79 二人の怪しげな男
三人が寮から外に出ると、ちょうどそこに羽黒祐介と根来拾三が歩いてきた。二人は女子寮の周辺で夜回りをしている様子だった。ハンチングを目深に被り、双眼鏡なんか持ってしまって、女子寮のまわりをうろついている二人の男。他の生徒にとっては見知らぬ顔である。むしろ彼らこそが不審者に見えた。
「祐介さん!」
八重は叫んだ。羽黒祐介はその声に気づいて、人差し指を口の前に立てた。近づくと、祐介は小声でこんなことを言った。
「駄目だよ。こんなところで、祐介さんなんて言っちゃ……。実はね。明日から紫雲学園に潜入捜査をすることになったんだ。先生としてね」
「祐介さんが先生として……?」
八重は、素っ頓狂な声を出した。
「そう。根来さんも一緒にね。だから、僕と知り合いだとか、根来さんが刑事だとか人前で言ってはいけないよ……」
「へえ……」
「他の文芸部員にもこのことを頼んでまわっているんだ。それと夜間は、君たちのいる女子寮を外から張り込もうと思ってね」
「え、ええ……?」
三人を守るために、女子寮に張り込んでくれるのは嬉しいが、男二人で女子寮の外に張り込んでいるところが、万が一、他の女子生徒にばれたら……。
「ちゃんと双眼鏡を買ってきたぞ」
根来は、自信ありげに、持っていた双眼鏡を見せびらかした。
「う、うわぁ……」
八重は、不審者にしかみえない二人の見た目にあらためて絶句した。
「やめた方がいいよ……」
根来は三人の表情をまじまじと見て、
「お前たち、なにか引いてないか?」
と言った。
八重はまた口を開いた。
「明日から先生として潜入捜査するのなら、こんなところで覗きみたいなことしてないで、どっかに隠れていた方がいいよ。誰かに見つかったら即ぶち壊しじゃん……」
「覗きみたいなことって……俺たちはお前たちのことを心配して、見張っているのに……」
根来は、相当ショックだったと見えて、三人に訴えかけるような眼差しを送った。
「そんな目で見ても、まずいものはまずいです。ばれたら、新任の先生が女子寮の覗きをしてたみたいなわけのわからない騒ぎになっちゃうでしょ」
八重は、駄々をこねる子供を叱るように、根来に物申した。
「ちょっと待ってくれ。他にやりようがないだろう。お前たちが命狙われているのを知っているのに、何もしないわけには……お父さんだってなぁ……いや、違う。お父さんじゃない。刑事さんだって……」
根来は思わず、自分のことを「お父さん」と言ってしまった。
「ほらね、やっぱり……」
由依は心を見抜いたようにそう言うと、ふふっと笑い声を出して、一歩前に歩みでた。
「この人、結局、心配性になってるだけなんだよ。今、自分のことをお父さんって言ったの聞いた?」
由依はにやりと笑い、周囲の人の顔を見まわし、厳しくこう言った。
「つまり、お父さんの気持ちなんだよ。それも、娘の交際にあれこそ口を出すような、過保護な男親の心理なんだよ……。娘の携帯の中身をチェックしかねないタイプだな……」
まずい、なんか物凄く責められているぞ、俺、と根来は焦った。なんで、そうなるんだ……。
「まあまあ、私たちのために、警備をしてくださっているわけだから……」
と百合菜は、にやにやしている由依を抑える。
その時。
「あ、そんなことを言っている場合じゃなかった!」
と、八重が唐突に叫んだ。一同の視線が八重に集まった。八重は手にしていた紙を根来に見せた。
「こんなものが部屋のドアの内側に滑り込ませてありました」
「なんだって、こいつは……」
根来は、大急ぎで、紙に印刷された文字を読むと、祐介の顔を見た。
「これは、殺人犯による脅迫状のパート2じゃないか……」
「ええ、そのようですね。しかし、BTとは何のことでしょう」
「そんなことは後で考えればいい。ほら、三人とも、部屋に帰んなさい。そして、鍵を閉めて寝るように。お父さんたちは、外で見張ってます……」
お父さん、お父さんって、お前、一体、誰なんだよ、と由依は思った。
……しかし、三人は言われた通り、女子寮に戻った。




