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81 羽黒先生は語る

「先生……先生って何の先生なんですか?」

 と一人の生徒の声が響いた。

「先生は、担任の先生です」

 と羽黒祐介は断言した。


「そうじゃなくて、社会科とか……」

 羽黒祐介はぎくりとした。嘘をつくのは嫌だったが、なんとか、早くそれらしい話にしなくては、と自分を急き立てた。

「……国語の先生です。なので、本が好きです。先生は君たちの年の頃、本ばかり読んでいました。例えば、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ探偵譚や、アガサ・クリスティーのエルキュール・ポアロ探偵譚のようなものです。それと、法医学の本を少々……、近現代の社会史と、あとは犯罪心理学の本とか……」

 その話を聞いていた、ほっぺたがふっくらしている男子生徒が口を開いた。

「へえ、なんか探偵みたいですね……」

「ごっほごぉほ!」

「どうしたんですか、大丈夫ですか、先生っ!」

「大丈夫です。それよりも、君、探偵だとかそういうことは言わないでもらいたいっ!」

「えっ、ど、どうしてですか?」

「先生は探偵が嫌いなんです」

 羽黒祐介は、探偵であることが見抜かれないよう、厳しいところを見せなければ、と胸を張った。そして、謎の演説を始めた。


「ええ。先生は、断じて探偵ではありません。なりたいと思ったこともありません。それに君たちはミステリー小説の探偵と本物の探偵をごっちゃにしている。いいですか。君。ミステリー小説の探偵ならともかく、現実の探偵は殺人事件の捜査なんて、しないんです。これは嘘ではありません。考えてもご覧なさい。そんな探偵、噂に聞いたことがありますか!」


 すると、眼鏡をかけた真面目そうな生徒が、見た目からは想像できないほど高い声を出した。

「赤沼家殺人事件の解決に、私立探偵が貢献したってネットに書いてありましたよ?」

「あ、赤沼家、殺人事件……? ほ、ほお。そういう例外的な事例もありましたか。しかし、先生とは関係がありません。先生は赤沼家なんて一族は知らないし、あの地域に行ったこともありません。あの洋館に入ったこともなければ、事件を解決したこともありません。すべて群馬県警におまかせしていました! いや、そうじゃなかった。そもそも、探偵ではないんです!」

「知ってますよ」


 羽黒祐介は、どうもおかしな方向に話が流れている気がした。これでは、自分がおかしい人みたいじゃないか。

「とにかく、先生は国語の先生です。諸君の質問は的外れです。これ以上、的はずれな質問をすると、即留年だと思っていただいて結構です」

「せ、先生、落ち着いて……」

 まわりの怯えた様子を見て、生徒を欺くためとは言えやりすぎたか、と祐介は反省した。


「失敬しました。留年などにはなりません。御安心下さい」

 そう言って、祐介は微笑んだ。

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