第20話
――関谷亜沙美
眼鏡屋さんと、駅前の阪急デパートをはしごして、香織さんに必要なものを買いそろえた私達は、人でごった返す繁華街から非難して駅から離れたところにあるファミレスで一休みする。
「さすがに疲れた……お前ら買い物に時間かけすぎ。化粧水一つ買うのに、なんであんなに話し合いが必要なんだ?」
興味もないのにボディガード兼お財布として付いてきてくれた慧人君はファミレスに着いたところで力尽きて、椅子にだらしなく体重を預けてドリンクバーで汲んできたブラックコーヒーをカブ飲みする。
「慧人さん、おつかれさまでした。でも、仕方ないんです。予算に限りがあるので、眼鏡も化粧水も日焼け止めクリームも、香織さんにとってベストなものを厳選する必要があったんです」
「化粧水や日焼け止めクリームなんて、どれも同じじゃないのか?」
「違いますッ!」
「全然違うからッ!」
お約束のノンデリ発言をしてくる慧人君を、私とオッカは一括して黙らせる。
「慧人君が知らないのも無理はないけど。私達が買える価格帯の化粧品って、当たり外れが大きいのよ」
今日化粧品を買いに行ったのは阪急デパート内に店を構えているロフトという雑貨店だ。
全国展開している雑貨店だけあって化粧品の品ぞろえも充実していて、私達が親に買ってもらえる価格帯のいわゆるプチプラと呼ばれる化粧品がたくさん置いてある。
「安い化粧品が全部ダメってわけじゃないけど、外れを引くと効果が全くなかったり、肌に合わなくてかぶれたりするから、沢山の化粧品の中から当たりを見極めないといけないの」
「玉石混合で目利きに時間がかかるってわけか。女子って大変なんだな」
「そうです。女の子はみんな頑張っているんです」
私とオッカが、女子の買い物事情について説明すると慧人君は素直に納得してくれる。
「と、いいつつ私はけっこう楽しかったんだけどね」
ロフトでオッカや香織さんと相談しながら、どの化粧品を買おう悩んでいる時間は楽しかった。
「私もとても楽しかったです。本当に今日は生まれてから一番楽しい一日でした。こうやって、だれかと一緒に買い物するなんてまるで夢みたいで……」
香織さんは、話しながら感極まって泣き始めてしまう。
先ほど買ったターコイズカラーのメガネフレームの縁に、彼女の瞳から流れた涙のしずくがたまる。
「ごめんなさい。なんか涙が止まらなくて」
「あやまらないでください。気持ちわかります。私も桜歌と出会うまで友達居なかったので」
人と話すのが苦手で特技も趣味も無なかった2年前の私はずっと一人で孤立していた。
大人は友達を作るには自分から話しかけろとか、もっと社交性を持てとか、無責任なことを言ってくるが、私から言わせればそういうアドバイスはコミュ力のある人が自分の成功体験をひけらかしているだけだ。
中学1年のとき、私も友達を作るために自分からクラスメートに話しかけたり、クラスの輪に溶け込むために同級生のよくわからない物言いに話を合わせたりしたこともあるが、そういう努力は全て無駄だった。
「私、思うんです。友達がいる人は、ただ運が良かっただけ」
「運ですか!?」
香織さんが驚きの声をあげる。
きっと彼女も、成功体験ひけらかすだけのありきたりなアドバイスを聞かされ続けたのだろう。
「陽キャで友達がたくさんいる人は運よくそういう才能を持っていただけです。逆に私みたいな陰キャでも、一人でも気が合う人が近くに居れば友達ができます。だから友達がいる人って、ただ運がいいだけです」
いまの私があるのは桜歌に出会うという奇跡的な幸運があったおかげだ。
一部の男子は私のことを『タジ中の美少女四天王』なんて無責任な称号を付けて持て囃している。
しかし、私が変われたのは桜歌に勉強を教わり、料理や裁縫を教わり、彼女の指導でボディメイクを成功させたからだ。
でも、中身は変わっていない。
相変わらず不特定多数の人と話すのは苦手だ。
学校で話をするのは、オッカとキーと慧人君、あとは家庭科部の後輩だけで、私が自殺未遂をしたことを覚えている同級生は露骨に視線を逸らしてくる。
香織さんは2年前の私と同じ苦しみを抱えている。
そう思うと、彼女のことを放ってはおけなかった。
「香織さん、私と連絡先を交換しませんか? 何かあっても、なくても、私は香織さんのお話が聞きたいです」
現金な話だが、香織さんは私と同じ陰キャなので友達になれる気がする。
「あの……ありがとうございます」
私に続いて、慧人君やオッカも連絡先の交換を申し出る。
香織さんは、自分のメッセージアプリに友達の表示が加わったのを見て心底嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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