第15話
――三智慧人
「栗野様、お待たせしました。この3人が、今回の案件の協力者です。みんな、自己紹介を」
「三智桜歌です」
「三智慧人です」
「関谷亜沙美です。よろしくお願いします」
桜理さんにうながされた俺達は、それぞれ自分の名前を名乗ってから依頼人である栗野さんにペコリと一礼する。
栗野さんは、自己紹介をした俺達に「栗野和子です。よろしくお願いします」と言葉を返してくれたが、娘さんの方はうつむいたまま全く動かない。
「ずいぶん若い方々ですね。3人とも未成年のように見えるのですが」
依頼人である栗野さんは、協力者が未成年者だと聞かされて、俺達にいぶかしげな視線を向けてくる。
「今回の作戦は、星華高校に潜入して工作活動をする必要があるので、彼女達のような未成年の協力者が必要なんです」
「工作活動ですか!? けっこう危ない橋を渡るんですね」
高校に潜入して工作活動をすると聞いて、依頼人である栗野さんの表情が険しくなる。
「今回、お嬢さんが学校に復学するための障害となる生徒。
もうハッキリ『売春強要グループ』と呼びましょう。
彼女達の犯している犯罪行為を暴き学校から排除するために、おっしゃる通り少々危ない橋を渡る必要があります。
弁護士報酬の額も上乗せとなるので、今後の計画についてご説明するために栗野様と協力者3名に集まっていただきました」
それから桜理さんは、昨日レストランで話した売春強要グループを吊るし上げるための作戦計画を説明する。
「ハッキングで収集した通信記録を使って『売春強要グループ』を告訴することは出来ませんが、彼女達がどんな犯罪行為に手を染めているか把握することで、お嬢さんをいじめた事に対する損害賠償の額を上乗せ出来るはずです。
それとは別に重要なのが、ほかに恐喝の被害に会っている生徒さんを探し出すことです。
未成年者と売春を行った事実があれば買った側の男性は刑事告訴を免れません。
当然男性の通信記録を警察が洗いざらい調べるはずなので、男性に連絡を取っていた『売春強要グループ』も芋づる式に釣り上げることができます。
犯罪の立証さえできれば、彼女達とその保護者は、刑事と民事の両方で起訴されることになるので学校に残るのは不可能でしょう」
「本当にそんなことが出来るんですか!?」
「任せてください。ここにいる、三智桜歌と、関谷亜沙美は未成年ですが、高いハッキングスキルを持っています。必ず犯罪の証拠をつかんでくれるはずです」
「名字から察するに、桜歌さんは先生の娘さんなんですか?」
「はい。こういう言い方をすると恥ずかしいですが、母にいろいろと教えてもらいました」
桜歌は照れ笑いを浮かべながら、自分にハッキングスキルがあることを肯定する。
以前、コンセントの移設工事をするときも異常に手慣れていたが、ああいう電気工作の知識も桜理さんに教えてもらったのだろう。
「あと星華高校に潜入するときは、栗野さんの娘さんに変装することになるので、背格好が比較的近い私が潜入役になると思います。先ほど三智先生が説明しましたがコンセントの裏にパケットキャプチャーツールという、パルスフォンの通信記録を盗聴するための機材を仕掛ける実行役ですね」
関谷さんが栗野さんに自分の役目を説明する。
間違いなく桜歌が教えたのだと思うが、関谷さんもコンセントの裏に仕掛けをする電気工作の知識があるようだ。
「二人とも若いのにスゴイのね。どうか、娘が復学できるように力を貸してください」
「いえ、こちらこそ全力を尽くすので、よろしくお願いします」
「香織、あなたもご挨拶しなさい。こちらの方々が、あなたが復学できるよう力を貸してくれるのよ」
香織さんと呼ばれた栗野さんの娘さんは、母親に呼びかけられても机を見つめたまま銅像のように動かない。
気まずい沈黙がしばらく流れたあと、香織さんはゆっくりと俺達の方に振り向いた。
ずっとうつむいていたので気が付かなかったが、彼女は目が隠れるほど前髪が長く、髪もろくに手入れをしていないのかボサボサだ。
着ている服も無地のパーカーにチノパンという飾り気のないもので、桜歌より二つ年上の少女とは思えないくたびれた雰囲気をまとっていた。
彼女は無言のまま俺達を見つめる。
前髪で隠れているせいで視線の動きを追うことは出来ないが、なんとなく桜歌と関谷さんの二人を見ているような気がした。
「もういい……もういいよ、私、学校辞める」
香織さんは声を出すことに慣れていないのか、少しかすれ気味の声で絞り出すように言葉を発する。
「なにを言ってるの。香織は被害者なのよ、これから三智先生が犯罪の証拠を集めて『売春強要グループ』を退学に追い込むって言ってくれたじゃない。あの人達がいなくなれば、香織だって安心して……」
「三智先生が頑張ったら、その分弁護士報酬は上乗せされるんでしょ。もう、私のためにお母さんがたくさんお金を使うの耐えられない」
「お母さんは、ひどい人達のせいであなたの貴重な青春が奪われてしまうのが耐えられないわ。お父さんも、香織を守るためならお金はいくらでも出すって」
「私に元から青春なんてないッ!!」
香織さんは、血を吐くような叫びをあげてからゴホッ!ゴホッ!と咳き込みながら泣き出してしまう。
「グスッ! お母さん…あの二人と私を見比べて……何も感じなかったの。青春なんてキラキラしたものは、あの二人みたいなかわいい子にしかないんだよ。私みたいなブスは、学校に戻ったってなんの意味もないのッ!」
香織さんは、机に突っ伏し嗚咽する。
大声をあげてむせび泣く香織さんに、俺も桜歌もかける言葉が思いつかない。
ただ一人、関谷さんは静かに香織さんの隣に座り、優しく彼女の背中をさすった。
「香織さん、泣きながらでいいから私の話を聞いてくれませんか? 私、中学1年の時にいじめを苦に自殺未遂したことがあるんです」
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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