第13話
――三智桜歌
「お母さん。そろそろ、なんで私達を呼びつけたのか教えて欲しいのですが?」
頼んでいた料理が届き、水泳で消耗した私達がお腹を満たしたタイミングを見計らって私はお母さんに斬り込んだ。
お母さんの職業は弁護士。
いまのところ三智弁護士事務所の経営は順調なので、この店で4人分の食事代を払っても痛くもかゆくもないくらいの大金を稼いでいるが、私と違い家族と仕事以外に興味を持たないタイプの人なので何の目的もなく外でご飯を食べようなんて言い出すとは考えにくい。
「あら、やっぱり裏があるってわかる?」
「いつものパターンですから」
こうやって、外食のお誘いがあるのは弁護士の仕事で私達に頼みたいことがある時だ。
弁護士は人によって得意な案件が異なるが、お母さんが得意とするのは『離婚調停』や『労働争議』、『いじめ』といった、個人や企業を訴えて賠償金を取る、損害賠償系の事件を得意としている。
依頼人が被害を受けたことを証明する証拠がスムーズに集まれば動かぬ証拠を突き付けて賠償を勝ち取れるが、ときには証拠集めが上手くいかないこともある。
「今回は何ですか? 宗教団体から騙し取られたお金を取り返すんですか。それとも、未払いの残業代を請求するんですか」
「今回のトラブルはいじめよ。しかも、犯罪の絡む悪質なやつ。みんなは星華高校って知ってる?」
「知ってます。夏服がすごくカワイイ学校ですよね」
星華高校は灘区に居を構える、いまどき珍しい中高一貫性の女子高だ。
アサミンの言う通り制服がかわいいことで有名で、真っ白なワンピースの腰回りをベルトでまとめた夏服が特に評判が良くて、制服目当てに星華高校を受験する女子生徒も珍しくない。
「依頼人は、星華高校に通う生徒の親御さんなんだけど。不幸なことに娘さんがいじめグループに目を付けられたらしいの。被害の内容は、暴行、私物の窃盗、そして金品の要求」
「うわぁぁ……」
依頼人の娘さんは憧れの学校でとてもイヤな思いをすることになったみたいだ。
女子高で悪質ないじめグループに目をつけられてしまったのは、運が悪いとしか言いようがないが、彼女の気持ちを考えると私も泣きたい気分になって来る。
「どこにでも救いようのないゴミはいるんですね。そういう連中は一度徹底的に痛めつけて人の痛みがわかるように教育しましょう」
「ダメッ!」
「いや、今度はちゃんと死なないように手加減して……」
「そういう問題じゃないから」
ウルクなら悪党を男女平等パンチで成敗してから警察ギルドに引き渡しても許されるが、日本は法治国家だ。
十分な証拠があったとしても個人が私刑をくだすなんて許されない。
「最終的に娘さんは金が払えないなら身体を売って金を作れと言われたらしいの。つまり売春の強要ね。この要求を聞いて彼女は怖くなって学校へ行くのを辞めたわ。いまは、体調不良を理由に休学中。これが8か月ほど前の話よ」
「ひどい話だ。やっぱり犯人を教えてください俺が闇討ちを仕掛けます」
「だから暴力はやめてくださいッ! 日本では暴力では何も解決しません」
「なら、どうするんだよ!? その女の子は泣き寝入りかよ」
「大人しくお母さんの話を聞いてください。彼女が泣き寝入りにならないために、お母さんが動いてるんです」
今聞いた事件の女の子のような、不幸にも犯罪の被害者になってしまった人を助けるのが弁護士であるお母さんの仕事だ。
「でも、売春を強要された段階で学校から逃げたのは、正解でしたね」
「私もそう思うわ。もし脅しに屈して売春をしていたら、彼女は心に消えない傷を負うことになったと思う。
でも、学校からいじめグループを排除しない限り彼女は学校に復帰できないから。
あなた達にいじめグループの犯罪を立件するための証拠集めを手伝って欲しいの」
「証拠って、メッセージアプリに彼女を脅迫するような文言は残ってないんですか?」
最近はメッセージアプリのログも証拠として有効だと認められるので、それがあればスグに被害届を出せるはずだ。
「そこが厄介なのよ。いじめグループの連中、悪知恵だけは回るみたいで脅迫行為は全て口頭で行われていたみたいなの」
「メッセージアプリを作って使って脅迫をすれば証拠が残ると認識しているのか。そうなると、まともなやり方じゃ証拠集めは難しそうですね」
「仕方ないから、二人のどちらかに学校に潜入してパケットキャプチャーツールを仕掛けてもらおうと思って」
お母さんから飛び出したドッキリ発言を聞いて、私とアサミンは同時にため息を吐いた。
「危ない橋を渡ることになって申し訳ないけど、他にいい方法がないのよ」
「まあ、依頼人が有効な証拠を用意できないなら。いじめグループの通信記録をハッキングするしかないですね」
「それに依頼人から聞いた話からの推測だけど、売春を強要されているのは依頼人の娘さんだけじゃないと思うの」
「他に被害に会ってる生徒さんと探し出して被害届を出してもらえば、依頼人が求めるいじめグループの排除は達成できるというわけか」
「みんな、いったい何をするつもりなんだ?」
私達の話について行けず目が点になっていた慧人さんに、お母さんが考えた作戦をかいつまんで説明することにする。
①私かアサミンが女子高生に成り済まして星華高校に潜入し、いじめグループの所属しているクラスにパケットキャップチャーツールを仕掛ける。
②いじめグループの通信記録を解析して、依頼人の娘さん以外の売春を強要されている生徒を探し出す。
③被害者生徒に接触して警察に被害届を出してもらい、いじめグループの犯罪を白日の下にさらす。
④犯罪者となったいじめグループは学校に居られなくなるので、依頼人の娘さんは安心して学校に復学できる。
ちなみにパケットキャプチャーツールとは、パルスフォンから発信される通信データを盗聴するための機械で、ツールが読み取った通信データを暗号解読ソフトにかけて解析することでどんなメッセージを送ったか丸裸にすることができる。
「まあ、そういう感じで私達は星華高校のいじめグループを吊るし上げるつもりなの」
「なるほど……スキームはわかったんですが、パケットキャプチャーツールで通信記録を盗聴するのは犯罪なのでは?」
説明を聞いた慧人さんは作戦にただよう黒いニオイを感じ取って視線が鋭くなる。
「慧人君、日本にはこういう言葉があるの。『法を犯すときは、証拠を残さずバレないようにヤレ』」
「あはは……」
私は思わず苦笑いを浮かべる。
先日、私も慧人さんに同じことを言った覚えがあるが、こういう姿を見るとお母さんと私は間違いなく血が繋がっているんだと思い知らされる。
「あと話を聞く限り、今回の作戦って俺が手伝えることは無いと思うんですが、俺がこの場に同席してもよかったんですか?」
「慧人君には、桜歌と亜沙美さんのボディガードをお願いしたいの。可能な限り接触は避けるように動くけど、敵は犯罪者よ。だから、二人に危害を加えようとする人が現れたら慧人君が守って欲しいの」
「お願いします。慧人さんがボディガードについてくれたら、私達は安心して証拠集めに集中できるので」
「今までは、身に危険が及ぶ可能性があるときはきいにボディガードを頼んでたんだけど、きいって、部活とか家事でけっこう忙しいのよ」
「万が一のためのボディガードですか。確かに、二人に危害を加える奴が出てくる可能性はゼロじゃないですね」
お母さんの説明を聞いて、慧人さんは私達のボディガードになることを快諾してくれた。
「しかし……関谷さん。どう考えても危ない橋渡ることになるけど、本当に付き合うの?」
「当然よ。桜歌の行動を模倣する。それが私のライフワークだから」
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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