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第23話

――三智桜歌


 6月13日、日曜日、午前10時。

 場所は神戸市灘区。

 目的地である星華高校から2キロほど離れた有料駐車場にやってきた香織さんと和子さんの二人は、大きく見開いて口を半開きにしている。

 この顔を見るのは今日2度目だ。

 一度目は慧人さんで、一時間前に二人と全く同じ顔をしていた。

 もっとも、3人が驚くのも無理はない。

 今回の作戦のために、お母さんがとんでもない秘密兵器を投入した。

 その名は『ハッキングカー』。

 外見は大型のボックスワゴンを改造した普通のキャンピングカーに見える。

 しかし、中身はキャンプするのに必要なキッチンや寝台を全て撤去して、内装を全面的に改造している。

 具体的には、車の右側に作業机と足を床に固定した丸椅子を設置し、机の上にはワークステーションとなるノートパソコンが4台配置、車の左側には天井すれすれまで高さのあるサーバーラックが鎮座していた。

 サーバーラックの中身は車載用WiFiルーターと高性能のCPUやSSDを多数搭載したいわゆるスーパーコンピューターと呼ばれる代物で、ノートパソコンに難しい命令を入力しても直結したスパコンがハイパワーを駆使して即座に望む答えを導き出してくれる。

 このハッキングカー、普段は三智家のシャッター付きのガレージに駐車しているが、今回の作戦を実施するにあたって星華高校の近くにある有料駐車場に前線基地として持ってくることになった。


「栗野様、今日はご足労いただいてありがとうございます。ろくなおもてなしも出来ませんが、そこのソファーで休んでください。慧人君、悪いけど栗野様にお茶を出して」

「了解しましたッ!」


 慧人さんはお母さんに敬礼してから、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。

 サーバーラックの隣には、休憩用のソファーと、人が抱えられるくらいのサイズの小さな冷蔵庫が置いてあって、一応人が寝泊まりできる設備が残っているが、ソファーと冷蔵庫の存在が逆にこの車に泊まって作業する可能性があることを連想させる。


「な、なんかこの車すごいね。私、こんな車、アニメでしか見たことないよ」

「俺も今朝、これを見て肝を冷やしました」


 香織さんと慧人さんがタメ息まじりにつぶやく。

 車にスパコンを積んだハッキング用の移動拠点なんて普通の人はアニメか映画でしか見ることがない代物だろう。

 アサミンも始めてこの車を見たときは驚きのあまりしばらく口が利けなくなった。


「この車で何をするんですか?」

「基本的にはパケット通信データの盗聴と解析ですね。そうですね――近所のアパートで半グレ集団が振り込め詐欺をやっているので、試しにその通信データを抜いてみましょうか?」

「そんなこと、出来るんですか!?」


 お母さんがサラリと恐ろしいことを口にしたので、和子さんは再び口を半開きにして固まってしまう。


「桜歌、レジデンス赤坂のアクセスポイントに接続してちょうだい」

「了解。ウィズ、周辺500メートル圏内に存在するアクセスポイントを平面図に表示して」


 私がワークステーションのAIに命令を下すと、目の前にあるノートパソコンに無数の赤い点が表示された周辺地図が表示される。


「この赤い点が全部アクセスポイントです。最近は一家に一台Wifiルーターがあるんで特定のアクセスポイントを探しだすのは結構大変なんですが、賃貸住宅に設置された無料Wifiは一度建物全体の通信データを集合サーバに集めて有線に送り出すので、集合サーバにアクセスすれば……」


 私は地図に表示された無数のアクセスポイントの中からレジデンス赤坂のアクセスポイントを探し出しカーソルを合わせてアクセスする。

 当たり前の話だが、アクセスポイントに接続するにはパスワード認証を突破しなくてはならない。

 しかし、スーパーコンピューターと連動しているパスワード解析ソフトは数秒でアクセスポイントのパスワード認証を突破する。


「ウィズ、サーバに保存されているパケット通信データを見せて?」


 私が再びAIに命令を下すと、通信解析ソフトが立ち上がり、サーバに保存された大量の通信データの一覧が表示される。


「こんな感じで通信解析ソフトは、どの端末から通信データが送信されたのかを一覧表示してくれるんです。この『アイフォン』って表示されたものは文字通りアイフォンから送信されたデータで、『ダイナブック』って表示されているのはパソコンから送信されたデータですね。で、半グレの人達が使っていそうなのは……」


 私は通信データの一覧からオッポと表示された文字列をクリックして、通信データの暗号解析を始める。

 暗号解析ソフトが通信データの暗号を解読するとパッ! パッ! パッ! と中国語で書かれたメッセージが画面上に表示された。


挿絵(By みてみん)

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。


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