第21話
――三智桜歌
ファミレスでお茶したあと、私達は三智法律事務所に戻った。
事務所で娘のことを待っていた和子さんは、別人のようにかわいい女の子になった香織さんの姿を見てとても驚いていたが、それ以上に友達が出来たと言って喜んでいる香織さんの姿を見て目に涙を浮かべて喜んでくれた。
一方で、お母さんと和子さんが話し合った結果、星華高校にパケットキャプチャーツールを仕掛ける作戦を次の日曜日に決行することが決まった。
教室内にあるコンセントのカバーを開けて通電線にパケットキャプキャーツールのソケットを接続する怪しい電気工事を行うことになるので、教室に人が居ない週休日を狙うしかない。
当日は、アサミンが香織さんから制服を借りて在校生に成り済まして学校に潜り込む予定だ。
ちなみに工作員がアサミンになったのは制服のサイズの問題で、私も香織さんの制服を試着させてもらったが、サイズオーバーで制服がヨレヨレになった姿を見て私は心に深い傷を負った。
作戦の決行は明日。
しかし、私も中学生として学校に通っている以上、闇バイトばかりにかまけているわけにはいかない。
本日、6月12日は6月の第2土曜日。
泰光寺中学校は、月の第2・第4土曜日は午前中に授業があるが給食は無いので、家庭科部はそのタイミングで調理実習をするのが通例になっている。
調理実習は部員全員が楽しみにしているイベントだ。
この日ばかりは普段は顔を出さない藤村先生も出席するし、剣道部の稽古で忙しいキーや慧人さんも参加する。
「今日は慧人さんからレシピ提供があったウルク式ハンバーグを作ります」
私がそう宣言すると家庭科部のみんながパチパチと拍手をしてくれる。
家庭科部のみんなの様子を見てみると、思い思いの格好をしていてなかなか面白い。
基本的に料理をするときに制服にソースが付いたり、髪の毛が料理に入ったりしないよう対策するのだが、ツートンカラーのオシャレなエプロンを身に着けている娘もいれば、実用性を重視して割烹着と給食帽で完全防御している娘もいる。
ちなみに私、アサミン、慧人さんの3人は完全防御派で、意外なことにキーはピンク色のかわいらしいエプロンを身に着けている。
「慧人さん、今日は調理指導よろしくお願いします」
「調理指導って何するんだ?」
「まずはホワイトボードに料理の材料と調理手順を書いてください。そのあとは、3班に分かれて料理するので、各班が上手く調理できるか監督するのと、トラブルが起こった時にアドバイスする感じですね」
「あいよ。まあ、簡単な料理だからトラブルなんて無いだろ」
慧人さんはペンを手にすると材料一覧の一番上に『肉』と書き込んだ。
「あの……肉ってなんのお肉ですか?」
いきなり大雑把すぎる材料名が飛び出したので、文香さんが慌てて手をあげる。
「なんの肉って? 肉は、肉だろ」
「慧人さん、肉といっても色々あるんです。豚肉とか、鶏肉とか」
「ウルク式だったら、やっぱり恐竜の肉かな? 確かウルクの人って恐竜のお肉を食べるんだよね」
藤村先生がウルクの文化についてコメントしてくれる。
ニビルで恐竜が生き残っていること、イヌ科の知的生命体ウルディンがパキリノサウルスやトリケラトプスといった大型の角竜を飼育していることは有名な話で、日本でもジビエを扱うレストランに行けばウルクから輸入された恐竜の肉を食べさせてくれるところがある。
「えっ、恐竜ッ!」
「恐竜って、人を襲う怖い生き物だよね。恐竜に肉なんて食べられるの?」
恐竜の名前が出たことで下級生のみんながザワザワと騒ぎ始めたので、私は皆を落ち着かせるためにパンパンと柏手を打つ。
「みんな聞いてッ! 先生の言う通りウルクの人は恐竜のお肉を食べていますが、日本で恐竜のお肉は100グラム2000円で売られてる超高級食材です。とても調理実習で使える代物ではないので安心してください」
「そもそも、最近はウルクで肉料理作るときはウサギの肉使うことが多いぞ」
「「「ウサギッ!!」」」
「慧人さん、余計なこと言わないでくださいッ!」
騒ぎが落ち着いたと思った直後、慧人さんの爆弾発言が投下されて下級生が騒ぎ始める。
彼の言う通り、ウルクでは近年肉食の需要が増えてきたことに対応して伝統的な恐竜の飼育だけでなく、角竜の放牧場にウサギを放し飼いにしてペットや食肉用として飼育していると聞いたことがある。
もっとも、ウサギ肉なんて珍しい食材が日本で手に入るはずがない。
「みんな落ち着いてください。今日使うお肉は近くのスーパーで買ったトリのモモ肉とムネ肉です。恐竜とかウサギとかそういう変な食材は使わないので安心してください。あと慧人さんも、ホワイトボードに『肉』なんて雑な書き方しないでください」
「あいよ」
私の指示に従って慧人さんは、材料の記述をトリムネ肉・トリモモ肉に書き直してくれる。
実はスーパーで売られているニワトリは竜盤目獣脚類鳥科の生き物で恐竜そのものなのだが、この話をしたら再びみんなが混乱するので黙っていた方がいいだろう。
慧人さんも先ほどの騒ぎで反省したのか、トリ皮、鶏卵、赤味噌、食酢といった具合で下級生に不信感を持たれないように材料名を書いてくれる。
それで無事調理実習が始まりそうだと思ったその時。
『練酒』
と、慧人さんが変な材料名をホワイトボードに書き込んだ。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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