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第24話

――三智桜歌


「どうやらメッセージの内容を見るに上役に本日はまだ成果なしと報告しているようです。きっと上役から叱責のメッセージが返信されてくるでしょうね」


 中国語の読み書きができるお母さんがメッセージの内容を解説してくれる。


「こんな感じで通信データを盗聴して『売春強要グループ』のシッポをつかむのが今回の作戦の概要です」


 通信データ盗聴の実演が終わると車内は再び沈黙に包まれる。

 慧人さん、香織さん、和子さんの顔は、驚きを通り越して能面のような無表情になっていた。


「なに!? なんなのこれ? 私、すごく怖いんだけど」


 沈黙を破ったのは香織さんだった。

 どうやら、通信データ盗聴の実演を見て驚きを通り越して恐怖を感じたようだ。


「通信データの盗聴ってすごく簡単にできるんですね。私のメッセージも盗聴されているのかしら」


 言われてみたら、ちょっと鮮やかにやりすぎたかもしれない。

 ハッキングについて知識のない香織さん達は、ちょっとAIに命令して、抽出したデータを解析ソフトにかけただけで通信データの盗聴に成功したように見えただろう。

 同じやり方で自分達の通信データが盗聴されているかもしれないと思われても無理はない。


「さっきの盗聴は、たまたま上手くいっただけですよ。

 犯罪組織の人達が不法入国した外国人だと知っていたので、中国製のパルスフォンを使っていそうだとアタリを付けられんです。

 手掛かりがなければ関係ない人の抽出した通信記録の全てを総当たりでチェックし続けることになります」


 機材やAIの進歩によってハッキングを行うのは昔に比べて簡単になったが、肝心なところはまだまだ人間の洞察力とマンパワーが重要なのだ。


「心配なら有料のセキュリティソフトをインストールしておくといいですよ。盗聴対策用のセキュリティソフトをインストールしておけば、通信データは二重の暗号で守られるので盗聴するのが非常に困難になります」

「よかったら三智先生が使っているセキュリティソフトを教えていください」


 和子さんは、お母さんからおススメのセキュリティソフトを教えてもらって、いそいそと自分のパルスフォンにインストールする。


「いま実演したように通信データの盗聴は可能です。ただし星華高校の場合は同じ方法は使えません」

「なんでですか? 学校では授業でタブレットを使うので校内にWiFi環境が整備されていますよ」


 香織さんの言う通り現代において学校ではWiFi環境が必ず整備されている。

 一昔前、教科書は全て紙の本だったと聞いているが、現代の教科書は全てタブレット端末にインストールされた電子書籍だし、先生が作った資料もデータがタブレット端末に送られてくる。

 しかし、仮にも学校セキュリティは、アパートの一室で振り込め詐欺をやってる犯罪者とはわけが違う。


「香織さん、星華高校に整備されてるWiFiに接続できるのは学校から配布されたタブレット端末だけで、私物は接続不可になっていますよね?」

「確かにッ! WiFiに接続できるのは学校から配布された端末だけで、私のパルスフォンは接続不可です」


 私の通っている泰光寺中学校も同じだ。

 学校は生徒の個人情報を大量に保管しているので、ネットワークのセキュリティは犯罪組織とは比べものにならないくらい固い。


「それはセキュリティ対策なんです。大きな会社や公的機関のネットワークはあらかじめ登録された端末以外はアクセス出来ない設定になっていて、さっきみたいにパスワード解析ソフトを使って強引に侵入しようとすれば即座に不正アクセスのアラートが出ます」

「じゃあ、さっきみたいにアクセスポイントにハッキングして情報を盗み出すのは……」

「難しいですね。教職員のパソコンをハッキングして、その端末を踏み台にすればアクセスできるかもしれませんが、教職員の誰かが私達の仕掛けたウイルスに感染するのを待たなければいけないので、運も時間も必要になります」


 ときどき海外で大企業がクラッキングの被害を受けたことがニュースになるが、あの手のクラッキングはハッカーが不特定多数を相手に薄く広く張り巡らせたトラップに誰かが引っかかった結果引き起こされたものだ。

 今回みたいに、特定個人を狙ってハッキングをするのは下手すると大企業をハッキングするより難しい。


「でも、なにか方法があるんですよね!?」


 香織さんが、期待に満ちた視線を私に向けてくる。

 どうやら私達は、香織さんの信頼を勝ち取ることが出来たようだ。


「学校のアクセスポイントをハッキングするのはリスクが大きいので、今回は私が潜入してこれを仕掛けます」


 アサミンが手のひらサイズくらいの長方形の金属板を取り出した。

 一見すると何の変哲もない鉄の箱に見えるが、箱の一端に通電線に接続するためのワニ口クリップが付いている。


「これはパケットキャプチャーツールといって、パルスフォンが発信した通信データをキャッチして、ワークステーションに横流しする機械です。

 基本的に無線通信っていうのは、パルスフォンが送信したデータをアクセスポイントが受信することで成立するんですが、この機械はパルスフォンから送信されたデータをアクセスポイントより先にコッソリキャッチしちゃうんです」


 パケットキャプチャーツールを使えばセキュリティの固いアクセスポイントに接触しなくてもよいので、証拠を残さず通信データを盗聴することができる。


「便利なツールなんだけど仕掛けるのが大変なのよね。学校内に潜入して、どこかの部屋のコンセント裏にツールを仕掛けないといけないから」

「亜沙美さんが潜入するんだよね。大丈夫なの?」


 香織さんが心配そうに表情を浮かべる。

 この後、アサミンが香織さんに変装して学校に潜入する予定になっているのだ。


「任せてください。私、友達を助けるために、この仕事頑張りたいんです」


 アサミンは香織さんの両手を握ってそう宣言した。


挿絵(By みてみん)

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。


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