第18話
――関谷亜沙美
桜理さんに紹介してもらった美容院はセンター街の一画にある個人経営のお店だった。
駅前の有名店に比べると規模が小さなお店で、理容台の数は3つ、美容師の人数は二人という編成だ。
お店についてから30分も経たないうちに順番が回って来たので、私は香織さんを席に座らせて、美容師さんに渡されたタブレット端末に表示されたヘアカタログを彼女に見せる。
「香織さん、どんな髪型がいいですか?」
「どんなって言われても……ゴメン、よくわかんない」
香織さんはそれだけ言うと、うつむいて黙り込んでしまう。
和子さんの話だと、香織さんは半年以上部屋に引き籠っていたらしいので、委縮してしまうのも仕方ない。
「自分で決められないなら、私が決めちゃっていいかな?」
「じゃあ、お任せでお願いします」
美容師さんは、私のお母さんと同年代の女性だった。
世間一般ではおばさんと呼ばれるくらいの年齢だが、長年美容師をやってるだけあってヘアスタイルや服のセンスも良いし、一日中立ち仕事をしているせいかスラッとした体形で、カッコよい美人という印象を受ける。
「悪いけどちょっと髪の毛触るね。さっきヘアカタログ見せたけど、ヘアスタイルの良し悪しなんて結局、髪質と顔の形で決まっちゃうから」
「確かに……」
背が高くてストレートヘアのキーはロングヘアが似合うし、小柄でクセッ毛のオッカはショートボブの髪型でかわいらしさをアピールした方が魅力的になる。
そこには優劣なんてものはなく、自分の長所を把握してそれを伸ばすのが正解なのだ。
「少し硬いけど、髪質ストレートな気がするなあ。お客さん一回シャンプーしようか」
「えっ、まだ髪切ってませんよ!?」
普通シャンプーは髪を切ったあと仕上げにやることが多いので異例の対応だ。
「でも、お客さんしばらく髪洗ってないでしょ」
「は……はい……」
「それじゃ、正確な髪質わからないからシャンプーしよう」
そう言うと、美容師さんは香織さんを洗髪台に連れていってワシャワシャ髪を洗い始める。
「あの、いろいろとありがとうございます」
「いいのよ。若い女の子がキレイになるために私を頼ってくれるなんて嬉しいものよ」
洗髪を済ませると、香織さんの髪はするする櫛が通るようになった。
「やっぱり髪質はストレートだね」
「じゃあ、あまり切らない方がいいですね」
「どうかな? 本格的なロングヘアは慣れないとお手入れが大変よ」
「それは、そうかも」
ロングヘアのキーは、毎日洗髪に30分以上かけていると聞いたことがある。
それでもキーは、日によってかんざしで結い上げたり、三つ編みにしたりと、ヘアアレンジを楽しんでいるが、いまの香織さんに同じことが出来るとは思えない。
「最初はこのくらいがいいんじゃないかな。ヘアケアに慣れたら伸ばしていけばいいし」
美容師さんがセミロングのヘアスタイルを提案してくれたので、タブレットに表示したヘアカタログの写真を香織さんに見せる。
「やっぱり、前髪を切るんですか?」
「前髪切りたくないかあ。絶対に前髪切った方がかわいいと思うんだなあ。よかったら理由を教えてくれませんか?」
香織さんが前髪を切ることに抵抗あるようなので理由を聞くと、彼女はシブシブ前髪をたくし上げる。
前髪をかき上げると彼女の鼻の周りにそばかすが散っているのが見えた。
「中学の頃に男子にブスブスってからかわれたのがトラウマで……」
「なるほど……それでも、前髪は切った方がいいですよ。大丈夫、ソバカスは薄い方だしファンデーションで隠せるレベルです」
「本当に大丈夫ですか?」
「桜歌の言葉を借りるなら。かわいくなるためにはソバカスを前髪で隠すより、ファンデーションで隠した方が効率的です」
「わ……わかりました」
「美容師さん。セミロングに揃えるので問題なさそうなのでお願いします」
香織さんは緊張のあまりロボットのようにカチンコチンになってしまったので、あとは美容師さんのお任せすることにする。
美容師さんがヘアカットをしている途中で、オッカがキャリーケースを引いて美容院にやって来た。
「桜歌、おつかれ。もうすぐヘアカット終わるから」
「次は、お楽しみのお着換タイムですね。すいません、着物の着付をやりたいので奥の更衣室を貸していただけませんか?」
桜理さんから聞いた話だと、この美容院は夏祭りに着るゆかたや成人式に着る振袖の着付をやっているので、店の奥に着付用の更衣室がある。
「あら着物着たいの? 悪いけど、今日は和服のスタイリストが来てないから着付けできないのよ」
美容師さんが申し訳なさそうにつぶやくと、オッカは任せろと言わんばかりに胸に手を当てた。
「着付けは私がするのでご心配なく。更衣室だけ貸してください」
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
【読者の皆様へのお願い】 下にあるポイント評価(星マーク)は、作品のランキングに直結する非常に大きな力になります。 「面白かった」「今後に期待」と思っていただけましたら、応援のつもりで星をタップしていただけると嬉しいです!
頂いた評価や感想を糧に、さらに面白い物語を届けていけるよう頑張ります。




