77 どんなことでもする
その時、百合菜の瞳に、天井が映った。
……と、同時に風の音が聞こえた。それは窓の隙間から吹き抜ける風の音で、絶え間なく聞こえていたはずのものだったが、我にかえってみると、回想に耽っていた彼女にはずっと聞こえていなかった。
(そうだ、私はここにいる……)
百合菜は胸の中で呟いた。兄が死んだ時のことが今の出来事のように鮮明に浮かび、彼女を夢の中にいざなっていたが、我にかえると、彼女が生きているのはまさしくこの風の吹き抜ける部屋の中なのだった。
百合菜は、上半身を起こした。風の吹き抜ける音は、意識しなければあたかも存在しないもののように、かすかに響き続けていた。百合菜は意味があるものを発見したように、その窓の隙間をじっと見つめた。
(しかし、あの出来事があって、私がある……)
百合菜は、はっとしてベッドから立ち上がると、机に向かった。
そこには一冊のノートがあった。
百合菜は、しかし、瞼を閉じた。
百合菜は、兄の死後のこと、つまり、父が死んだ日のこと、義理の母に捨てられ、自分は叔父夫婦に預けられた日々などを思い返した。しかし、それらの日々は兄の死ほどには鮮明に浮かんでこなかった。その頃は長い、無着色の日々であった。思うに百合菜の中学の三年間は、兄の死の長い余韻と、父の死やその他のさまざまな苦難のために忙殺され、ゆとりのある精神的な日々を送れていなかったようだった。そのことが、空白の三年間というマイナスの印象を彼女に与えていた。
彼女はそこで瞼を開き、ノートを開いた。そこには紫雲学園の七不思議に関するメモが記されていた。
そこには、百合菜の文字で「紫雲学園文芸部に残されているはずの兄の小説を発見する」と書かれていた。
(そうだ、私はこれを探している……)
そのために百合菜は、文芸部員の八重を利用して、文芸部に入部しようとした。いや、それだけじゃない。そもそも、八重が文芸部員であることを百合菜は知っていた。知っていたからこそ、百合菜は八重に近づいたのだ。否、偶然に近づいてきた八重を利用したのだ。八重に、七不思議のことを明かしたのも、真相をちらつかせたのも、すべては兄の小説を読むためであった。
(でも、このことを八重ちゃんが知ったら、どう思うだろう。兄の死の真相を知ること、兄の小説を読むという目的のために、八重ちゃんに近づいたのだと知ったら、八重ちゃんは私をどう思うだろう。あの子は私を本当の友達だと思って、それで、本当に力になりたくて、ああいう申し出をしたんだ。私はそれを利用したんだ。自分のために、自分の兄のために。そこに真実の友情はなかったんだ。それをあの子が知った時、どんなに傷ついて、あの子は私をどんなに薄情だと思うだろうか……)
百合菜は、胸の底から込み上げてくる罪悪感にうっと息を漏らすと、慌てて、考えるのを止めた。そして、声に出してこう言った。
「私は、兄の死の真相を知るためなら、どんなことでもすると決めたんだ……。どんなことでもすると……」
それは呪文のように、彼女の口の中で繰り返された。




