第14話
――三智慧人
翌日、俺達は桜理さんが経営する三智法律事務所に行くため三宮駅に降り立った。
時間はまだ9時だったが、神戸市最大の繁華街である三宮の街はすでに多くの人でごった返していた。
桜理さんが経営する三智法律事務所は地下鉄三宮駅を出てから10分ほど歩いたところに居を構えている。
俺達が三智法律事務所に向かう理由は、昨日レストランで聞いた仕事の詳細を詰めるため。
あと今日は、調査の協力者として依頼主に俺達のことを紹介すると桜理さんから聞かされている。
依頼人と対面することになるので、俺の服装は昨日と同じく学校の制服。
関谷さんも華美になりすぎないように、襟がケープ状になった紺色のワンピースを身に着けている。
そして桜歌は、いつも通り着物を着ている。
ただし、今日はリメイクした二部式着物ではなく、昨日フリーマーケットで買ったうぐいす色の着物を、ハサミを入れずに身に着けていた。
着付の仕方が特徴的で、着物の固定には帯を使わず、腰回りに青いストールを巻き付けて着物が崩れないように着付をしていた。
「さすがの私も大島紬にハサミを入れる勇気は無かったです」
「その着物、そんなにいい反物使ってたんだ」
「そもそも紬というのは絹織物のことなんです。よく見れば表面にうっすら光沢があるのがわかると思います」
確かに言われてみると桜歌が着ているうぐいす色の着物は表面にうっすらと絹織物特有の光沢がある。
「絹織物ってことは、その着物かなりお高い奴なのか?」
「新品なら確実に6桁で売られていたと思います」
「6桁かあ」
新品価格は最低でも10万円。
古着とはいえとんでもないお宝を探し当ててしまったようだ。
「一通りチェックしましたが虫食い穴もなかったし、大事にされていた着物なんだと思います」
桜歌は絹織物の感触を確かめるように、着物の袖口を優しくなでる。
「しかし、桜歌って普通の着物の着付も出来るのね。帯を使わず腰回りにストールを巻くって発想はちょっと意外だったけど」
「これは室町時代風の着付なんです。メジャーな帯って実は江戸時代に飾りとして発展したもので、室町時代までは腰回りに風呂敷を巻いて固定することが多かったんです。私は、かわいい柄の風呂敷を持っていなかったのでストールを使いました」
「いいんじゃないか。桜歌は、今日もかわいいと思うぞ」
腰回りにストールを巻きつけた着付は歩くたびにストールがひらひらと揺れて、軽やかなイメージを作り出している。
事前の説明の通り10分ほど歩き続けると、三智法律事務所が入っているビルが見えてきた。
桜理さんが経営する三智法律事務所は、生田神社の西側にあるビル街の一画に居を構えていて、同じビルには飲食店、居酒屋、不動産会社といろいろな会社が入っている。
エレベーターから出ると最初に三智家の玄関と同じくらいの広さの壁で仕切られたフロアに通される。
三智法律事務所のレイアウトは、壁には扉が二つあり、正面に立ちはだかるドアには相談室。向かって右側のドアには事務室と表札がかけられていた。
どちらのドアにもカメラ付きのインターフォンが備え付けられていて、部外者が簡単に入り込めないように工夫されている。
「弁護士事務所って、重要な個人情報を預かすことが多いからセキュリティには結構気を使うんです。私も事務所の方は出入禁止だって言われています」
俺達は桜理さんから事務所に来たら相談室を訪ねるように言われているので桜歌が代表してインターフォンを鳴らす。
「おつかれさまです。三智桜歌、三智慧人、関谷亜沙美の3名。ただいま、到着しました」
「こちら三智桜理。3人の到着を確認しました。カギを開けるから相談室に入ってきて」
カシャっと電子ロックが解除される音が聞こえたのでドアノブをひねる。
相談室は6畳くらいの広さの個室で、四方に木目調の壁紙が貼られ、隅に観葉植物を配置することで落ち着いた雰囲気を演出していた。
部屋の中央には6人掛けの木製のテーブルが置かれていて、そこに3人の女性が腰かけている。
一人は毎日顔を合わす桜理さん。
そして桜理さんの対面に、桜理さんと同年代の女性と、俺達と同年代の少女が座っていた。
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