84 根来の意気込み
城崎先生は、荷物をまとめて実家に帰るつもりらしい。実家がどこにあるのか、祐介は知らなかった。ただ、祐介は、彼の最後の後ろ姿がなんとなく忘れられなくなりそうに感じた。
城崎がいなくなると、祐介は根来の方に向き直った。
「これから、どうします……?」
「どうもこうもない。あの三人の女子生徒を守るんだろ。あの教室に張り込んでる他ないだろう」
「そりゃ、そうですけど……どこにですか?」
「教室に後ろにロッカーがある」
「寝言言わないでください」
教室を張り込むために、教室の後ろにあるロッカーに隠れるなんて死んでもしたくないな、と祐介は思った。
「そんなことよりも、どうするんだ。城崎先生を帰しちゃって……お前に城崎先生の代わりが務められるのか?」
と根来はもう他の心配をしていた。
「それが自信ないんですよ。ただ僕の場合はまだましです。国語なんて、教科書の小説を読むだけの授業でしょう。僕にならどうにでもなりますよ。たぶん。そういう根来さんこそ、体育、大丈夫なんですか? 彼らにとっては貴重な時期なのですから、ちゃんとした授業をしてあげてくださいよ」
「なに、国語が楽だって? 舐めてるなぁ。良い気なもんだよ。いや、俺の体育はまだマシだよ。生徒に運動を教えりゃいいんだから。お前こそ、間違ったことを教えるなよ? いいか。生徒は先生の悪いところ見てるぞ。そして、覚えてるぞ。馬鹿なことしていると、同窓会でチクチクやられるぞ」
「なんで、僕が紫雲学園の同窓会に出なきゃいけないんですか……」
考えてみると、馬鹿馬鹿しいことばかりである。なんで、こんなところで先生の真似ごとをしているんだ。急に祐介はわずらわしくなってきた。
「とにかく、僕は本当は探偵なんです。先生じゃありません。こんな事件、さっさと解決して、すぐに探偵業に戻りますよ……」
「なあ、羽黒……」
そこで根来は一際真剣な声を出した。祐介は、ぎくりとして根来の顔を見た。根来は、渋ったいものを食べたような表情をしている。そして、ゆっくりと語り出した。
「確かに、お前は本当は探偵かもしれない。お前にとってはほんの仕事上のことかもしれない。でもな、生徒たちにとっては、お前は探偵じゃない。先生なんだ。城崎先生の代わりだ。城崎はあんなこと言っていたが、今の一年E組の担任はお前だ。お前の言ったことはやつらの心に一生残るぞ。もしも、生徒が悩みごとでも相談してきたら、真剣に答えてやれよ。いいか。言葉ってもんは、大切にしないといけない。傷つけたら、もう取り返しがつかないんだ。だからな、何か相談されたら、誠心誠意、答えてやるんだぞ……」
祐介は頷いた。確かにその通りだと思った。そして、同じ言葉を根来に返したいと思った。そういう、あなたも、気をつけてくださいよ、と……。




