶりじゃん。長いこと休んでたけど、やっと復学するんだ」


 私の手をつかんだのは、先ほどすれ違った女生徒達の一人だった。

 身に着けているのは星華高校指定の体操服だったが、明らかに美容院でセットしたことがわかるウェーブの掛かったロングヘアと、耳に残ったピアス穴を見る限り、私や香織さんが友達になれる人種とは思えない。


「香織が急に学校来なくなったからさあ、私、心配してたんだよね」


 変装のおかげで彼女は私のことを香織さんだと思っているようだが、声を出せば変装だとばれてしまうので、私は黙って彼女の話を聞くことしかできない。


「ねえ私達、友達でしょ。悪いけど3万くらい貸してくれない? 今月厳しくてさあ。友達だし助けてくれるよね」


 そして彼女が口に出したのは金の無心だっだ。

 間違いない。

 彼女は香織さんをいじめて、売春を強要した、『売春強要グループ』の一員だ。


「チッ!」


 私は思わず舌打ちをしてしまう。

 スマートグラスを仕舞ったのは失敗だった。

カメラがあれば、今の言動をイジメの証拠として残すことができた。


「オイッ! いま舌打したな。舐めんじゃねえぞッ!!」


 いじめっ子は、私が舌打ちしたのに腹を立てて罵声を浴びせてくる。

 やっぱり、この女みたいな人達は嫌いだ。

 自分達は優れた人間だと勘違いし、自分が見下している者が反抗的な態度を取ると理不尽に怒鳴りつけてくる。

 こんな奴と話もしたくないと思った私は、つかまれた手を振り払って全力で逃げ出した。

 セキュリティゲートまでたどり着けば、警備員さんが居るのでいじめっ子も無茶は出来ないはずだ。

 私は全力疾走で正門までたどり着き、カードキーでセキュリティゲートを開放する。

 校門を抜けて抜けて逃げ切った直後――背後から強い衝撃を受けて私は転倒してしまった。


「逃げんな、ブスッ!」


 振り返ると私の背後でいじめっ子が仁王立ちしていた。

 逃げきれなかった……いや、背後から突き飛ばすなんて明らかな暴力行為を行うと思っていなかった私の油断だ。


「明日までに三万持ってこい。無理っていうなら、いいバイト紹介してやるからさ」


 いじめっ子は私の胸倉をつかんで恐喝を始める。

 彼女の顔立ちは世間的に美人と呼ばれるレベルで整っていたが、私を見下して薄ら笑いを浮かべている姿は吐き気がするほど醜かった。


「あっ……」

「なに泣いてるんだよ。ビビッて、泣くくらいなら最初からあたしに従えよ」


 いじめっ子に言われて、私は自分が涙を流していることに気づいた。

 何か言い返そうと思ったが言葉が出てこない。

 怖い――2年前と同じだ。

 私に向けられる罵声と暴力に、全身が震えあがって身体が全く動かない。


「おい、無視するなよッ!」


 私が何も話さないことに腹を立てたいじめっ子が、私を引っぱたくために腕を振り上げる。

 私は叩かれるのが怖くて目をつぶってしまう。


挿絵(By みてみん)

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。


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