第17話
――三智慧人
いつの間にか香織さんは泣くのを止めて、無言で関谷さんの話を聞いていた。
俺も関谷さんの衝撃の告白を聞かされて心臓がドキドキしている。
男子の間で関谷さんは『タジ中の美少女四天王』と呼ばれているが、きっと大半の男子は彼女に壮絶な過去があったことを忘れてしまったのだろう。
関谷さんは、香織さんの手を取ってギュっと握りしめてから和子さんの方に振り向いた。
「和子さん、しばらく香織さんをお借りしてもいいですか?」
「借りるって……香織を、どこに連れて行くの?」
和子さんが心配そうな顔で質問すると、関谷さんは満面の笑みで答えを返す。
「とりあえず美容院です」
「美容院って髪を切るってこと!?」
髪を切ると聞いて香織さんは露骨な拒否反応を示す。
「前髪で目を隠すのは、かわいくないです。それに、あんまりお手入れしていないせいで髪もボサボサなので、とりあえず美容院に行ってスッキリさせましょう。美容院代は私が出すので、だまされたと思ってついてきてください」
関谷さんは、自腹を切ってでも香織さんを美容院に連れて行くと宣言する。
「美容院代は出すって、亜沙美さんお金持ってるんですか?」
「んんん……慧人君、ゴメンお金貸してくれない。バイト代入ったら返すから」
俺の懐に余裕があることを知っている関谷さんは、両手を合わせて借金を頼んでくる。
「貸すのは構わないけど、俺は使い道のない貯金がけっこうあるから支払い持とうか?」
「それはダメッ! 香織さんを美容院に連れて行こうと思ったのは私の意志だから。だから、責任をもって私が出すわ」
自分の意志と選択に責任を持つ。
関谷さんの言動は、壮絶な過去を乗り越えた人間の強さを感じさせる。
「あと桜歌、悪いけど香織さんに似合うかわいい服持ってきてくれない。この前、リメイクした着物作りすぎてクローゼットに入りきらなくなったって言ってたでしょ。その中で、香織さんに似合いそうなやつ見つくろって」
「承知しました。近々、ハンドメイド市で売ろうと思っていた着物があるので、厳選して持ってきますね」
桜歌は、香織さんに着物を提供することに二つ返事でうなずく。
「ちょっと、私、着物なんて着たことないんだけど」
「心配しないでください。桜歌の持ってくる着物は、上下が分かれた二部式着物だから着付は簡単です」
「あの、香織になにをさせるつもりの?」
関谷さんがポンポン話を進めていくのに不安を感じたのか、和子さんが心配そうな顔で質問をはさむ。
「香織さんは何か勘違いしてるみたいなので、それを正そうと思います。美容院で髪をキレイに整えて、かわいい服を着て、かわいい女の子になってもらいます」
『香織さんをかわいい女の子にする』という関谷さんの宣言に、和子さんと香織さんは言葉を失う。
俺にはそんなことをして何の意味があるのか理解できなかったが、関谷さんは香織さんを『かわいい女の子』に変えることで何かが変わると確信しているみたいだ。
不意に関谷さんのパルスフォンが呼び出し音を鳴らす。
関谷さんと一緒に何の呼び出しなのか確認してみると、メッセージアプリに美容院の予約票が表示されていた。
「香織さんを美容院に連れて行くっていうなら予約は取っておいた方がいいわよ。日曜日の美容院なんてどこも混んでるから」
美容院の予約を取ってくれたのは桜理さんだった。
予約票を見ると待ち時間は一時間と書かれている。
「私の行きつけの美容院だから、三智桜理の紹介だと言えば良くしてくれると思うわ」
「桜理さん、ありがとうございます」
こうして、関谷さんは香織さんを連れて美容院へ。
桜歌は、香織さんに似合う着物を厳選するために実家に戻り。
俺は、関谷さんと香織さんのボディガード兼財布役として二人に着いていくことになった。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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